1話 出発
鮮やかな紅葉がまばらに顔を出し始めた頃。
レティシアは一人、とある山にいた。
目の前には顎に当たる程の大きさの岩――墓が立てられている。
ベレニス・ネイア
ヴェイン・ネイア
その墓にはレティシアの両親の名前が刻まれていた。
あの日、カルセナクで起こった事件から数ヶ月が経った。その間、レティシアは誓った復讐の為の準備に忙殺とも言える時間を過ごしていた。
カルセナクは当然の様に封鎖となり、立ち入りが禁止となっていた。反発は大きかったようだが続く道の途中を閉ざされてしまえば諦める人間は多かったようだ。
それでも諦めない者たちは道のない森を進んでいたが、ルネが加減なく威圧しながら走った影響か、魔物が荒れに荒れていた森を突破できた者は今だいないとルネ自身が言っているのをレティシアは聞いた。
そして今、王都への出発の時を向かえていた。
この場所に居るのは出発する前にもう一度、毎日と来ていたこの墓でレティシアは向かい合わなければならなかったからだ。
…………果たせなかった誓いから。
「……お母さんお父さん、私はこれから復讐で沢山を殺します。…………きっと、後悔も多いでしょう。泣いてしまう事も、苦しい事も、沢山あるはずです」
墓の前で、俯きながら最後の報告をしていく。右手は胸の前に添え、自分の覚悟を再確認していった。
勘違いも多いが、本来レティシア・ネイアは心優しい人間だ。無為に何かを殺すことはないし、傷つけない。レティシアの誓いは明らかに自分の性質から離れていることからこそ、その誓いは何より重い。
二度と揺るがないと誓いを固め、そっと顔を上げる。
「でも、それでも、私は前に進みます。定める道がない私ですが……きっと『幸せ』になってみせます」
赤い瞳に静かな決意を宿す。レティシアは両親には幾度となく言われていた。
―――幸せになれ。
―――人を思いやれる人間に育って欲しい。
―――レティシアの選ぶ『道』が幸福であるように。
そう、何度も聞いたのだ。
だからこれはレティシアの自分勝手な誓いじゃない。両親への愛に溢れた親孝行だ。
そうしていると、もう時間だと気づく。
「では、私は行きます。…………次、会えるかは分かりませんが……どうか、見守っていてください」
レティシアは森を後にして、ルネが待つ家に向かった。
□□□
家の前にはすでにルネが待っていた。
「お帰り、レティシアさん」
柔らかい笑みを浮かべたルネに次第、レティシアも心が笑みを浮かべた。
「はい、ただいま戻りました」
ひとつ頷いたルネは話し始める。
「それじゃあ、王都に向かおう。今、王都付近は【愚者の軍勢】の所為で慌ただしいから面倒事も多いが……その分検閲も甘くなっている、と思う。まぁ、比較的楽に入れるはずだ」
「はい」
この数ヶ月間で王都で、大規模な反乱があったらしい。主導は【愚者の軍勢】だということは判っているが……その目的はいまだ不明だった。ただ、騎士団を動かして数ヶ月経つが王は更に騎士を増員していると聞いた。明らかに国としておかしい行動にルネは首を傾げていた。
そもそも【愚者の軍勢】は数年前に聞くようになった新興組織。大規模な粛清が行われたラオバーン聖国に今も根付いている大組織【灯籠】に比べれば少ないのは確実だが、ルネとしては急性過ぎると思わざる得ない。因みにレティシアは【灯籠】の名前すら知らなかった。世間への興味は相変わらずないらしい。
(大して王都から離れていない、この付近でも一応活動はあったんだけど………それだけ上手くやっているということか。レティシアさんが知らなかっただけか……どちらでもいいか)
ふと、そう思ったルネは神妙そうに相づちを打つレティシアを見て、苦笑を入れながら小突いた。
「ぅ……」
「そんな顔をしてても仕方ないぞ? 気楽にいこう」
「……ふぅ、はい。そうですね」
「ああ、なら、出発だ」
目指すはジクニア王国王都。
レティシアの復讐を終わらせる旅が始まった。
「動いたぞ」
「はい、動きました」
「ようやく次に行けます」
「物語が動きます」
「次は何?」
「あれは何?」
「目的を調べよう」
「価値を見出だそう」
「そうだ、それがいい」
「――――我らが神の再誕の為に」
「再誕の為に」
「再誕を」
「復活を」
「蘇生を」
「再生を」
「邪な神の為に」
よ、邪な神だってぇ!?
いったい、どんな奴なんだ!
(作者も知らない)




