13:下調べ
コンロ十台入りのスーツケースを片手背負いして、バイクに跨る。
うん、余裕でイケる。スーツケース用のベルト二本で背に固定して準備完了。
速水さんが大笑いしてるけど気にしたら負けだ。
「あはは、ひなたくん何超人?」
「神通力のおかげですよ。速水さんを背負って走った時、全く重さを感じなかったんです」
「それは私が軽いからだよ?」
「…そうですね」
「変な間があったね? 私三十八キロだし」
「(んな馬鹿な。心臓強すぎ)速水さん一六五センチくらいあるでしょ」
「当たり。ひなたくんは?」
「俺は…一八〇です」
「変な間があったし何で目を逸らすのかな? 本当は?」
「……一七九.三です」
「細かいし七ミリって(笑笑)」
「個人的には大差なんです! 行って来ます!」
「気をつけてねー(笑)(ひなたくん超可愛い♪)」
村長さん家にスーツケースを持ち込むと、「それもいいなあ」みたいなことを言われた。何に使う気だろう。
二往復半でスーツケース二つと速水さんを運び、用水路の傍にある空き家へ。
暫定的な毒水の煮沸場にするそうなので、コンロ十三台を並べた。
「これで一安心じゃ。残りの三十台も頼むの。何度礼を言うても足りんわい」
「買って頂くんだから逆に恐縮してしまいます」
「何を言うとる。ヒナタとアイルが来てくれなんだら、儂らは冬を越せずに死んでおった。これは事実じゃ」
薪が生命線なんだな。にしても…
「そんなに寒くなるんですか?」
「寒さには慣れとるが雪はどうにも面倒じゃ。一階は埋まってしまうからの」
思わず速水さんと顔を見合わせてしまった。
屋根の傾斜が強くて軒先も長いから降るとは思ってたけど、そこまでとは。
「家から出られないんじゃないですか?」
「じゃから四十台を早う買い揃えねばならん」
もし俺たちが来てなかったらと思うとぞっとする。
「外に出なきゃならない時はどうするの?」
「板で雪を押し除けるに決まっておる。馬や家畜の餌と水は欠かせんし、老いた者しかおらん家に病人が出れば総出で雪除けじゃ」
「ひなたくん」
「俺もピンときました。除雪機ですよね」
速水さんが大きく頷いた。
「雪除けの道具もあるのか?」
「あります。けど結構お高いですよ(安いのもあるのかな?)」
積雪が多い地方で使われる自走式の小型除雪機を説明をすると、村長さんから一台でいいから是非にと頼まれた。どう運ぶか相談すると伝えて家へ向かう。
母さんの実家が秋田の山間部なので、見たことはあるけど使ったことはない。
かなり大きくて重そうだったから、車をちゃんと選ばないと積めない。
「軽自動車にギリギリ積める大きさだと思います」
「車で境内に入れるかな?」
「測ってみないと判りません」
鳥居の高さは確実に問題ないし、幅も軽なら入れると思う。
でも、鳥居からお社までの距離は微妙な気がする。
一年と少し前に母さんが十三年落ちの車を買い替えた時に、車のカタログを読み込んだから憶えてる。
母さんは軽のスーパーハイトワゴンを買ったんだけど、どのメーカーも全長が三三九五ミリだった。どうも軽は全長と全幅が決まっているっぽい。
運搬だけなら軽トラの一択だけど、乗用を考えればハイトワゴンがいい。
母さんのは荷室から後席までほぼフラットになる仕様だから同じ車種がいい。
「もし入れてもすごく目立つね。休日の夜なら大丈夫かな?」
「平日でも終電過ぎると人いないですよ」
「なんで知って…あ、残業?」
「何度か終電逃したので、椅子を並べて寝てました(笑)」
そもそもオフィス街だし、お稲荷さんの周辺も民家はないから静かなものだ。
何だかんだで色んな勉強になってる。
「話は変わりますけど、コンロもガスもやっぱりネットの方が安いですね」
「どれくらい安いの?」
さっきは大森駅前のスーパーで買ったけど、コンロは一台当たり四〇〇円、ガスは四十八本当たり七二〇円もネットの方が安かった。
コンロをあと二十三台買うので、それだけで九二〇〇円の差額が出る。
ガスは二〇〇本つけるから、五セット買うとして三六〇〇円。
合計なら一二八〇〇円もネットの方がお得だ。
「大きいね」
