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15/22

15:売却の段取り


 片方が「すみませんですた」と噛んでいたけど、反省してくれたようだ。

 飛んだ友人を拾って帰ってあげてと頼み、速水さんたちと公園を出た。


「ひなたくんカッコ良かったよ」

「ほんとですか? じゃあ今度から投げるようにします」

「そこじゃなくて(笑)拾って帰ってあげてって頼んだとこ」

「ああ、でも投げないと拾うよう頼めないですよ?」

「ちょっと! あんたたち何で日常会話みたいに話してんのよ!」


 日常と言うほど長くないけど、濃い時間を過ごしたのは間違いない。


「慣れって怖いですね(笑)」

「ほんとだね(笑)」

「だぁかぁらぁ!」


 美優さんを「まあまあまあ」と宥め、静かに話せるレストランに案内してくれるよう頼んだ。


 美優さんと旦那さんの行きつけらしい十番の個室居酒屋に入り、速水さんと美優さんは中生とサラダ、揚げ出汁豆腐、焼き鳥盛り合わせを注文。

 物凄く俺も飲みたい! バイクで来なきゃよかった…


 焦れる美優さんを「まあまあまあ」と再び宥め、料理が出揃ったところで、俺と速水さんが異世界へ行くことになった経緯を説明。

 続けて、異世界がどんな所かや、どんなことをして、どんなことが起きたかを楽しく語る。


「鼻でひなたくんの腕折っちゃうとかすごくない?(笑)」

「笑って言わないでください。めちゃくちゃ痛かったんですから」

「………」

「そう言えばさ、あの黒いコルクみたいな樹皮が黒鉄木かな?(笑)」

「たくさん生えてたからそうでしょうね(なぜ笑ってるんだろう)」

「背は高かったけど意外と細かったね(笑)」

「二メートルくらいありましたけど、樹齢五〇〇年以上にしては細いですね」

「森の際の木は三メートルくらいあったもんね(笑)」

「ちょっとあんたたち、私を置き去りにしないでくれるかしら?」

「美優が泣きそう(笑)」

「どこがよ! 愛琉が酔ってるだけでしょ!」


 速水さんは酔うと笑い上戸になるらしく、中生一杯半で笑ったままコテンと落ちた。俺の膝の上に……嗚呼、神よ感謝します! うん、俺はアホだな。


「それでどうでしょう、証明できたでしょうか」

「あんなの見せられたら信じるしかないじゃない」

「ありがとうございます。では、継続的に協力して頂けると考えても?」


 美優さんは頷きながら、相談をしようと言ってくれた。


「先ず、金の買い取りに問題があるかないかで言えば、何もないわ」


 刻印がない金スクラップや砂金、金箔なども買い取るそうだ。

 店舗には比重計なる便利な物があり、純度鑑定も簡単にできる。

 但し、塊の場合は中に空洞があると正しく測れないとか、指輪のように宝石がついた状態も測定はできない。

 時間がかかってもいいなら、粉砕鑑定をする方法もあると。


「その辺はモノ次第よ。愛琉の話だと結構な金額になるみたいだけど、ひなた君に支払えばいいの? それとも折半?」

「それについては速水さんと相談してから回答します」

「一万二万じゃないのだから、ちゃんと確定申告しなさいよ」

「そうか、そういうのもやらなきゃいけないんですね」

「確定申告したことないの?」

「ありません」

「勤め先の年末調整はあるわよね?」

「ありますけど、やったことはありません。入社して半年も経ってないので」

「あらそう、お若くてよろしいこと」


 なぜか睨む美優さんの質問ポイントは、「税金払わなきゃダメよ」と。

 向こうで払って、こっちでも払うとはこれ如何に。


 ともあれ、あと二ヵ月もすれば人生初の年末調整がある。

 給与以外の所得を雑所得といい、給与との合計が四五万円を超えると課税対象になる。

 おまけに、確定申告が必要になるため、ほぼ間違いなく会社に知られると。


「勤め先は副業オーケーなの?」

「分かりません」

「確認しておきなさい。経費だってかかってるのでしょう?」

「今回の案件はカセットコンロ四十台とガスボンベを…たくさん売る代金です」

「え!? ちょっと待ってよ…そんな物で一キロ以上の金が手に入るの?」

「速水さんの試算だと、一五五〇グラムです」

「……ねえ、私は行けないの?」

「おそらく無理かと(行きたいんだ)」

「今から試しに行くわよ!」

「えっ?」


