14:都内ファンタジー
もし可能なら、親友さんに協力を頼みたいと言ったのは俺だ。
あっちの金が紛い物じゃないなら、売却は継続的なものになる。
売却量が右肩上がりで増えると仮定すれば、出処を話さない訳にはいかない。
であれば、現会長の孫にして社長令嬢の親友さんに異世界のことを話し、秘匿を条件に協力してもらう関係が理想的だ。
親友さんから何らかの見返りを要求されるとしても、それが合法である限り、最大限譲歩すべきだと俺は提案した。
速水さんもすんなり合意してくれたけど、ここからの展開は手成りになる。
「はぁ、愛琉が不治の病に罹ってるのは分かってるけど、流石に冗談がすぎるわ」
「また言った! 病気じゃないわよ!」
「はいはい、愛琉はちょっと黙っててね?」
「うぅ…」
早くも二人の関係性が手に取るように分かってしまう。
そういう意味なら、親友さんは速水さんの秘密を前々から秘匿している奇特な人物と言えるかもしれない。
「ひなた君は愛琉が患ってる病気を知ってるの?」
「ちょっと!」
「黙ってなさいって言ったでしょ!」
「はい…」
なるほど、親友というより姉…いや、お母さんだな。物凄くしっくりきた。
「速水さんが末期患者なのは既に知っています」
「ひなたくんも言い方!」
「いいじゃないですか、俺は速水さんの趣味嗜好を尊重します」
「ほんとに? 実は変な女って思ってない?」
「微塵も思いません。プライベートは天然で少々ガードが甘いと思いますけど」
「そ、そうかな?」
「はい、仕事中とは丸っきり別人です。危なっかしくて目が離せません。速水さんのお父さんが心配する気持ちも理解できるというものです」
「えぇ…」
「ふふっ、ふふふふっ、感心するくらい良く分かってるのね」
「ちゃんと話したのは昨日が初めてですけど、実質的には四日ほど一緒に過ごしてますから。信じられないでしょうけど」
親友さんは意味が分からず瞬きをしたが、すぐに目を細めた。
「私も強制的に読まされたから知識がない訳じゃないのだけど…本当なの?」
速水さんが「強制的に読まされた」のフレーズに反応してるけどスルーだ。
「正直に言います。異世界とこっちを行き来できるのは事実ですし、俺は美優さんの都合や立場も考えず巻き込みたいと画策してました。速水さんには、可能なら協力してもらいたい、という言葉を使いましたけど」
「ひなたくん…」
「ごめんなさい速水さん、本当はどうにか誤魔化そうと考えてました。けど、お二人のやり取りを見て、それは駄目だと思いました。美優さんを騙すのは、速水さんを騙すと同じだと。本当にごめんなさい」
「ううん、正直に言ってくれて嬉しい。ひなたくんは、いつも私のことを一番に考えてくれるから」
心の底から安堵しながらも、大きな軌道修正が必要だと思考を巡らせる。
すると、居住まいを正した美優さんが口を開いた。
「ひなた君、異世界の実在を私に証明できる? 証明できるなら、私も出来る限りの協力を約束するわ」
この展開は想定していた。けど、お稲荷さんへの願い事を前提にしたものだ。
お稲荷さんと二回目に会った時、「リアルについてなら少し助力できる」と言ってくれた。
確証なんてないけど、美優さんが異世界のことを口外できないようにするくらい、お稲荷さんなら容易いんじゃないかと思う。
でも、その考えは捨てなきゃならない。
美優さんのことを、俺が信じれば済むことだ。
「分かりました。美優さんを異世界へ連れて行ければ話は早いんですが、十中八九は無理です。なので、俺がこの体で証明します」
「あ~、ひなたくん頭いい!」
「あ、ありがとうございます」
やっぱり天然ですね…
人外染みた力や動きを晒すリスクは小さくないと思うんですよ。
速水さんの天耳通がまだ何の仕事もしないから、神通力のヤバさを体感できないのは分かるんですけど。
