Parliament building 70th floor6 議会庁舎ビル70階6
アリスとの通話を切り、アンブローズはあらためて壁の影から窓ぎわのヒューマノイドをうかがった。
あいかわらず無表情で銃をかまえている。
「持ち主の許可とった。例のやつは流れ弾があたったふりして破壊する」
すこし離れた柱の影にいるジーンに伝える。
「……許可おりてた? いま」
ジーンが苦笑した。
「拒否と思われる返答はなかった」
アンブローズは答えた。
「本人にも言った。どうせバックアップくらいあるだろ。つまるところ企業間の裁判にならんよう証拠隠滅するのが第一の目的だ」
「いや……アンもそのデータは欲しいだろうから雑な判断はしないと思ってるけどさ」
ジーンが困惑したような表情で弾数を確認する。
「あくまで流れ弾のふりだ。変に勘ぐられたって言って、こっちに裁判費用の請求がきても面倒くさい」
「来る可能性あるんだ……」
ジーンが何か疲れたように苦笑いした。
ドロシー型のヒューマノイドの様子をさぐる。窓ぎわの大きな一枚ガラスのまえをジリジリと横歩きしてこちらをうかがっている。
ジーンが柱の影から向こうをのぞいた。
ヒューマノイドが、黒髪を乱して銃口を自身に向けた様子を見て「ひっ」と苦笑してふたたび柱の影にかくれる。
「美人ってすごむとこわい」
「あれ美人なのか」
アンブローズは議事堂の扉をうかがった。
「国会中継はあいかわらず録画か?」
「複数の審議をつなげて編集を加えてるみたい。落選していまは議員じゃなくなった人の顔に、べつの議員の顔をあてはめたりしたの配信してる」
ジーンがこめかみに手をあて答える。
「一般の国会マニアもいるだろうに、バカにしてやがんな」
「いま二年くらいまえの審議やってる。ここでコクーンスカートでつかみかかるのは爆乳のジャスミン議員、つかまれるのは美脚のシェリー議員のはずなのに」
ジーンが眉をよせる。
どんな記憶システムしてやがんだこいつの脳とアンブローズは思った。
「三年前のドロシーの無差別射殺で、ニセの映像つくったのはアボット財閥だったが……」
「じゃ、今回もこのニセ国会流してんのアリスちゃん?」
「どうかな。アボット財閥がアイコラレベルの動画つくるとは思えん。それこそAIでリアルすぎるフェイクニュース動画とか朝めしまえだろ」
アンブローズはそう返した。
「どこが流してんのかは、議事堂の中の様子によるかな。ヒューマノイドとすり替わった議員が不具合起こしてるならアボット財閥、正常に動いててもアボット財閥、ヒューマノイドが中の生身の議員に危害加えてるならNEICかアボット財閥」
「それだとアボット財閥の確率が高そうに思えるんですが、お兄さん」
ジーンが苦笑いする。
「お兄さん言うな」
窓ぎわのヒューマノイドの様子を見る。
こちらは生身だ。
緊張がつづけば持たなくなるのはこちらが早い。とうぜんそれを分かって長時間のにらみ合いも想定しているのだろう。
人型なのでつい錯覚するが、人間同士が対峙したのとは勝手が違う。
「ジーン」
相方に呼びかける。
「ブレインマシンではスクエアーの合成開口レーダーの画像の傍受はどうしてもムリか」
「どこのぞくわけ」
「議事堂の中だ。できるならビル全体。このままだと多勢なのか無勢なのかすら分からん」
ジーンが議事堂の扉を横目で見る。
しばらく考えていたが、やがて口を開いた。
「スクエアーの画像となるとPCじゃないとキツいな。――たとえばむかしながらの熱エネルギーを検知するカメラを搭載してる前時代の衛星なら、いくつか宇宙空間に残ってる。それなら乗っとるのは可能かな」
「ヒューマノイドは検知できるのか、それ」
アンブローズは問いかけた。
「ヒューマノイドも人工心臓と太ももの内股あたりの機材は微量に熱を発してる。最近は生身の人に不快感を持たせないように低めの体温を発するように作られてるタイプもけっこうあるから、もしかしていけるんじゃないかな」
「よし分かった。乗っとれ」
アンブローズはそう指示した。