 美優さんが店員さんを呼ぶベルを連打すると、店長さんがダッシュで来た。


「この子ここに寝かせておくから誰も入れないでもらえるかしら?」

「全然構いませんけど、何時間くらいでしょう?」

「ひなた君、往復でどれくらいかかるの」

「三〇分もかからないですけど…本気ですか?」

「当たり前じゃない。行くわよ」


 美優さんが颯爽と出て行った。

 そんな美優さんを後ろに乗せ、一〇分くらいでお稲荷さんに到着。

 美優さんは柏手を十回くらい打ったが、もちろん異世界へは行けない。


「チッ、ひなた君やって見せて」

「はい(舌打ちした)」


パンパン


 既に見慣れた石碑の前です。ありがとうございます。


パンパン


「只今戻りました」

「っ!? ……え? 今行ったの? ちょっと消えただけなのに?」

(ほんとに一瞬なんだ)


 ともあれ、時間のことは話してなかったと思い、あっちに居る間はこっちの時間が、こっちに居る間はあっちの時間が経過しないと説明した。


「どうして私は行けないのよっ!!」

「(怖っ)行ってどうするんですか?」

「儲けるに決まってるじゃない!」

「えぇ…」


 違うんですよ。

 儲けに行くんじゃなく、役に立つために行った結果でしかないんです。

 同じようで全然違う。


 個人的にはこっちで遣ったお金プラスアルファでいいんだけど、最終的にモノの価値を決めるのは現地の人だ。変に安く売るのも違う気がするだけであって、他意はない。


「他には何を売るつもりなの」

「確定してるのは除雪機です。豪雪地域なんですよ。あ、そうだった」


 メジャー買うの忘れてたと思いつつ、バックパックから半分に折り畳める三〇センチ定規を出し、スマホのライトで照らしながら鳥居の手前端からお社までの距離を測る。メジャーは必要になるだろうから買わねば。


「何してるの?」

「軽自動車が入るか測ってます。四…五…」

「えっ、車でも行けるの?」

「七。バイクで行ってるので問題ないはずです。八…九…」

「車に乗ってれば私も行けないかしら?」

「十。たぶん無理かと。十一。大丈夫だ、良かった」


 実際には、お社の基礎石の端面まで三メートルと四八センチ。

 念のために鳥居の内幅も確認しようと、手を水平に広げる。

 うん、余裕だ。


「楽しそうね」

「はい、楽しいです。だって異世界ですよ? 魔法もありそうですし」

「どうにかして私も行けないかしら…」

「本当に行きたいんですね。例えば週一でお参りして、美味しい油揚げをお供えするとか?」

「ひなた君はそれで行けるようになったの?」

「お稲荷さんはそんな風なこと言ってました」


 父方の爺ちゃんは、昔ながらの豆腐屋さん継いだ四代目。

 夕方には寝て暗い内から豆腐を作り、薄揚げや厚揚げも作っている。

 父さんは豆腐屋が嫌でこっちの大学へ進学したらしいけど、叔母さん夫婦が五代目を継ぐと頑張っている。


「土曜に薄揚げと厚揚げが届くのでお裾分けしますね。びっくりするくらい美味しいから食べてみてください。個人的には生姜醤油がオススメです」

「楽しみにしてるわ。近いしお参りしようかしら」

「一緒に行けるようになるといいですね。速水さんも喜ぶと思います」

(裏表のないいい子ね。愛琉が気に入るはずだわ)


 居酒屋に戻るも、速水さんはぐっすりスヤスヤ。可愛い…

 今日はあっちへ戻れないと確信していたら、美優さんがご自宅に連れて帰ると。

 速水さんのスーツやら何やら、一通り置いているらしい。


「お住まい近くなんですか?」

「すぐそこのマンション。徒歩三分ね。ほら起きなさい愛琉、帰るわよ」


 流石にいいとこ住んでる。


「んぅ…ひなたくんと帰るぅ…」

「はいはいそうね、帰るわよ!」

「はぃ…」


 本当に仲が良い。俺には親友っていないな。


「ひなた君またね」

「今日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」

「ん~ひなたくん、おやすみなさぁぃ…」

「はい、おやすみなさい速水さん。また明日」

「はぁ~ぃ…」

「機会があれば私の主人にも会ってね。本社勤務だから軽く巻き込むわ」


 美優さんに再度お礼を伝えてアパートへ帰った。


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