表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福の道標  作者: Retisia
第二章 人形の館
59/67

7話 トルソーの書斎




「なるほど……生物の魂を使って、ですか」



 確かにレティシアは話の要点だけを話していた。しかしそれだけでは行使できるレベルのものではなく、万一に備えていたルネも安心して聞いていられた。もしかしたら、またやらかすのでは? と警戒していたのだ。


 その説明によってレティシアが何に警戒しているのか理解したのだろう。ナーザリルトが少しだけトルソーへの疑いの心を持ったことを傍から見ていたルネには感じられた。そしてそれはレティシアも気づいている。



「……ナーザリルトさん、私はあなたの主が生贄術を使ったのではないかと疑っています」

「……はい」

「世間に……いえ、国家に生贄術を知られるのは危険が過ぎます。私はこの術を世に出したくないのです。酷く身勝手な願いですが、この館の調査をさせてもらえませんか?」

「……」



 ナーザリルトは口を閉じた。

 それも当然だろう。ここはトルソーの館だ。本人の許可なくレティシアの願いを是とすることはできない。そしてその本人は行方がわかっていない。断るのが当然なのだ。


 ただ、ナーザリルトは考える。


 断ればレティシアがどう出るのかがわからないのだ。

 ナーザリルトから見て、レティシアは生贄術に対して相当の警戒心を持っている。そんな人に疑われている今、強行手段――そう例えばこの館ごと、消滅させるなんて手段を取られる可能性を無視することは出来ないのだ。


 仮に、レティシアが出来ないにしても、隣の男、これは絶対にできる。その確信に近い予感がナーザリルトにはあった。


 なにより、レティシアの言っていることには外を知らないナーザリルトでも納得のいく理由だったから。判断の分け目はそこだった。



「――わかりました、いいでしょう。しかし勝手な行動や物の破損などは止めていただけると…」

「ええ、わかりました。その程度の条件は飲みましょう」



 結局、ナーザリルトはレティシアの願いを聞き入れた。


 話の決着が済んだのを確認したルネがナーザリルトに問いかける。



「……よかったのですか?」

「……はい、トルソー様の使用人としては最低の答えですが、やはり私も知りたいのです」

「そうですか。ありがとうございます」



 心配の言葉を吐いたとしても、あくまでルネはレティシアの味方だ。その方針には、なるべく反対はしないことにしている。

 事実、ルネがナーザリルトを助ける機会はいくらでもあったが、それをしなかった時点で掛けた言葉は形だけ。



 何度でも言おう。

 ルネは、レティシアの味方だ。




□□□



「では、こちらです」



 ナーザリルトの案内でまた、不気味な絵画が並ぶ通路を歩く。

 レティシアが最初に行くことを決めたのはトルソーの書斎だ。自室なのだから何かあるだろうと思ってだが、基本はなんとなくである。その本音に気づいていたルネだが、結果的に順当な選択だったので呆れの顔をした程度でなにも言わない。


 そうこうしている内にナーザリルトは立ち止まり、言う。



「つきましたね。ここがトルソー様の書斎となっています」



 止まったレティシア達の前にあったのは木製の、今すぐにでも壊れそうな扉の部屋。それがトルソーの書斎だった。

 扉の両側には丸井テーブルと、その上に花の入った花瓶が置かれている。花瓶の水が新しいことから、ナーザリルトがここによく訪れていることをレティシアは察した。



「ここですね」



 扉は時間経過で古びたのか、元々がそうなのか二人には分からないが外見など何でもよいと、とにかくレティシアは中に入ろうとする。



「……? どうかしたか?」

「なるほど、そういうことでしたか」



 どうしたのだろう。扉のノブに手を掛けたまま開けようとしないレティシアにルネは疑問の声を投げかける。



「この部屋は開かないのですね…」

「開かない? それは、力尽くでもか?」

「はい、おそらくですけれど。……何らかの力が働いている、わかるのはそれだけです」



 ノブから手を離したレティシアはナーザリルトの方を向く。



「ナーザリルトさんは、知っていたんですね」

「……はい、申し訳ございません。決して悪気があって黙っていたわけではないのですが……」

「いえ、それは構いません」



 申し訳なさそうに、ナーザリルトはレティシア達に向けて頭を下げる。

 レティシアは特に何も思っていない。いや、ナーザリルトの狙いを考えると仕方ないとまで思っていた。


 ナーザリルトの狙い。

 それは何の先入観もなく開かない扉を前にどのように対処するか。もっと言えば開ける方法の参考にしたかったのだ。もちろん、扉が開いてしまってもそれはそれで構わないと考えているのだろうとレティシアは推測していた。


 だが特に調査に支障が出るわけではないので非難することはない。

 ナーザリルトが協力してくれるのは変わらないのだから。


 レティシアはふと、気になったことを尋ねた。



「聞きたいのですが、ここは何時から開かないのですか?」

「この書斎はトルソー様がご滞在の時からこうです。トルソー様からは主本人しか開けないようになっていると聞かされています」



 なるほどと一つ頷き、人差し指を唇に当てながら思う。



(そうなると……ええ、開ける方法は他にもありそうですね)



 自分しか開けられない場所などは大体の確立で他の開示方法がある。家の鍵ならスペアキーが、暗号ならそれに伴ったヒントが、わかる者の為に置かれている。常識的に、そういうものだ。

 だから、開かないからと行動の仕方が変わることはない。



(とにかく、今私がすることは館全体を見て回ることでしょうね)



 情報が少なすぎることで結論を出せないのでこれもまた、順当な手段だ。



「ここにいても状況は変わりませんし、他の場所を見てみましょうか」



 長くなりそうですね。

 そう思いながら、書斎の扉を見つめて言ったのだった。




 










【次回予告】

2月19日に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