第六話 現状確認
「う……うん……」
ここは……私……何して……
「おや?ようやく起きたかい?」
「ひっ!?」
その声を聞いた瞬間に、まだ朧げな目がカッと見開かれ、維織に対し怯えたような眼差しを向けた。
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。もうあのサソリの化物は全部死んだからさ」
「……っ!」
うーん、まだ警戒してるなぁ。どうにかして警戒を解いてもらわないと……
「傷つくなぁ、これでも僕は君の命の恩人なんだよ?もう少し、警戒を解いてくれてもいいんじゃない?」
「え……あっ!そうだ私確か……」
お、ようやく思い出してくれたかな?
「あ、あの……その……助かりました」
……まだ怯えてはいるけど、まああんな怖い目にあったし当然か。さっきより警戒は解いてくれたみたいだし。
「気にしなくていいよ。目の前で死なれると僕も目覚めが悪いからね」
「いえ、それでも……助けてもらったのは事実ですし……ありがとうございました」
「だから、そんなかしこまらなくていいって。……それより色々と聞きたいことがあるんだけどさ」
そう言い、目の前の彼女を見る。
土で汚れてはいるが二重のぱっちりとした目が印象的な顔立ちをしており、彼女の小柄な体格も相まって美しいというよりは可愛らしいという表現が似合う容姿をしていた。少し赤が混じった茶髪を一つにくくっているところも彼女の魅力を引き立てている。
可愛い人だね……こっちの世界でも容姿に関しては変わらないのかな?でも異世界だし……
すると不思議に思ったのだろう首を傾げながら、おずおずと声をかけてきた。
「あの……どうかしましたか?」
「っと、いや何でもないよ。……さて、まずは名前を教えてくれるかな?」
「あ、はい。私はユリム=マールといいます。」
「ユリムさんね。じゃあ僕も自己紹介といこうか。僕は日向維……あー、こっち風に言うとイオリ=ヒュウガって名前だよ」
そうか、ここは異世界だったね。やっぱり名前も日本とは違うんだ。
「ヒュウガさんですか……あの、失礼ですけどこっち風と言うのは……?」
「イオリでいいよ。こっち風っていうのはね……僕はその、こことは別の大陸から来たんだ。ここからはるかに遠い東の島国なんだけど、そこでは名前をこことは反対に読むのさ」
少々強引な気もするけど、誤魔化せるかな?
「そうなんですか、別の大陸から……ですからそのような服装をしているんですね」
「ああ、この服のこと?そうだね、これも僕の国では当たり前の服装なんだけど、こっちには伝わってないみたいだね」
よかった。なんとか誤魔化せたみたいだ。……まぁ、正直に異世界から来ましたとか言っても信じないだろうしなぁ。
「でも、そんなイオリさんがどうしてここにいるのですか?」
あー、やっぱり気になるよね。……さてどうするか……本当の事を言ってもいいけど、この人があの山賊みたいな人達の仲間ってこともあるしなぁ……どうするか……よし!
「実は――」
維織は何故自分がここにいるのか、その経緯を転生してきたという事だけを伏せ、すべてを語った。
さあ、この話を聞いて君はどうする?……もし君があの山賊の仲間で僕を襲おうというのなら……ここで死んでもらう。
右手をポケットの中に入れ、水晶を強く握る。
「……そうだったんですか、山賊達に……本当にご無事で何よりです。彼らはただの山賊達とは比べものにならないほど危険な存在です。本当によかった……」
……どうやら、本当に心配してるみたいだね。敵意も感じないし、変な素振りもない。……ふぅ、ひとますまは安心かな。
「僕の事に関してはそんな感じだよ。じゃあそろそろユリムさんの事について教えてくれないかな?」
「そうでしたね。私の事についても話しましょうか。……私はこの大陸にある王国、メルクルド王国周辺で活動している冒険者の1人です。……冒険者というのはご存知ですか?」
「あんまり詳しくないけど、雰囲気はね。なんとなくわかるよ」
「私はB級冒険者として活動していました。内容は魔物に関する情報収集や魔物討伐時の後方支援を主にしていました」
冒険者……本当にファンタジーの世界だねここは。
「私がここに来たのは依頼があったからです。……その内容は山賊達の調査、そしてこの逢魔の谷の調査です」
「山賊達の調査って……そんな悠長な事しなくても、一気に冒険者と王国が協力でもして倒せばいいんじゃないの?」
「それは……出来ないのです……」
「何で?」
「それはその……彼らの実力が冒険者にも手に負えないような強さだからで……」
「そんな手に負えないような敵に国が襲われてないのはどうしてなの?」
「えっと……その……」
どうにもはっきりしないな。……少しカマかけてみるかな
「もしかして国と山賊が手を組んでるとか?」
「っ!!」
そう口にした瞬間、明らかにユリムは動揺した。
……ビンゴってね。まあそんなことだろうとは思ったけど。
「当たっちゃったみたいだね」
「……この事は王国でも一部しか知りません。どうか御内密に……」
「わかってるよ。僕だって山賊だけじゃなくて、王国にも命を狙われるなんて死んでもごめんだよ……それより話してくれるかな?今この国で起こってることを」
「いえ、しかしそれは……」
「仮にユリムさんが教えてくれなくても、どうせ僕は知ることになるよ。あの山賊達に聞きたいことがあるからね。……でも、出来る事ならユリムさんから聞きたいな」
その言葉にユリムは悩むように一度目を伏せ、こちらの顔をまっすぐ見てきた。そして維織もまたユリムの真剣な表情に応えるようにまっすぐユリムを見つめ返す。
幾度か視線が交わった後、ユリムは諦めたように溜め息を吐き、
「……わかりました。お話しします。今この国で起こっていること、その全てを」
その重い口を開き始めた。
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