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幸福の道標  作者: Retisia
第二章 人形の館
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2話 セナ・ライプ

2話








 出発して3日程経った旅は順調の一言で、徒歩にも関わらず楽々と道程の半分を踏破した。理由としては二人ともが重量に関係なく物を持てる術があった事、ただ純粋に移動速度が速かった事だろう。



「そろそろ次の街に着くな。良い頃合いだし、今日はその街に泊まろうか」

「わかりました。何と言う街なんですか?」

「確か―――『セナ・ライプ』と言ったはずだ」

「……あまり街らしい名付けではありませんね」

「まぁ、珍しい部類の名前だな。由来は俺も知らない」



 ふむ、と一瞬考えるとレティシアはちょっとした提案をする。



「少しだけ街を散策する時間を作りませんか?」



 提案を聞いたルネは意外だといった顔をした。それも当然だろう。今のレティシアは復讐を第一に考えていると思っていたのだ。そもそもそんな提案が出ることすら想像外だった。


 しかし嬉しい傾向でもある。

 他を考える余裕があるとないとでは人生の全てが変わってくる。例えば普段の生活や戦闘時、レティシアが望む復讐でさえだ。


 余裕があることが、復讐の想いが薄れた理由にはならない。それどころか静かな牙は虎視眈々と研ぎ澄まされ鋭くなる。その切れ味はどんな強者にも届き得るのだ。


 だからルネは返答を返す。



「……あぁ、勿論だ。これはレティシアさんの旅なんだ。レティシアさんの好きに動けばいい」

「…ありがとうございます」



 余程嬉しかったのか、どこかウキウキとした雰囲気をルネは感じた。レティシアは修道服に似た服で大きく広がっている袖をゆらゆらと揺らしている。

 無表情ながらこれ以上ない可愛らしさだ。


 そんな愛らしい光景を見ながらルネは思う。



 (これに留まらず、もっと沢山に目を向けることが出来たら………きっとレティシアさんはもう、失くす前に気付かないなんてことにはならないだろうな)



 そうあって欲しいものだと、ルネは頭の隅で願った。













 『セナ・ライプ』は少しだけ古さを感じさせるレンガの敷かれた街並みだった。



「へぇ、道はレンガで出来ているのか。久しぶりに見たな」

「私は初めてです。カルセナクの道は『合成鉄』で出来てましたから」



 合成鉄は砂と鉄を混ぜた特注の最も新しい金属だ。だが新しいと言っても何百年も昔に作られたのだが……。しかし主要な都市では建築関係で絶対に使われる素材だ。


 レティシアは初めて見る景色を目一杯に入れる。山なりな道を歩いていると生活感溢れる場所に出た。おそらく住宅地なのだろう。そこの一画でレティシアは無意識に足を止めていた。


――ほんの小さな空き地、そこが目についた。



「………」



 そこには笑顔があった。

 些細な『幸せ』があった。


 たくさんの子供が遊んでいる。近くでは子供達の母親達が優しい瞳で見守っていた。通り掛かる人も子供の笑顔を見ては微笑んでいった。


 自分にもこんな時期があった、なんてらしくない思考を打ち消して先を歩こうとした。ふと、頭の上に暖かい何かが乗った気配がした。上を向くとルネがレティシアの頭に手を乗せていたのだ。素知らぬ顔をしては少しだけ乱暴に撫でられる。



「…この先に宿があるらしい。行くぞ?」



 返事も聞かずにルネは何でもないように先を歩く。待つこともなく振り返ることもなかった。それでも、レティシアにはルネの優しさが伝わるのだ。



「…ふふ………はい」



 既にレティシアの内にあった暗澹とした心は消えていた。





□□□




「さて、やることも終えたし、そろそろ散策でもしてくるか?」

「そうですね。行きましょう」



 宿を探し終えるとルネは早速と言わんばかりに告げた。まだ昼を過ぎた辺りなので時間的にも余裕があると思い提案したのだが…。



「なら俺は宿で留守番でも」

「え?」

「……ん?」

「………一緒に行くのですよ?」

「…そうなのか?」

「はい」



 心底不思議そうに顔を傾げながらルネを見つめる。

 レティシアは元からルネと二人で散策をするつもりだった。そもそもが二人でないと提案もしなかっただろうが……。



「わかった。なら行こうか」



 当然、ルネに拒否はない。

 宿に残ると言ったのも、レティシアが一人で出歩きたいと思っての配慮の様なものだったからだ。



「はい」



 頷いたレティシアは少しだけ、弾んだ声で返事を返したのだ。










 なんとなしの散策が出来る程セナ・ライプは狭くないので常時空いている個人的な店を中心に見て回ることにした。



「なるほど、面白いな」



 ルネがふと興味を惹かれたのはひとつの小道具だった。



「棒に鎖型に切られた紙をたくさん付けていますね。さっきの露店でも売られていましたよ? これの何が面白いのですか?」

「こういった物はな、基本的に祈願とか儀式とかに使われやすいんだ」



 ルネは手に取りシャラシャラと振るう。



「はい、それは私も知っています。魔術で儀式をする際に似たような物を使った記憶がありますので。カルセナクの祈祷祭(きとうさい)でも似たような物が使われていましたし…」

