第五話 出逢い
「キィィィィィ!!!!」
不敵に笑みを浮かべる獲物を前に怪物は己を鼓舞するように声を上げる。そして鋭利な刃物のように尖った水晶に覆われた尻尾を維織へと突き立てる。今まで数々の獲物を倒して来た必殺の武器を。
「見れば見る程危険な尻尾だね。君らがその尻尾に自信を持つのもうなずける」
しかし維織は動かない。回避しようとする素振りも見せず、ただ怪物を正面から見据えている。
「でもそれじゃ……僕には届かない」
そう呟くと同時に、猛スピードで維織を貫かんとしていた尻尾がその動きを止める。正確には維織の能力によって尻尾の速度を遅くしているのだが。
「まず防御は問題ないと」
でも実験の時みたいに、すんなりと能力が出ない……もっと実践に慣れないとダメだな。
「まあ最初にしては上出来。……そしてっ!」
腕を振りかぶり尻尾へとパンチを放つ。
何の変哲も無いただのパンチだが、異常なのはその速度である。圧倒的な速度で繰り出されるその打撃。
例えるなら――拳銃
「ギィ!?」
鋭く風を切る音と共に、維織の拳は尻尾を守る水晶を粉砕する。だが同時に維織は顔を顰める
「っと……これ以上の速度は出せないな、体がついていかない」
これは実験していた時に既に分かっていた。自分の肉体の速度を操る事は制限があるという事を。その制限を守らなくては自身に多大なダメージを与えてしまう。
「それでもこの威力か……護身程度かと思ってたけど、十分戦闘に使えるね」
満足気に一つ頷き、目の前の化物へと目を向ける。
自慢の尻尾を破壊されたせいか、さっきまでの勢いは無くなり怯えたように維織から距離を取っていた。
「そう、体のどこかに深刻なダメージを負えば大体はそうやって後ろに下がる」
そう言いポケットへと手を入れ、予め拾っていた水晶を軽く前に放り投げ、心の中でイメージしながら唱える。
そのまま、前へと消滅しない程度の速さで進み貫け。
「ギィ……」
拳ほどの大きさをした水晶はイメージ通りの速さで進み、そのまま頭を貫き化物を絶命させた。
動かなくなったのを、確認して維織は息を吐き地面へと寝転がり緊張を解く。その顔には少なからず疲労の色が浮かんでいる。
「やっぱり、もっと慣れないとダメだね……イメージするのをもっと早くするのもそうだけど、どうもぎこちない」
まだ能力に振り回されている。そう思わずにはいられない結果だったが、それにはこれから慣れていけばいいということにして、取り敢えず休憩することにした。
「ふぅ……どうするかなー」
そろそろ脱出について考えないとダメだよなぁ。水や食料の事もあるし、あまり悠長にしてはいられないね。
「よし、動くか」
そうと決まればと体を起こし、この大広間の出口へと向かおうとする。……が、すぐにその足を止めた。
ゴゴ……ゴゴ…
「……またか、しかもなんか……多くね?」
冷や汗と共に振り向くと、そこはまさに地獄絵面というべき光景だった。
「「「「「「キシャアアアアア!!!!」」」」」」
合計6匹の化物が維織に対し咆哮を放ち、獰猛な眼差しを向ける。
「あー……やるしかないか……」
再び足に力を込め、戦闘態勢を整えた。
大人数での戦いか……いい経験になりそうだね。
こちらも同じように獰猛な眼差しを化物達へと向ける。
「さあ、やろ「いやああああああ!!!」……ん?」
辺りを見渡すとこの大広間の入口辺りに人が立っている。遠目からだがそれは女性だった。
その悲鳴に気付いたのだろう。化物の中の1匹がその女性へと顔を向け、今にも襲わんという雰囲気で近づいていった。
まずいね……
「危ないよ!早く逃げな!」
そう警告するが女性は動かない。あまりの恐怖に足が動かないのだろう。
くそっ!どうする!?
水晶を……いや、確実には止めれない……ならこれで!
維織は先程倒した化物の死骸へと走り出し、全力で蹴る。当然維織の力では一ミリ程度しか動かないだろう、だが一ミリでも速さがあるのならば、そこは維織の領域である。
あの襲おうとしてる奴へ進み、吹き飛ばせ!!
そのイメージ通り、蹴り飛ばされた死骸は化物へとぶつかり、その勢いのまま壁へと激突した。
「ギッ!?」
そのまま絶命したのだろう。動かなくなったのを確認して、維織は女性の元へと駆け寄る。
「大丈夫?生きてるかい?」
柔らかく微笑み、安心させようとするが女性は微動だにしない。
「おーい、もしもーし」
耳元で呼び、ようやく硬直から解除されてこちらに気付いたのだろう。ゆっくりと顔を向けると女性は目を見開き。
「ひぅ!?……」
そのまま気絶した。
「……あれ?」
残されたのは5匹の化物と、頭に?を浮かべる維織の姿だった。
次話は9月5日の月曜日に二話投稿予定です。




