第八話 メルクルド王国
「行きましょう。入口はあそこですから」
そう言いユリムは指を差し、その方向に向かって歩き始めた。うっすらとしか見えないが確かに門のようなものが維織にも見えていた。
「ああ、行こうか」
ふと後ろを見てるみると先程まで通ってきた道はどこにも見当たらなくなっている。恐らく、自分が城に目を奪われている間にユリムが閉じたのだろう。そう結論し、ユリムの下へと駆け出した。
「止まれ!何をしにここへ来た!」
門の近くまで来ると、武装した男が維織達へと剣を向ける。
おいおい、いきなり剣を抜くのか。今の王国の現状だと仕方がないのかもしれないけど……
「B級のユリム=マールです。依頼が完了したのでギルドに報告をしに来ました」
「ならば証明書を見せろ」
「わかりました。……これを」
そう言って、小さいカードのようなものを男へと見せた。
面倒くさいことしないといけないんだね。あれ無くしたらどうするんだろ?
そんな事を考えている内に確認が終わったようだ。
「確かに確認した。……その後ろの奴はなんだ?」
あ、僕ですか……なんて言うべきだろうか。
「彼は旅人です。任務の帰りに道に迷っているとこを発見し、ここまで案内してました」
「旅人だと?」
「はい。大陸各地を旅しているのだそうです」
流石ユリムさん、ナイスフォロー。
「盗賊ではないという証拠はどこにもないが……君がB級冒険者であることは以前から知っている。その君を信じるとしよう」
「ありがとうございます。……さぁ入りましょうかイオリさん」
「そうだね。行こうか」
門をくぐると街が目に入った。
見たこともないような食材を売っている店、何かの武器をロゴにした店。本などを取り扱っているであろう店。そして、それらに一喜一憂しながら目まぐるしく闊歩する人々。とても山賊達や魔族との戦争が危ぶまれている状況とは思えない程、平和な光景だった。
「……あまり驚かないのですね」
「え?」
「初めてこの国に来た人は、ほとんど驚かれますから」
あー、そうか失敗したな。
そうは思うが、今まで日本という大国で過ごしてきた維織にとって、この程度の都市はいくつも見てきたためそれは仕方のない事である。
「いや、驚いてるよ。あまり感情が顔に出ないだけさ」
「そんな風には見えませんけど……」
うっ、視線が痛い。やっぱり無理があったかな?
「まあ、それはいいですけど……イオリさんは宿は決めているのですか?」
「いや、特に決まってない……けど」
しまった、よく考えたら僕はこの世界のお金を持っていないじゃないか!……どうしよう、どうやって宿取ろう……
「あの、失礼ですけどお金はどのくらい持っていますか?」
だから持ってないよ!
「いや、その……なんというか……」
「持っていないのですか?」
「た、谷に落としちゃったみたいで……」
我ながらなんて情けない言い訳なんだ。これじゃ、ただの子供じゃないか。
そんな維織の様子にユリムはため息をつきながら、そっと微笑んだ。
「……はぁ、仕方ないですね私が紹介しますよ。お金もいくらか貸してあげますから」
……え?
