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12/22

12:ドキドキ


 村長さんの家に行くと、村長さんとジェリドさんが焦れてる雰囲気で待ち構えていた。

 村の皆さんは農作業に精を出している時間なので、来るのがちょっと遅かったようだ。

 こっちも色々あったからそこはご容赦願います。


 昨日、脱兎の如く逃走したところからの一連をフィクション含みで語る。


 大狼は魔物じゃなく、北の大地を守護する神狼オルファだったこと。

 神狼オルファが人語を理解し話せること。でも音声ではない。

 なぜか神狼オルファが俺たちを気に入り、縁を結んだこと。

 縁を結んだ際に、俺がディアリィと名付けたこと。

 俺が黒鉄木を伐りたいなら、伐ってもいいと言われたこと。

 伐採に際して無用な殺生をしたら、ディアリィさんが怒り狂うこと。

 食べるための狩りなら何の問題もないこと。


「要旨はこんなところです」

「………儂は言葉が出てこんぞい」

「義父殿、先ずはヒナタとアイルに礼を言うべきだ」

「確かにそうじゃ。ヒナタ殿、アイル殿、毒水の事と言い毒カエルの事と言い、世話になってばかりじゃ。ラウネ村の長として、この大恩は決して忘れんと誓う」


 村長さんが胸に手を当て目を伏せた。こっちの礼儀作法なんだろう。

 ジェリドさんはイルベスタという町だか都市へ発つ準備万端だけど、着ていた外套を脱いで座り直した。何だか難しい顔をしている。


「義父殿、まだ先のことだが、代官様に黒鉄木についてどう話すか考えねばならん」

「そうじゃのお。大狼が神獣様じゃったなど俄かには信じて頂けんじゃろ」

「ヒナタが共に行かねば死人が出るという話もだ」

「難儀じゃのぉ…」


 まだ先のことか。

 チェーンソーが買える金額なら、そんなに先の話じゃないんだけど。


「愛琉姉さんから何かありますか?」

「ジェリドさんが立つ前に合意したいことがあるわ。黒鉄木の利益分配についてよ」


 速水さんはラノベ知識を活かしたのか、税金のことが気になると口にした。


 村長さんの話によると、原材料に該当する物品の租税率は売却額の三割。

 これが製品になると四割で、製品が嗜好品に該当する場合は五割になる。

 怖ろしいボッタクリだ。


 ともあれ、黒鉄木は原材料なので三割を徴収される。

 五〇〇年物なら五〇〇万ゴルドとの話なので、三割を引けば粗利は三五〇万。

 その三五〇万を、俺たちとラウネ村でどう分けるか。


「私たちが七割、と言いたいところだけど五割でいいわ」

「待て、流石にそれは低すぎる」

「うむ、認証を持つ商会なら八割を要求してくるところじゃ」

「話はまだ終わってないわ」


 速水さんも俺と同じくチェーンソーを想定してたのだけど、チェーンソーを十年満期のリース販売にすると言い出した。

 黒鉄木が本当に鉄と同等の硬度なら、チェーンやモーターにかかる負荷は相当に高い。


 そうなると頻繁な部品交換はもちろんのこと、本体の買い替えが必要になるかもしれない。

 壊れる度に新品の部品や本体を買うより、交換部品や取り替え費用も込みのリース契約にした方が、瞬間的な村の費用負担は軽くなるという提案だ。

 俺とは目の付け所が違う。リースは料率に応じた金利も取れるのだし。


「悪くない話に思えるの」

「私たちの国では普及している方法よ。特に高額な物にね」

「察するに、コンロよりもかなり高価で複雑な道具なのだな」

「理解が早くて助かるわ。比較にならないほど高価で複雑よ。但し、」


 村の人がチェーンソーを使って伐り出した黒鉄木の売却益についても、無条件に五割を俺たちの取り分にするのが条件、と。

 悪い顔が少し漏れ始めた気が…


 とはいえ、俺もその辺は少し考えていた。

 村の人がチェーンソーの取り扱いに慣れたタイミングで、ディアリィさんに「俺がいなくても村の人を襲わないで」とお願いするつもりだ。

 じゃないと、俺がプロの木こりになってしまう。


「その道具はどれ程に早く伐れるんじゃ?」

「試してみないと断言はできないけど、日に一本は伐り倒せるんじゃないかしら」

「「なっ…!?」」


 数年がかりを一日と言われれば、それはもう驚くしかない。


