覚醒
「お兄ちゃん」
その声で大雅ははっとする。息を吸い、妹も、自分も無事であることに安心した。
大雅は体に違和感を感じ、顔を上げた。
今までは、この状況を見ているというような感じであった。しかし、今はここに存在しているという感覚。
車はない。ただ、そこに大きな硝子の破片が落ちていた。大雅はそれに近付く。違和感には気付いていた。
大雅は綺麗な黒いスーツを着ていた。髪は変わらない。しかし、ステッキを持っていた。
これでは、まるで、
「……魔法少女みたいじゃないか」
大雅がそう呟くと同時に、目の前にウインドウが現れる。
『名前:朝倉大雅 役割:魔法少年———
能力:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
怪人:今はいない
変身時の言葉:縺セ縺サ縺?§繧?◆縺吶¢繧上◆縺励≠縺ゅ♀繧鯉ス舌≧縺?ス弱○縺?℃縺ゅ≠?舌≧縺?>??↑縺?∞縺翫>?』
「なんだよ、これ……」
大雅は戸惑いを隠せなかった。自分は魔法少女、いや魔法少年になってしまったのか?魔法少女は、男がなれるものではなかったのではないか?
「お兄ちゃん」
妹に袖を引っ張られる。
「ごめんなさい、わたしが道路に飛び出しちゃったから、お兄ちゃんが」
「———のせいじゃない」
大雅は妹に向かって微笑む。
「お兄ちゃんは、———を守ることができて嬉しいよ。でも、これからは本当に気を付けてね」
「うん……」
大雅は頷き、ウインドウを再度見た。色々と実感がない。
大雅は黒い■をタップした。すると、塗りつぶされていた文字が跳ね、蘇る。
『能力(※変えられません):
全属性魔法 レベル3(成長なし)
過去に戻る(シミュレーション空間付)』
大雅は目の前のものが信じられなかった。魔法少女は、強いのではなかったか?
とりあえず、大雅は変身時の言葉を唱える。大雅はもとの姿に戻った。
◆◆☆◆◆
大雅は妹を家に送り届けると、一人で魔法省本部へと向かった。
「ご用件は」
受付の女性が、大雅に冷淡に声をかけた。
「魔法少女についてなんですけど……」
「はい?ファンの方ですか?」
「いや、あの……俺、魔法少女、というか魔法少年になってしまったみたいで」
受付の女性がさらに怪訝そうに大雅を見た。何を言っているのだ、と心の声が聞こえてきそうである。
「……何を言っているのか分かりかねます。またご連絡いたしますので、こちらに電話番号と住所、名前をご記入ください」
違う、と大雅は叫びたくなった。違う、俺は不審者じゃない!
『魔法少女は正義である』
あの夜の、ルカの言葉が頭に浮かんだ。正義。正義か。
ならば、自分も正義に当てはまるのではないか?
「縺セ縺サ縺?§繧?◆縺吶¢繧上◆縺励≠縺ゅ♀繧鯉ス舌≧縺?ス弱○縺?℃縺ゅ≠?舌≧縺?>??↑縺?∞縺翫>?」
大雅は下を向き、ぼそっとそう言った。
ふわりと体が浮き、弱々しい光が放たれる。
変身したのを確認すると、大雅は顔を上げた。
「あの、これで信じてもらえますか」
受付の女性も、すぐそばを通った男性も、奥のオフィスにいる人たちも、みんな驚いたようにフリーズしている。大雅はいたたまれない気持ちになった。
「こっ、こちらにどうぞ」
受付の女性が慌てて飛び出してきた。その後ろを、大雅はついていく。
やがて、茶色いドアの前で立ち止まった。
「失礼いたします。魔法少女候補の方を連れてきました」
女性がドアを開け、大雅は促されるまま中に入る。
一人の男性と目が合った。
ドアが閉められ、大雅はその男性としばし見つめ合っていた。
「……君の名前は」
「朝倉大雅です」
この部屋よりさらに奥で、キーボードをたたく音がした。
男性はため息をつく。
「この場所以外で、君が変身するところを見た者は」
「い、いません」
「能力は」
「成長しない全属性魔法レベル3と、少しだけ先の未来が分かる、です」
妹のことは隠す。さらに、この男性の目つきが怖くて能力を少しだけ偽った。
男性が再度、ため息をつく。
「いらないな」
「……どういう意味ですか」
「この世界で怪人を倒すのは、魔法少女だけでいい。男なんていらないんだよ」
大雅は頭を殴られたような気持になった。いらない?ここでも自分は、いらないのか。
男性が再度口を開く。しかし、男性が声を出す前に、さらに奥の部屋から眼鏡を付けた女性が飛び込んできた。
男性の耳にぼそりと何か呟く。男性の目の色が変わったのを大雅は感じ取った。
女性が退出すると、男性は沈黙した。
「……あの」
「前言撤回だ。君はこの世界に必要だ」
男性は深く頷く。
「先ほどの非礼を詫びる。ついてきてください」
最後が敬語なのを、大雅は不審に思った。




