Parliament building 70th floor5 議会庁舎ビル70階5
窓ぎわからこちらを見つめるヒューマノイドを壁の影からうかがいつつ、アンブローズは議事堂の重厚な扉を見つめた。
いまだビルの職員の一人すら来ない。
まさか職員までヒューマノイドにすげ替えられてないだろうなとゾッとする。
「おい、ジーン」
アンブローズは呼びかけた。
「そのミニタイトとフレアースカートと巨乳とロングスカートたくしあげ議員は生身か? おまえの見立て的に」
「やっぱりスカートと巨乳に意識いくよね」
ジーンがヘラッと笑う。
「いいから簡潔に答えろ」
いちおう非常事態なんだがと内心でぼやく。
窓ぎわに立つドロシーそっくりのヒューマノイドの逆光になった顔を見つめた。
「ロングスカートたくしあげのヴァージニアは生身だと想うよ。少なくとも三ヵ月まえの時点では。ヒューマノイドに、キックするときスカートがじゃまって意識はないと思う」
ジーンが言う。
「キャットファイトの三議員もおそらく生身じゃないかな。髪を引っぱったりしてたから。ヒューマノイドにとって髪は人間に似せるための小道具って以外に意味はないから、引っぱって相手にダメージがあるという発想はない」
「なるほど」
「NEICのヒューマノイドかっていう観点で聞きたいなら、キャットファイトのムダだらけの動きと、合間に上げてた悲鳴とか罵声とか、あそこまで “意味のない” 行動をとるタイプは見たことない。開発しようと思ったらできそうだけど、いまのところ開発コストを回収できるレベルの需要はない」
アンブローズはあらためて議事堂の扉を見た。
「録画に切り替えてるってことは中で何かは起こってるんだろうが――中がすべてヒューマノイドってわけじゃないだろうな」
ジーンが同じように議事堂の扉を横目で見る。
「え、中のもかも? 来るのマジ?」
口元をひきつらせる。
「分かるように言え」
「あーつまり、扉の向こうに議員に成りすましたヒューマノイドが待機していて、こっちになだれこんで来るのをうかがってる状態、かもしれない?」
「少なくとも首相と下院議長はニセモノで確定してんだ。最悪その事態も考えてた」
アンブローズはそう返した。
「いやいつから考えてたの」
「ここに来るまえから。そりゃそうだろ」
アンブローズは、こめかみに手をあてた。
アリスへ直通で連絡する。
目のまえの空間に、歯車が回転するようなデザインの通話の表示があらわれた。
「──はい」
待っていたんだろうかというようなタイミングで、アリスが即座に通話に応じる。
「──あなたからお電話くださるなんて。うれしい」
「例のものは回収不可能の可能性。破壊していいな」
アンブローズは早口で告げた。
「──あら」
アリス幼い声でそう応える。
「何があらだ。想定には入れてたんじゃないのか? ドロシーは何かほざいてなかったか」
「──どんな状況ですの? ライブ映像送れません?」
アリスが問う。
ほんとうに想定していなかったのか。
ドロシーに脅迫されて協力を持ちかけられて、とっさに企業を守るために軍人を生贄にする取り引きを思いついたとか。
そこまでありそうで、ともかくドロシーとこのフランス人形はおいそれと信用できない。
「ドロシー型ヒューマノイドと交戦中だ。集中を削ぐような操作はなるべく拒否する」
アンブローズは答えた。
「──ドロシーさんそっくりなんて、あなた撃てますの?」
「さっき撃った。外されたが」
窓ぎわでジリジリと隙をねらううヒューマノイドから目を離さずに答える。
「ドロシーさんとおなじお顔なんて撃てないかと思いましたわ」
「どうせ変えさせる覚悟の顔だったんだ、知らん」
アンブローズは答えた。
「データのバックアップくらいどっかにあるんだろ。怪しげなもん仕掛けてた証拠隠滅できるなら文句ないよな」
「ていうかお兄さん、国家転覆の件もそうだけどさあ。だいじな決定を相方に知らせずに実行するクセ何とかなりません?」
柱の影で銃をかまえながらジーンが苦笑いする。
「うるさい。お兄さん言うな」
「兄さん、国体護持のさまたげになる人物および国家転覆をくわだてる個人や団体等に所属する人物、それらに連なる思想をもつ人物ということを認めて投降して」
窓ぎわでまっすぐこちらに銃口を向けたヒューマノイドが告げる。
「おまえがいちばん兄さん言うな」
アンブローズは顔をしかめた。




