登場
枢木はキーボードから手を離すと、椅子の拘束を解き始めた。
大雅……魔法少女ミヤビは、震える足で床に降りた。重なり合うフリルが衣擦れの音を立てる。
「……これ、は……」
鏡の中にいるのは、黒と赤のドレスに身を包み、夜闇をそのまま切り取ったような黒いツインテールの美少女だった。その瞳には、ただ虚無だけが宿っていた。
「……辛い思いをさせて、本当に申し訳ないと思っているよ。君をこのような形に変えてしまったのは、我々の力不足だ。多感な時期の少年に、これほどの重荷を背負わせるなんて、本来あってはならないことだ。本当に、すまない……」
枢木の表情は、驚くほど湿り気を帯び、慈愛に満ちていました。先ほどとは全く違う態度で、大雅はひどく混乱する。枢木のその目には、わずかに涙さえ浮かんでいるように見えた。
いつの間にか、大雅の背後に知らない男性が立っていた。彼は痛ましそうに眉を寄せ、大雅と目が合うと、深々と頭を下げる。
大雅は、すがるような思いで彼を見つめた。この人なら、この地獄から助け出してくれるのではないか。元の、出来損ないの魔法少年の姿に戻してくれるのではないか。
「でもね、魔法少女ミヤビ……いや、大雅くん」
枢木が目を伏せた。
「君のお披露目の映像を待っている国民のことを考えてみて。みんな君に熱狂し、君のその儚い姿、そして明るい瞳に、明日への希望を見出す。君はもう、ただの少年じゃない。何億人の心を救う、国民の憧れとなったんだよ」
枢木の瞳には、確信が宿っていた。それは応援という名の、逃げ場を塞ぐ圧力だった。
「だから、頑張ってほしい。君が、世界を救うんだ。我々も全力で君を応援する。君の妹さんだって、君が魔法少女として活躍していることを知れば、きっと喜ぶはずだから」
妹。その言葉は大雅の心に深く突き刺さり、同時に絶望の底へと繋ぎ止めた。
頑張らなければ。
自分が耐えれば、妹は助かるのかもしれない。
たとえ、自分が自分という存在を失い、削り取られていくとしても。
「……はい」
大雅は、掠れた声で答えた。枢木は満足げに頷き、大雅の背を優しく押した。
連れて行かれたのは、真っ白なスタジオだった。
床も壁も、目に痛いほどの白。そこには、大量の機材が並んでいた。
「笑って。誰もが敵わないくらいの笑顔で」
誰かにそう言われる。大雅は笑った。今までと同じように、綺麗な笑顔の仮面をつける。
「魔法少女ミヤビ、MV撮影スタートです!」
スタッフの声とともに、スタジオに音楽が流れ始めた。
魔法少女ミヤビは優雅に手を伸ばす。そしてきらめく笑顔で、口を開いた。
フラッシュが焚かれるたびに、視界が白く塗りつぶされる。スカートの裾を掴み、ステッキを胸に抱き、レンズの向こう側にいる見えない誰かに向かって手を伸ばし続ける。
ミヤビはレンズ越しに、泣きそうな笑顔を作った。




