第一話 戦闘開始
死というものの正体は誰も知らない。ただ生物である限り、必ず訪れる終末であるということだけははっきりしている。しかしその先のことは誰も知らない。死を体験した後に到達する場所は誰も知らない。
「とはいえ、ここは死の世界には見えないのだけどねえ」
そういい一人の青年が辺りを見回す。辺りは薄暗く、見渡す限りの岩、岩、岩、これでもかというばかりに岩に囲まれている。
「……洞窟っていう感じかな?まあ、洞窟なんて入ったことがないからわからないけどね」
周囲の状況をなんとなく把握した彼は、はぁと溜息を一つ吐く。
「一体どうなってんだろうね、確かにトラックに轢かれたと思ったのだけど……死んでるって感じはしないんだよね」
自分の体を触り、異変があるかどうか確かめるが、これといって変化はない。
「さて、これからどうしようか、こんな薄暗い洞窟じゃ何もすることもないし……かといって下手に移動するのもなぁ、危なそうだし……なんか死神みたいなのが出てきて、あなたは死にましたとか言ってくれないかな?」
そう周りに少し期待を持ちつつ、問いかけてみるが当然誰からも返事はなかった。
……当然だよね、何やってんだろ僕……疲れてんのかな?……いや疲れてるか、そりゃ自殺なんかしたんだ、疲れているどころの騒ぎじゃないよ、あんな死に方するつもりは無かったのにねぇ。
そういい少女をかばって道路に飛び出した時の自分の様子を思い返す。
……全く何を思ったのだか、他人の運命に干渉するようなマネをするなんて……
「そんなに後悔するようなことではなかろう、結果としてあの少女は救われたのだからのう」
「……あの女の子が助かったか助かっていないかなんてことが問題じゃないんだよ」
「ふむ、では何がそんなに納得がいかんのだ?」
「……さあね、大体、教える必要なんて……ない……だろ……」
「つれないのう、少しぐらい教えてくれてもよかろうに」
「……え、てか……誰……?」
「おや、儂の姿が見えんかの?…ならこれなら見えるか?」
そういい、光の粒子みたなものが集まり始め徐々に形を成していき、一匹の竜のような姿になった。
20メートル以上はあろうかという巨体に、黒く輝く大きな翼、そして何よりもその全身から出ている威圧感が目の前にいる生物がとんでもないものであることを感じ取った。
「……君はドラゴンってやつかい?」
「正確には違うな、儂はお主に分かりやすいようにこの姿をとっているに過ぎない。儂という存在に明確な形は無い。」
そう言いドラゴンの姿から少女のような姿へと変わった。見た目はただの可憐な少女だが、その身に纏う存在感が人間ではない事を物語っていた。
「さて、いろいろ聞きたいことはあるじゃろう。あまり多くは話せんが答えてやろう」
「それじゃあ、ここはどこなんだい?」
「ここかの?ここはさしずめ敗者復活戦の受付といったところじゃのう」
「敗者復活戦?」
「うむ。まあ、あくまで比喩じゃがな。ここへ来る条件は色々ある、細かい基準は知らぬが、一つ言えることは死ぬ間際の悔恨が生への渇望を示したという事じゃな」
……生への渇望?自殺しようとした俺が?
「生への渇望がお主をこの場所へと導いた、それらはすべて因果によって定められた必然なのじゃ。」
「因果……?なんだいそれは?」
「言葉では説明しづらいのじゃが…まあ運命のようなものと思ってくればよい」
「因果ねぇ……僕の人生が碌でもなかったこともその因果とかいうものの仕業かい?」
「まあ、そういうことじゃ。この世界は因果によって成り立っておる。儂もお主も、皆この因果の奴隷なのじゃ」
奴隷ね……そんなどうしようもないもののせいで僕の人生が狂わされてきたかと思うと無性にやるせない気持ちになる。
「まあ、そう悲観することはない。確か因果のせいでお主の人生は酷いものだったじゃろう。だがその因果のおかげでお主は前回の人生をリベンジするチャンスを手に入れたのじゃ。皮肉なものじゃが仕方ない、それもまた因果じゃ」
「さっき言ってたね、ここは敗者復活戦の受付だと、それは具体的にはどういう事なんだい?」
「うむ、その事について説明しよう。」
そう言い、少女は手を振りかざし維織の足元に魔法陣のような物を浮かび上がらせた。
「これは?」
「なんじゃ、あんまり驚かんのう。まあよい……これは世界の入口。お主の第二の人生の舞台となる世界の扉じゃ。」
「てことは僕が今までいた世界に生き返るわけじゃないの?」
「そういうことじゃ。いままでいた世界でお主は死という形で拒絶されておる。幼い少女を庇ったヒーローという幕引き。なかなかに素敵じゃの?」
「止めてくれ、あれはそんなつもりじゃ無かった。僕は他人を優先して人を助けるような自己犠牲の精神は持ち合わせていないよ」
「そうかの?そうは見えぬがの……まあどうでもよかろう、お主にはもう関係のない話じゃ」
少女は意味深に笑みを浮かべた後、ひとつ咳払いをし再び真剣な表情に戻し話し始めた。
「さて、第二の人生と言ってもお主にとってこれは敗者復活戦、戦いでもあるわけじゃ。さらにお主がこれから向かう世界は今までの世界とは違って明確な魔物と呼ばれる生物が存在する世界、今のお主では1日も経たずに第二の人生を終えてしまう。」
「まあそうだろうね、特に喧嘩に自信があるわけじゃないし、そんなに危ない世界なら生きていく自信はないなぁ……」
「うむ。じゃからお主に武器を与える、向こうの世界で通用する武器を。」
「えー、でも剣とか鉄砲とか触ったことないよ。扱えれるか不安なんだけど……」
「違う違う、儂の言ってる武器とはそういう意味ではない。お主に分かりやすく言うと特殊能力、スキルと言ったものじゃ」
……特殊能力?スキル?見ただけで敵が死ぬとかそんな感じかな?
「そんな物騒なものではないがの。お主にぴったりな能力を用意しているよ。」
「さらっと心読まないでよ」
「おっとすまんの、癖のようなものでな」
そう言い、少女は微笑み手を大きく広げた。
「武器さえあれば、戦い方を学ぶだけ。その能力を使いこなせばお主はこの戦いに勝利できるじゃろう!その戦いの結末もお主が選べるじゃろう!」
嬉しそうに話す少女が指を鳴らすと、魔法陣が光を纏い輝き始めた。
「さあ時間じゃ!戦いのゴングはたった今鳴り響いた!準備はいいな?少年!」
「まあなんとなく分かったから大丈夫だよ。色々ありがとね、2度目の人生楽しませてもらうよ」
そう言い維織は笑みを浮かべ、少女に礼をした。
「ふふふ、礼など要らん。存分に楽しむがよい」
少女がもう一度指を鳴らすと同時に魔法陣が今まで以上に光り輝き、維織の体を包み込んだ。
「よき旅を少年」
日向維織、人生のリベンジマッチ今ここに開幕。




