告白
僕が、ここに通っている事は、
誰も知らないから。
言ってしまうかな。
え?
警察呼ぶような、
事じゃないよね。
違うよ。
あまりにも親不孝な望みだから。
誰にも言えなかったんだよ。
黙っていられなくなったんだ。
うん。
飲み過ぎたかな。
いいよ。
お客は、きみだけだしさ。
そうかい。
マスター、ありがとう。
死ぬときの、理想なんだけどね。
うん。
僕はさ。
親きょうだいに見守られながら、
あの世に行きたいわけ。
ええ。
ご両親は70過ぎだろう?
あまりに酷だよ。
息子を見送るなんて。
そう。
わかっているんだよ。
あくまで。
理想だからね。
僕の不在で、
苦しめたりしたくないよ、
もちろんね。
どうして、そう思うんだい。
家族が、まわりにいてくれたら。
何も怖くない気がするんだよ。
すごく安心して行けそうな。
それは。
わからないでもない。
でしょ。
それにさ。
僕は末っ子だから。
順調に年齢順に行くなら、
最後になる訳でしょ。
みんながいなくなったあと。
ひとりで行くのは、嫌なんだ。
だけどきみ。
これから、誰かと。
連れそうかもしれないだろう。
うーん。
まったく、想像つかないな。
安心感。
わかる気はするよ。
親不孝だけどね。
うん。
わかっているんだよ、
ちゃんとね。
2人で笑った。
それからわずか、ひと月後。
彼はバイクの事故で帰らぬ人になった。
夢に出て来て、彼は言った。
ねえ、マスター。
お願いがあるんだ。
理想どおり、
みんなに見送ってもらったけど。
あんなに、
声が出せないと思っていなくてさ。
先に行くことで、
みんなにはつらい思いをさせるけど。
僕は、嬉しいんだ、
とても安心しているんだ、
って、伝えられなかった。
だから、みんなはとても悲しんでる。
僕が、若くして死んで、
可哀想だと言って。
泣いてばかりいるんだ。
だから、僕の家に行って、
伝えて欲しいんだよ。
いいよ。
家は、どこ。
奄美大島。
ずいぶん、遠いな。
頼むよ。
わかったよ。
そうして奄美大島に行った。
さすがに夢を見て、とは言えず。
彼が店で話していた事をそのまま伝えた。
お姉さんは、泣きはらした目で、
彼の遺影を見て言った。
あの子らしい。
甘えたで。
お兄さんは、寝癖をつけたまま、
青い顔で、頷いて言った。
だから、死に際。
あんなに安心したような。
顔だったのか。
ご両親は、涙を流して頷いた。
帰りの飛行機のなかで、夢を見た。
マスター。
ありがとう。
みんなが、やっと笑って。
僕のことを話してる。
嬉しそうに。
彼は言った。
2024.4.4
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