第二話 最悪のスタート
「これは……ついたって事でいいのかな?」
そこは先程までの洞窟とは異なり、森のような場所だった。辺りは樹が生い茂り、空を見上げると太陽と思われる物から発せられる光を様々な方向から伸びる樹が遮っていた。それはかつて家族と一緒にハイキングに行った時に入った森とよく似た光景だった。
「元いた世界とは別って聞いてたんだけど、そんなに変わんないのかな?」
だとすれば都合がいい。元いた世界の知識が役に立つなら、この世界での僕の生存率は少しとはいえ上がったことになるのだから。…あの時父さんに森で行動する時の注意点を聞いておいてよかった
そう安堵し喜ぶ維織だったが、その想いはすぐに打ち砕かれた。
「お前、そこで何してる?」
「はい?」
振り向くとそこには一人の男が立っていた。
薄汚れた服、顔も小汚く一見すると貧民のように見えるが、服の隙間から見える大きな傷跡、腰に差した剣、そして男から発せられる雰囲気が一般人とは違うということを物語っていた。
はぁ……幸先いいと思った途端これか……
「おい!てめぇ無視すんじゃねえよ!ここで何してるって聞いてんだ!」
気が短い性格なのか、男は腰に差した剣を抜き維織に突き付け、脅すような口調で維織へと詰め寄った。
「妙な真似すんじゃねえぞ!……てめぇ冒険者か?それとも王都の密偵か?」
「落ち着いてよ怖いなぁ……見てわかると思うけど僕は丸腰だよなんの武器も持ってない。当然、君の言う冒険者でも無ければ、王都からの密偵でもないよ」
「じゃあ何でここにいる?ただの村人とは言わせねぇぞ。ここらの村人は絶対にこの森には入って来ねぇ」
やれやれ、面倒なところに飛ばしてくれたものだ。さて、どうやって誤魔化そうかな。
「僕は別の大陸から来たんだよ。どこか人のいるところを探している内に、この森に辿りついたのさ」
「とても信じられねえな。武器もなしに大陸を渡ってくるなんざ聞いたことがねえ。……なにを探りに来たのか知らねえが運が悪かったな。……てめぇら!密偵を見つけたぞ!!」
男が大声で呼ぶと同時に、周囲から何人もの人が出てきた。同じ様な格好をしていることから仲間なのは間違いない。
……今日は厄日だ。本当に碌でもない。
「兄貴、こいつはボスのところに連れて行くんですかい?」
「いや、ボスに見せるまでもねぇ。ここで始末する」
「だ、そうだ兄ちゃん。へへへ、運がなかったな」
そう言いニヤニヤと笑いながら男たちが武器を抜いて近づいてきた。
さて、どう逃げようか……全部で1,2,……4人か、これならなんとか…
「まあそう慌てないでよ、少しは僕の話も聞いたらどうだい?」
「へへへ、命乞いか?悪いが聞く気はねえなぁ!」
「王国軍の機密情報でも?」
そう言った瞬間、男から表情が消え、目を細くし維織を睨み始めた。
「……おい、そりゃどういう事だ?」
「聞く気になってくれた?」
……作戦成功。
当然ハッタリだ。この世界に来たばかりの僕がそんな情報を知ってるはずがない。
「王国軍が君たちを一掃するために、ある武器を開発したんだよ。」
「俺たちを殺すためだと!?」
「奴ら裏切ったのか!?」
「てめえら落ち着け!……おい、その武器とやらについて話してもらおうか」
「気になるかい?それはね……君たちの後ろにあるそれだよ!!」
「「「「!?」」」」
男たちが一斉に後ろを振り向き、確認するが当然そこには何も無かった。
「なんだ……?何もねえじゃねえか?」
「あ、兄貴!あいつ逃げてやがる!」
「あぁ!?」
兄貴と呼ばれた男が確認すると維織は既に男達に背を向け走っていた。
「あの野郎!俺たちを舐めやがって……!奴を追え!絶対に逃すんじゃねえぞ!」
指示と同時に男達は維織を追い始めた。
あんな嘘でも通用するもんだね。それにしても色々気になる事が出来た……彼らの事や王国の事。……まぁ、考えるのは後にしよう。今は彼らから逃げ切る事に専念しなくちゃ。
「とは言っても、どこに逃げたらいいのか」
少し後ろを振り向くと男達が全力でこちらに向かって来ていた。
「待ちやがれ!」
「逃げ切れると思うなよ!!」
……まいったね。逃がしてくれる気は全く無さそうだ。
……はぁ……はぁ……なんとか撒いたかな?
どのくらい走っただろうか。気づけば光の届かないほどの森の奥へと辿り着いていた。
「撒いたのはいいけど、こりゃまずいね……」
自分のいる場所が目を凝らさなければ前の道が見えない程の闇に包まれている事に対しに維織は若干の苛立ちを覚えていた。
「一体どこに行けばいいんだか……転生初日なのにハードすぎるよ……」
ここまでの経緯を思い出し、維織は自らの運の無さを呪うばかりだった。
少し休憩しよう、そう思ったが後方から指す光がそれを許さなかった。
「いたぞ!あそこだ!」
「しつこいなぁ、勘弁してよほんと!」
再び足に力を込めて走ろうとしたその時、突如後方で爆発が起こり、維織の体は空中へと投げ出されていた。
「えっ?」
全身が浮遊感に包まれ、以前に体験した時間がスローモーションに感じる感覚を維織は感じていた。
疑問が尽きない頭で維織が唯一理解できたのは、、いつまで経っても地面に着かない事、それだけであった。
「嘘だろ……」
その言葉を最後に維織の意識と体は底の見えぬ闇へと飲み込まれていった。
次話は8月21日の日曜日に投稿します。