「そんな顔しなくても、別に期限なんてつけませんから安心してくださいよ」
……あなたは神か、ユリムさん……
「あ、でもそんなには貸せ「ありがとう!ユリムさん!!」きゃっ」
感動のあまり思わず維織はユリムの手を取り、ギュッと握りしめていた。
「あ、あの手を……その……」
「おっとごめんよ。凄く嬉しくてさ、つい興奮しちゃって……嫌だったかな?」
「い、いえ……そんなことは……」
どこか頬を赤らめるユリムを見て、維織は不思議そうに?を浮かべた。
「じゃ、じゃあ行きましょうか」
「案内お願いします」
そうして、どこか落ち着きのないユリムの後ろを維織は付いていった。
それからしばらく歩き、ユリムは民家のような建物の前で足を止めた。
「着きましたよイオリさん」
そう言われ、維織はじっと建物を見渡す。全体が木で作られたその建物は、まさしくファンタジー世界の宿だなと維織は感じた。
「ここが宿ですか」
「ええ、ここは私が昔よく利用してた宿でして、"風見の宿"といいます」
結構古めかしい雰囲気の宿だね。味が出てるっていうか。
「入りましょうか」
扉を開き建物に入ると、1人の女性がカウンターの奥で佇んでいた。
「いらっしゃいませ。風見の宿へようこそ」
「お久しぶりです。ラーミさん」
「あら、ユリムちゃんじゃないの!久しぶりね〜あなたがここに来るなんて……あら?そちらの方は?」
「彼はイオリさんと言って「彼氏?」違います!」
「イオリさんは旅人で道に迷ってるところを見つけて、ここまで案内したんです!」
「あらあら、つまりここまで誘ったってことね。結構やるじゃないのユリムちゃん。」
「だ・か・ら!!」
「うふふ、冗談よ。それで……イオリさんだったかしら?」
「はい、イオリ=ヒュウガです。気軽にイオリでいいですよ」
「わたしはこの宿の主人のラーミ=フルム、気軽にラーミでいいわ」
「わかりました。これからお世話になりますラーミさん」
お互いに挨拶を終え、維織はラーミを見た。
少し、皺があるが顔立ちはこれまた整っており、ブロンドの髪を後ろで束ねている様子はまさに宿の主人と呼ぶに相応しい、しっかりとした雰囲気を醸し出していた。
「早速だけど、ここにはどのくらい泊まる予定かしら?」
「取り敢えず、7日ほどお願いできますか?」
「7日ね。食事はどうする?必要ならこっちとしては、その日の昼までには伝えて欲しいのだけど」
「今日の分はいりませんから、明日の昼をお願いしてもいいですか?」
「明日のお昼ね、わかったわ。それで料金の事だけど……7日だと銅貨30枚になるわ」
「ではこれで」
さっきユリムから受け取った銅貨を30枚渡す。ここへ来る途中に受け取ったものだ。
「はい、毎度ありがとう〜。それじゃ、お部屋に案内するわね」
「お願いします」
そう言い、ラーミはカウンターから引っ込んでいった。それと同時にユリムが話しかけてきた。
「私はそろそろ行かないといけないので、失礼しますね」
「もう行くのかい?」
「ええ、少し用事があるので……お礼の件ですけど、また後日にここへ知らせますね」
「わかった。何から何までありがとう。僕の方こそ今度お礼をさせてもらうよ」
「ふふっ。それではまた会いましょう」
「ああ、また会おう」
そう告げてユリムは宿から出て行き、人混みの中へと入っていった。
「ごめんなさい、待たせて……あら?あの子は?」
「用事があるらしくて、さっき出て行きましたよ」
「相変わらず、忙しい子ね。……さぁて、お待たせしましたお客様。お部屋へ案内します」
彼女の後へと着いて行き、階段を上る。ほのかに香る木の香りがなんとも言えない味を出していた。
「ここがイオリさんのお部屋になります」
「ありがとうございます」
「いえいえ、それではどうぞごゆっくり。何かあれば下のカウンターまでお越しください」
バタンとドアを閉め、部屋には維織一人になった。
部屋を見渡し、そこにベットがあったことに維織は安堵し、笑みを浮かべた。
「よかった……ベットがあった……」
思わずベットにダイブする維織。少しだけのつもりが、ふかふかの布団に顔を埋めていると、だんだんと瞼が落ちてきた。
……思えばこの世界に来てからまともに寝てなかったような……あぁなんて疲れた1日、いや2日だったけ……?
「もう……無理……」
その言葉を最後に維織はようやく、気絶ではなく眠りへと落ちていった。
次回の更新は9月27日の火曜日です




