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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
24 タバコの煙に隠れた

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smokescreen3 タバコの煙に隠れた3

 アリスがじっとこちらを見上げる。


「つまり、あくまでわたくしを呼び出したのは任務のためですのね」


 さみしさを堪えているような、しかしそれをおくびにも出さないというような、絶妙な表情をする。

 ほんとうにイヤーな八歳女児だなとアンブローズは思った。

 タバコをトントンと指先でたたき灰皿に灰を落とす。


「しかしそんなもんよく呑んだな。断れば財閥ぐるみの違法行為がドロシーにバラされる。とはいえAIの学習汚染を仕組んでたなんてもんがバレれば、こんどこそバッシング受けてA・A・アボット三十八歳なんて存在せず、代わりに幼女総帥の存在が報道されて珍妙な八歳児として好奇の目にさらされる、ついでに株価は大暴落」


 アンブローズはそこまで一気に言いタバコを強く吸った。

 ふぅ、と水蒸気成分の煙を吐く。


「珍妙はよけいですわ。それともあなたなりの誉めことばかしら」

「情報将校をハメてクラッキングに誘導するフランス人形なんざじゅうぶん珍妙だ」

 アンブローズはそう返した。


「女子供でも容赦しないあなたってステキ」

「そもそも女子供だから手心を加えるというのは前時代的なんだろう?」


 アンブローズは煙を吐いた。

「体力と体格の差は考慮していただきたいんですの」

「いつも栄養価の高いケーキ全面的にゆずってるだろ。前回のリンツァートルテなんか、いまだに冷蔵庫の中にだいじに保管してあるんだ。おゆずりしてやるから好きなだけ食って行け」


「エサでかんたんに釣られる女だなんて思われたくないですの」


 アリスがコーラルピンクの唇をとがらせる。

 ああ言えばこう言う。

 これが通常の八歳幼女ならただの生意気で済むが、こうやってめんどくさいセリフを返す裏に国防に関わりかねない機密を隠してたりする可能性があるから厄介だ。



「あとはドロシーの指示はないな? あるならいまのうち吐け。あとでウソが発覚したさいは遠慮なく拷問等の方法を使わせてもらう」



 アリスが頬に手をあて、ふぅとため息をつく。

「怖いお人。でもそこがステキ」

「返事は、お嬢さま。あるのかないのか」

 アンブローズは灰皿でタバコを消した。間を置かずソフトパックを手にとりタバコを一本くわえる。


「ハーブ入りの無害なものとはいえ、それだけ立てつづけに吸ってるってなんか心配。なにかのトラウマでも打ち消してますの?」

「ぜんぜん」

 アンブローズは答えた。

「俺も心配。一晩中いっしょにいてもずーっと吸ってるよね」

「おまえはどっちの側としてしゃべってるんだ。ウォーターハウス中尉」

 アンブローズは顔をしかめた。



「おとなしく白状いたしますわ。じつはドロシーさんにもう一つ指示されたことが」



 アリスが唐突に告げる。

 アンブローズは無言でアリスの幼い顔を見た。

 真意をさぐろうと、しばらく表情をうかがう。

 灰皿に灰を落としてから、おもむろに言葉を返した。


「……口からでまかせじゃないだろうな」

「誘導すればうたがう、はじめから正直に話してもうたがう。ほんとむずかしいかた」


 アリスが唇を尖らせる。

「言ってみろ」

 アンブローズはそう返した。

「まず、財閥を危険にさらしたとしてもドロシーさんの指示にしたがうことに決めたのは、アボット財閥だって国に恩を感じているからですわ」

「そうか」

 アンブローズはタバコの灰を落とした。

 当時のヨーロッパ共同体の混乱と他国のゴタゴタをうまく利用してえげつなくのし上がったように聞いているが、恩はあったのか。

 なにせ生まれるまえのことなので、そこは教育機関で使われていた資料と図書館(ハブ)のデータを見るしかない。



「アボット社としてもこれが外部に知られれば、とうぜん信用に関わりますわ。でもそれ以上に国家転覆なんてものが成功してしまえば経済活動をする土地を失くしますもの」



「んで。ドロシーのもう一つの指示ってのは?」

 アンブローズはタバコをつよく吸った。


「議会庁舎ビルの七十階。あそこの防犯カメラは一つをのぞいてNEICのものにされてしまったけど、すべてのカメラに以前こっそり空間光変調機能とDNA解析機能をつけてましたの」


「それもドロシーの指示か?」

「それはアボット社の上層部が独自にやってましたわ。でもドロシーさんにはバレていたみたい。」

 アリスが肩をすくめる。

 アンブローズはトントンと灰皿に灰を落とした。



「こちらとしてもデータはじゅうぶん集めましたわ。ドロシーさんは、あなたが回収に行ってくれるよう仕向けてほしいって」



 無言でタバコを吸う。

「……NEIC製のやつにもつけてんのか」

「そ。だからバレたら大変」

 アリスが肩をすくめる。

「企業間の裁判沙汰になるな」

 アンブローズは答えた。


「アボット社の特別処理班が変装して行ってもやれそうな仕事だが」


「でもドロシーさんは、あえてあなたご指名ですわ」

 アリスが答える。

 だれにウソをつかれていて、だれを信じていいのか。

 少なくとも議会庁舎ビルの七十階で(おとり)としての動きをしてほしがっているという解釈でいいのか。


「条件がある。そのカメラ集めたデータもこっちに提供しろ」


 アンブローズはタバコをつよく吸った。

「これについては、あなたのために得ようと思ったデータですもの。提供いたしますわ」

 アリスがにっこりと笑う。

 アンブローズは無言で目を合わせた。

「わたくし、やはりあなたのいい伴侶になれると思わなくて?」

 無視して煙を吐く。



「分かった。回収に行ってやる」

 アンブローズはタバコを消した。





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