「ああ、でもな? 色々街を回って判ったけど、この街にそんな祭りは無い」

「……?」



 だからどうしたと言わんばかりにレティシアは首を傾げた。



「こんな特別な時意外で使うことのないこれが、さっきの露店でも、そしてここでも売ってるんだ。そう考えたらちょっだけ面白いなと思ってな」

「……店主の趣味では?」

「かもな」



 色んな物を見て回ったが、やはり興味が惹かれる何かをレティシアは見つけられなかった。だが目的は物でも、散策でもない。ルネと二人で何かをする事だ。そう言った意味ではレティシアはしっかりと目的を果たしていた。



「あの……」



 そろそろ戻ろうかと考え始めた頃、一人の少女に声を掛けられた。



「はい、なんですか?」

「あ、あの、えと………」

「落ち着いて……ゆっくりでいいですよ」

「は、はぃ…」



 レティシアは腰程しかない少女に合わせて屈んでは、慌てている少女を落ち着かせる。少女が、何か緊急を要する事を伝えようとしていた訳ではないと雰囲気で分かった。レティシアも焦る用事もないのでゆっくりと聞いた。やがて落ち着いたのだろう。少女は話す。



「……あの! お花を買いませんか!」

「花、ですか?」

「はぃ……」

「………そうですね。では、1輪貰いましょう。……頂けますか?」

「ぁ……ありがとうございます!」



 大体の事情を察したレティシアは特に深い追及もなしで少女から花を買う事にした。少女の嬉しそうな顔に、割に合う事をしたと思った。



「ど、どうぞ!」

「はい、ありがとうございま―――」



 花を受けとる寸前、横から手が伸びては花を拐っていった。



「……ルネさん?」

「…………………君、この花をどこで見つけたんだ?」



 花を盗ったルネに疑念を込めて名前を呼んだが、ルネ本人はそれに反応はせずに花売りの少女に尋ねた。



「え、えと……近くの、おじさんのお家のを、も、もらっ、貰ってます」

「……そうか。………いや、すまない。見事な花だなと思ってなぁ。よかったら、今持っているを全部くれないか?」

「えっ!? ぜ、全部ですか!」



 少女は2~3輪買ってくれる程度と思っていたのだろう。まさか全部と言われると思うはずもない。少女はとても驚いていた。



「ああ、駄目か?」

「い、いえ! そんなぜんぜん! あ、ありがとうございます!」



 ルネは財布から数枚の銀貨を取り出して少女の手に乗せる。



「……え、あれ? ぎん、か?…………銀貨!?」

「ほれ」



 ぽとりと少女の手に銀貨を乗せた。



「ぎ、銀貨って…だ、ダメですよ!? だってだって! これ1つで半年は食べられるってお婆ちゃんが言ってましたし。う、受け取れません!!」



 初めて見たと一目でわかる反応にレティシアは優しい目になった。素直は良いことだと一番の親友がいたレティシアは知っているのだ。是非ともこのまま育ってほしい。



「ただの気まぐれだ、気にするな」

「で、でも!」

「気にするな」

「いや、あの…」

「気にするな(圧)」

「は、はいぃ!」




 花を籠ごと受け取り、少女と別れると本題とばかりにレティシアはルネに目を向けた。その視線に苦い顔をしたルネが答える。



「―――これは麻薬を生成できる花だ」



 その一言で状況を察した。



「…なるほど、だからですか。なら犯人は花を渡した男でしょうか。どうにもやり方が拙い……いいえ、考えなしなのですが」

「そうだな、俺もそう思う。もしかしたら他に裏で手を引いている奴等がいるのかもな」



 ルネは手に持った花を籠ごと消し飛ばすと、苦い顔をしながら言った。



「申し訳ないけれど、あとで探ってくることにする」

「一緒に行きます」

「いや、大丈夫だ。あの少女が麻薬なんかに関わらないようにするだけだからな。俺だけでいい」

「……………………わかりました」



 どこか納得いかない雰囲気を出しているレティシアに思わずルネは苦笑をして、歩き出す。



「そろそろ宿に戻ろう。夕食の準備もしないといけないからな」

「…はい」



 また、思わず苦笑を溢したのだった。

















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