「ひなた君の体で? どういうこと?」
「証明ですから見て頂くしかありません。いつならお時間を頂けますか?」
美優さんが腕時計に目を落とした。俺は美優さんの背後にある壁掛け時計へ目を向ける。
二十一時三十二分か、結構長居してる。
「今からでいいわよ。主人に電話してくるから少し待っててもらえる?」
「はい」
「お腹空いた。このお菓子もらっていい?」
「好きなだけ食べなさい」
ほんと母娘だな。
「ひなたくんも食べる?」
「はい、頂きます。何時間前に食べたか判らなくなりますね」
「ほんとだね」
数分で戻って来た美優さんの案内で、店の裏口から外へ出た。
営業は二十一時までだったらしく、速水さんは閉店していると知っていたようだ。
言ってくれればいいのに。
「美優さん、この近辺で人目につかない広い場所ってどこでしょう?」
「都内で無茶なこと言うわね?」
「すみません、今日は想定してなかったもので」
「そうね…この時間なら芝公園かしら」
美優さんと速水さんが乗るタクシーを追う形で芝公園へ向かった。
東京タワーやホテル、街灯の明かりを避けられる場所を彷徨いながら探す。
この辺でいいかなと思った時に、ここは異世界かと思うようなイベントが…
「お姉さんたち可愛いねぇ。俺たちと飲みに行かない?」
「うわ、二人ともマジ可愛いんだけど(笑)」
「公園とか誰得だよと思ったけどミラクル起きてんじゃん(笑)」
速水さんは俺の横、美優さんは俺を壁にする感じで背後にいるのに、タトゥーがっつりの三人連れは俺の存在を完全無視。慣れてるってやつですか。
「すみません、俺たち予定があるので」
「いやいや、一人で二人は欲張りすぎじゃね?」
「予定は変わんだよ。つーかクソ暑ぃのに革ジャンとかバカなのお前(笑)」
「バイクで来たので」
「だったらバイクで帰れよ(笑)」
存在感が圧倒的なディアリィさんに会ったからか、恐怖心が全く湧かない。
彼らより毒カエルの方がヤバい気さえする。実際ヤバいか。
「ひなたくん、場所変えよ?」
速水さんの表情も普段と変わらない。俺と同じで何とも思ってないんだろう。
美優さんは…あはは、辟易した顔してる。ナンパされること多いのかな。
「相談なんですけど、この人たちぶん投げてもいいですかね?」
「「ア゛?」」
「ナメた口きいてんじゃねぇぞ!」
速水さんが苦笑している。美優さんは驚いている。
ガタイのいい男は俺の胸ぐらを掴んでいる。
まあ、東京のド真ん中でファンタジーするのも悪くないということで。
「自業自得だと思ってください」
胸ぐらを掴む男の手首をそこそこしっかり掴んだ。
「だっ!? は、放せテ――」
男のベルトを掴みつつ、槍投げをイメージして小さなサイドステップで遠投。
ブンッッッ!!!
「「ばっ!?」」
「あ゛ぁああああぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「うそぉ…」
推定飛距離は…暗くて判りません。
水平気味に投げたから死にはしないだろう…たぶん。うん、大丈夫みたいだ。
「で、次はどちらが飛びます?」
二人の男は連れが飛ばされた方向とは逆へ走り去った。
薄情なもんだ。
逃がさないけど。
軽く腰を沈めて地面を蹴る。
一歩で五メートルくらい跳べるのは判ってるからもう一歩。
走る男たちの腕を掠めて間を抜けながら、体を捻って着地。
ズザザザザッ!
「なっ!?」
「な、何なんだよこいつ…!?」
「絡んどいて逃げるはないでしょう。オチはつけないと。そう思いません?」
言いながら、お誂え向きに設置してあるベンチを片手で鷲掴み…
(あぁ固定してあるのか。ふんっ!)
ガコッ!
持ち上げて肩をトントンした。
「す、すみませんでしたーーーっ!」
「マジすみませんですたーーーっ!」




