第四話 能力確認
『――レベル2に到達を確認、能力制限を一部解放します。
……常時使用を解放…
……有効範囲の拡大……半径1mまでの無機物、及び自身の肉体に干渉可能……』
……ぐっ…う……はっ!?
今日だけで何度目か分からない気絶から目が覚める、うっすらと記憶にある化物との戦いの記憶。ズタボロになった服がその戦いが現実であったことを物語っていた。
「いてて!!……つつつ、起き上がるだけでもつらいなぁ……まあ動けるだけでまし……あれ?」
自分の体をよく見ると、そこは激しい攻撃を受けてズタボロになった服…のみだった。
「確か左肩とか貫かれたはずだけど…」
触ってみるが、そこには貫かれた痕などは無かった。しかし左肩の一部だけ他の部分と比べて色が白く、まるで最近出来た皮膚のように思えた。
「これも能力のおかげかな?」
気絶する前にはっきりと聞こえた声。聞き覚えの無い声だったが、妙に記憶に残っている。
「速度操作とか言ってたよね…他にも常時解放とか有効範囲とか……うーんどういう意味だろう?」
頭を捻り考えるが答えは出てこない。
……ま、考えても分からないのなら試すしかないか。
辺りを見渡し適当に落ちている水晶を拾い、想像する。投げられた水晶が壁に突き刺さる程のスピードで飛んでいくイメージ。
「ふっ!」
投擲された水晶は風を切りながら、轟音と共に深く壁へとめり込んだ。その圧倒的な破壊力に維織は目を見開き驚愕すると同時に納得した。
「……凄いねこれは、そりゃ、余裕なはずだ。」
あの時、維織は怒りの感情に全てを支配されていたが一部では驚愕を覚えていた。ただ物を投げるという自分の攻撃で化物を追いつめているその事実に。
さて次の実験だ。次は有効範囲とかいうものについて試そう。
「多分、速度操作の範囲のことだろうけど……」
確か半径1mと言うことは、自分を中心とする円の半径1mということだろう。
「これって止まってる物も動かせるのかな?」
一応地面の水晶に先程と同じようなイメージを浮かべてみるが、水晶は動かない。
「無理か……」
ならば動いているものを止める事は出来るのだろうか?
今度は水晶を上に投げ、スローに落ちるイメージを浮かべる。すると水晶はイメージ通り、スローに落ちてきた。
「てことはこれも……」
さらにもう一度水晶を上に投げ、今度は重力に逆らい、上に突き抜けるイメージを浮かべる。
瞬間、爆発的な勢いで水晶は天井へと突き刺さる。
その結果に維織は満足するが、同時に少し顔を顰める。
「成功したけど、もうここでは使わない方がいいね」
先程の実験のせいで天井からガラガラと石が落ち始め、これ以上、壁や天井に衝撃を与えると崩れかねないと判断し維織は次の実験に移行することにした。
次は自分の体に能力が使えるかどうか。
「多分、これが理由で傷が治ったはず」
維織は水晶の先で指に傷をつけ、傷が直ぐに完治していく様子をイメージした。
「やった……!」
結果、傷は10秒と経たない内に塞がり維織は確信した。
間違いないね。自然治癒力の速度も操れるみたいだ。
自分が気絶している間に傷が塞がったのも、恐らく無意識の内に能力が発動して治したのだろう。
しかし、脳や心臓は恐らく治せはしない。試してはいないが、いくら速度を上げてもその前に息絶えてしまっては意味がない。
「過信は禁物ってことか」
まあそれでも十分過ぎるほどに強力な能力だ。
じゃあ次の実験に行こうか――
取り敢えず、こんな感じかな?
すべての実験を終えた維織は現段階の自分の能力について頭でまとめてみた。
まず能力は速度を操る力、使うのに特別な条件は無いが、使いすぎると疲労感に襲われ能力が使えなくなる。
能力の有効範囲は自身の肉体と自身を円の中心とした半径1m。その範囲内の物は無機物であろうと有機物であろうと操作可能。だが、動いてないものは操る事が出来ない。つまり0から1を生み出す能力ではなく、1から2にする能力である。
操作可能な速度は使用時のイメージによって変化する。
自身の肉体に使用する場合は速度に肉体がついてこれる範囲で使用しないとダメージを負う。
自然治癒力も操れる事から、速度の操作は細胞レベルで行う事が出来る。これにより肉体の再生が可能。しかし脳や心臓の再生を行えるかは不明。
こんな感じかな。……うーんすごい能力だなあ。予想してた以上に凄まじいねこれ。だけど汎用性も高い反面、ちゃんと制御しないと僕がとんでもない目に合うことは間違いないね。
さらに維織が気になるのは、あの時聞こえたレベル2という言葉。この能力がまだ強くなると言うのだろうか。
想像するだけでゾクッとくるね。
そんな想像に苦笑を浮かべながらも維織は今後の事に思考を移した。
能力の確認も出来たことだし、どうしようかな…能力をうまく使えば脱出できるだろうけど、上には山賊みたいな人が大量にいるだろうし……安全に森から抜けるにはもっと実戦を経験して能力に使い慣れないと、また同じ目に合うか……最悪死ぬね。
「どうしようかな?」
思考を巡らせる維織だったが、結論はすぐに出た。……地面から聞こえる地震の様な音によって。
「この音は……」
忘れるはずもない、先程自分が殺されかけた魔物。
「キィシャアアアアアア!!!!」
そして自分が打ち倒した化物が再び地面から顔を出していた。
「やっぱりね」
その光景に維織は想定通り、足の速度を操作し化物から距離を取った。
「キィィィ!!!」
不意打ちが外れたことに苛立ったのか、維織に向かって雄叫びを放つ。それは途方もなく恐ろしい光景だというのに、維織の顔には笑みが浮かんでいた。
「キィシャアアアアアア!!!」
化物は吠え続ける、目の前の獲物を怯えさせ恐怖を与えるために。――しかしそれでも維織は笑っていた。
「ああ、待ってたよ」
化物は困惑する。何故自分に怯えないのか?
「いいタイミングで来てくれた。」
たかが人間が何を余裕ぶっているのか?
「さあて実戦だ。どこまで通用するか」
何故、目の前の人間は笑っているのか?
「いろいろ練習したいからさ」
そして何故、自分は恐怖しているのかと。
「簡単に壊れないでね?」
次話は8月29日の月曜日に投稿します。