「大きいです。二人で食べ放じゃない焼肉に行けます。それか特上鰻重とか」
「お寿司がいいな。チェーン店でいいから」
「四回は行けますね(笑)」
「そだね(笑)(何この会話超楽しいんだけど!♪)」
それに、スーパーは店舗当たりの在庫が少ない気がする。
五徳が高いという条件もあるので、二十三台を一店舗で買うのは無理だろう。
その点も、送料無料で翌日配送可能なネットショップがいい。
「一つ気になることもあります」
「なに?」
「錬金術師の金が、本当に二十四金なのかです」
さっき軽く調べてみたら、金の精錬には膨大な手間暇がかかるようだ。
現代では電気分解が主流らしい。
それも色んな鉱物と一緒に熔かして九九パーセントの銅にして、銀や銅などの金属を電気分解することで高純度の金を取り出す。
こっちはファンタジーな錬金術だから、で済むならいい。
けど、いざ売る段階で「は? ナニコレ?」なんてことになったら大変だ。
「それは私も考えてた。さっき美優にメッセしたんだけど、まだ仕事中なのか既読にならなかったんだよ」
「親友さんですか?」
「うん。でね、後で一緒に美優に会いに行こ?」
「え…っと、俺が行っても大丈夫なんですか?」
「ん? 何か大丈夫じゃないことある?」
ちょいちょい感じてたけど、速水さんってプライベートでは天然かな?
金を売る相談なんだけどコレ、職場の後輩。
うん、個人的にはない方向性だ。
でもまあ、プロの話を聞けるのはありがたい。
「同行させて頂きます。早速バイクで行きましょう」
「急がなくても良くない? どうせ時間流れてないんだし」
「そうですけど、帰らないとネットで調べられないです」
納得した速水さんと石碑へ行く前に、ネットフェンスを村長さんに渡した。
カエルが戻って来る前にさっさと張ってしまう方がいい。
湖は来年夏の増水と雨季を迎えるまで毒水のままらしいけど、それはまあ仕方ない。
一件落着で石碑へ行き、エンジンを切ってバイクに跨ったまま柏手を打った。
「速水さん、すみませんけど人がいないか確認して合図をください」
降りた速水さんが、メットを被ったまま不審者でしかない挙動で鳥居の影から通りを覗く。なぜメットを外して普通に出て行かないんだろう。
振り向いて両腕で〇を作るところがまた…
思わず抱きしめたくなるほど可愛いが、そんなことを妄想してる場合じゃないのでバイクを押して通りへ出た。
「店舗に行くんですよね?」
「この時間ならそうだね。美優が任されてるお店は十番駅の近くだよ。暗闇坂って知ってる?」
「知ってます。確か一通ですよね」
「いっつう?」
「一方通行です。取り敢えず行きますから掴まってください」
さっくり辿り着いた店舗の店構えは、麻布十番だけあってゴージャスだ。
先に中へ入った速水さんが、自動ドアの向こうで手招きをした。
中へ入ると、速水さんの隣でブラックスーツ姿のスレンダーな女性が、
「背は高いけど、顔は意外と普通ね?」
「美優っ!」
普通ですみませんね! 言われなくても自分が一番分かってますから!
「初めまして、村上ひなたと申します。突然お邪魔してすみません」
「あらいい声ね。仕事もできそう」
「ひなたくんは優秀だし、すっごく頼りになるんだから!」
「ふ~ん、へぇ~~(笑)」
「な、なによ」
「別に? もう心配しなくてもいいみたいって思っただけ。こっちよ」
頑張れ俺のポーカーフェイスと念じながら、対面のカウンター席じゃなく、奥の応接室に案内された。
「それで、相談って何?」
「金を売りたいと思ってるの」
たぶん純金だけど判らないとか、金がどんな姿なのかも判らないとか、たぶん一五〇〇グラムを超えるくらいとか、曖昧でしかない説明をしていった。
「愛琉だから盗品の心配はしないけど、曰く付きなの?」
速水さんが俺に目を向け、俺は頷きを返した。
「美優が家族にも誰にも言わないって約束してくれるなら話す」
「……社内もダメという意味?」
「うん、無理なら帰る。でも、美優しか頼れる人がいない」
「ふぅ、分かった。愛琉には借りもたくさんあるし約束するわ。それで?」
「異世界から持って来る金なの」
親友さんが口を半開きにして呆れた。




