表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は帰宅の夢を見る  作者: 桃狩白桃
3/7

第3話

あきちゃんが泣き止むまで背中をさすり続けていた。

自分に娘がいたらと思うと、この温もりが愛おしくなってくる。


守らなければならない。


父親がなぜ娘を置いて先に行ってしまったのかは分からないが、いない以上自分がこの子を守らなければとそう思った。

そしてノートに書かれていた脱出方法について思い出す。


「朝の電車に乗れば帰れる」


魂鬼から朝まで逃げ切れば良い。

駅舎は安全の可能性があるようだが、この情報は不確定だから安心できない。

この民家と駅舎のどちらかに身を隠しつつ奴と対峙した時の対処も必要だ。

でも魂鬼と真正面からやりあっても勝てはしないだろう。

身を守る武器を持ちつつ、罠を張って身を隠す。

うん、これしかない!


何故かあきちゃんを助けたいという気持ちが勇気とやる気を湧き起こす。

こんなに吹っ切れた気分は久しぶりだった。


ざっと頭の中で武器と罠をシミュレーションする。

イメージが固まればあとはやるだけだ。

あきちゃんの目線までしゃがみ、顔を見つめる。

赤くなった目を必死に袖で拭いている。


「あきちゃん、絶対にお父さんのところに帰ろう。」

「朝の電車まで魂鬼から逃げきるんだ。」

「僕は準備をするからあきちゃんはこの家の中で隠れて絶対に出て来てはいけないよ。」


「嫌だ!」


あまりの大声に耳がキーンとする。


「もうどこにもいかないで! ひとりにしないで!」


泣いて掠れた声は僕の服の中へと吸い込まれる。

たった一人でどこかに行った父親を待つ子供の気持ちを考えると胸が痛い。

罠を作るための材料を集めるには家の外に出なければならない。2人での行動はあまりに危険すぎる。

説得するべきか、連れて行くべきか......


ガタ...


何か今、窓の方で音がしたような。


そっと窓の方を見て凍りつく

ギョロリと動いた黒い点と目が合う。


「ミ" ツ" ケ" タ"」


バリンッとガラスが割れる音を合図に、あきちゃんを抱えて走る!

室内に突進して来た魂鬼は食器の入った棚へと突っ込んだ。


奴がガリガリと悶えている間に出口まで走る。

出口を出ると、草だらけの斜面を一気に滑り降りる。


(駅舎内は安全? 信じて大丈夫か?)


ノートの内容をどこまで信じるかだが、今はそれにかけるしかない。

自動販売機の光に踊る虫をはねのけて駅舎の戸に手をかける。


ガラ...


すぐさま戸を閉める。


バタン


ガギギギリリリリリ......


魂鬼の鋭利な腕が戸に突き立てられる。

木製の戸だが、傷一つつくことなく耳障りな音だけを発した。


どうやら駅舎が安全というのは間違いなさそうだ。

魂鬼は戸のあたりをウロウロとして中に入ってはこない。


ブハァー

一気に緊張が解ける。

この駅舎で朝までいればそれで良いのだ。

そう思った途端に色々と頭の中にあった不安要素が晴れて行った。


「おじさん、痛い」

「あ、お、ごめん」


ここまで走って来るまでずっとあきちゃんを抱えたままだった。

無我夢中だったのか重さを全く感じず、今も落とさないようにきつく抱えていた。

ゆっくり下ろすと椅子の方に走っていき、ちょこんと座って隣の椅子をペンペンと叩いた。

隣に座れということかな。

あきちゃんの横に座り、戸の方を振り返ってみる。

魂鬼の姿は見えないが、ガサガサと草の上を歩く音は聞こえる。

安全とわかったとはいえ落ち着かない。

時計を見ると、短針は夜の9時を回っていた。

朝までは長そうだな。


***


スースー


泣き疲れたのか動き疲れたのか、あきちゃんは隣で寝てしまったようだ。

自分も寝たほうが良いだろうか。

寝てしまえばすぐに朝になるだろうが、寝て何かあって二度と起きることがないなんて考えると怖い。

落ち着かないし、このまま眠れもしないだろうから駅舎内でも見ておこうか。

立ち上がろうとすると、急に動いたためか運動不足の体が悲鳴をあげる。

なんとか立ち上がり、駅長室を改めて確認して見る。


ガチャガチャ


やはり鍵がかかっている。

ドアノブに鍵穴があるので鍵さえあればあきそうだが、駅長が持っているなら諦めるしかない。

ふと、あきちゃんが空き家の鍵をポストのところから取り出したことを思い出す。

以外に田舎ってのは鍵を近くに隠して置いている場合もあるのかもしれない。

駅長室がそんなずさんな管理なわけないと思うが......

駅長室窓の下にある棚を開けて見る。

時刻表や絵本が入っているが、鍵らしきものは見当たらない。

もし自分が隠すならどこにするだろうか?

目に入らないところ

誰も触れないところ

自分にしか届かないところ......

ふと上を見て見ると、駅長室の扉上は出っ張りがある。

自分の背でも微妙に届かないところだ。

棚に入っていた本を重ねて足場にする。

絵本などを踏み台にするのは少し心が痛むが一番上を時刻表にして考えないことにする。

手を伸ばして出っ張りの上を手で探って見る


チャリ


「お、あった!?」


手につかんでいたのは鍵だった。

タグには非常時合鍵と書いてある。

心の中でガッツなポーズをとりつつ駅長室のドアノブに鍵を差し込んだ。


カチャリ


おお!開いた。

恐る恐る扉を開けると、畳の独特な匂いが鼻をついた。

扉脇にあった電気のスイッチを入れると、パツパツンと蛍光灯が駅長室を照らし出した。

そこそこ広い、8畳くらいはあるだろうか。

手前の窓側にデスクが置いてあり、その右に書類棚、奥に段差のある4.5畳ほどの居間がある。

そして奥には小さな扉があり、給湯室の札がついていた。


椅子の上で寝ると疲れるだろうから、あきちゃんを畳の上に移動させる。

毛布が角にあるのでカビてないかを確認してお腹までかけておく。


給湯室でお湯でも沸かせないかと扉を引いてみたがビクともしなかった。

鍵穴はないからさっきの出入り口と同じで固定されて開かないようになっている。


デスクに腰をかけて背もたれに体重を預ける。

どっと疲れが出たのか、もう立ち上がる気になれず、デスクに突っ伏した。

ここからは魂鬼の存在が見えないからか何処かで気が抜けてしまったようで、急に眠気に襲われそのまま目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