「農作業に支障が出ない人員数で、暖かい季節に伐採できれば好都合でしょう?」

「むぅ、何も犠牲にせずとも良いのか」

「瞬く間に村が潤うな」

「そこは少し気をつけるべきだと思います」

「そうね、ひなたくんが言うとおりよ」

「どういうことだ?」

「需要と供給のバランスです。言い換えれば相場変動ですね」


 供給よりも需要が高ければ物は高く売れる。つまり相場は上がる。

 しかし、需要を超える量が安定供給されると、相場は一気に暴落する。


 春から夏にかけて伐採した黒鉄木を保管しつつ、相場が崩れない量を適当な頻度で市場に流せば、長期的な高利益の確保と収支予測が可能になる。

 これは人員や作業時間の削減にも繋がるので、伐採に偏重して食料自給率が低下するリスクを回避できる。天然資源はいずれ枯渇するから要注意だ。


「ひなたくん流石だね」

「恐縮です姉さん」

「生かさず殺さずか。儂らとは頭の出来が違うのお」


 その例えはちょっと違うような…


「そうなると代官様…いや、ご領主様まで話が行きそうだな」

「巡検が増えるやもしれんの」

「どうお伺いを立てるか決めてから始めればいいだけじゃないですか?」

「まぁそうじゃの。一日で一本伐れるなら急ぐこともあるまいて」

「確かにな。なら俺は発つぞ」

「うむ、野盗に気をつけるんじゃぞ」

(野盗!♪)

「分かっている。ではな」

「お気をつけて(速水さんが笑顔を輝かせてる…)」


 村長さんに「物資を物色してくる」と適当なことを言い、俺たちも場を辞した。


「ひなたくん、ヘルメット要らなくない?」

「ちゃんと被ってください。速水さんを傷物にする可能性は全て潰します」

「はい!(やだドキドキしちゃう…でも嬉しい♪)」


 満員電車に乗って気づいたのは、俺たちがかなり汗臭いこと。

 速水さんは「私じゃないもん」とか、「臭いの誰?」みたいな小芝居を繰り広げているけど、俺にそんな度胸はない。臭くてすみません!


「ひなたくんってどこ住んでるの?」

「綱島です」

「遠くはないけど近くもないね。着替えあるんだしウチでシャワーしよ?」


 臭いに顔を顰めていた周囲のサラリーマンが、「なんだとぉ!?」みたいな顔を一斉に俺へ向けた。リア充っていつもこんな優越感なんだろうか。


「じゃあお言葉に甘えます」

「もうすぐ一緒に住むんだから今更だよ」


 今度はめっちゃメンチ切られてます。

 フハハ! 羨ましいかサラリーマンよ! 俺もサラリーマンだけど。底辺の。


「お家に入ると自分の臭さが際立つね」

「ほんとですね」

「先に入っていいよ」

「いえ、チェーンソーを調べたいので速水さんお先にどうぞ」

「じゃあ、覗く時は言ってね? ポーズとるから(笑)」

「分かりました」

「えっ(ほんとに見られちゃう!?)」

「ジョークです」

「うっ、イジワルだ(私ばっかりドキドキしてる…悔しい!)」


 目を細めてバスルームへ入って行く速水さんに苦笑しつつ、チェーンソーを調べてみる。


 予想はしてたけど、大木を伐採できるチェーンソーはお高く三〇万円前後。

 かと思えば、替え刃は硬質材でも意外と安い。

 業界のカタカナ表記はチェーンソーではなく、チェンソーみたいだ。

 英語圏ならチェインソーなのだろうか。


「む、やっぱり講習が必要なのか。危ないから当たり前だよな」


 参ったなと思いながら調べてみると、サックリ取れそうだ。

 正式名称は〝チェンソーによる伐木等特別教育〟で、費用は二万円前後。

 座学が一〇時間くらいで、実技は九時間以上という規定。

 座学をオンラインでやってる業者もあるみたいだ。

 なるほど、顔認証システムで受講を確認するのか。


「有効期間が六十日だし申し込んでしまおう」


 オンラインで座学をやっつけて、土日で実技講習を受けることにした。


「お待たせー。どんな感じ?」

「受講が必要ですけどサクッとお!? なななんて恰好してんですかっ!?」

「バスローブ」

「何を着てるかじゃなくて! ああもぉ! お風呂お借りします!」

「ごゆっくり~(真っ赤になって可愛い♪ ドキドキさせるぞ作戦成功!)」


 さっきの絶対わざとだ…

 下着はつけてたみたいだけど胸の膨らみが凶悪すぎる…

 一緒に住んで大丈夫なんだろうか…頑張れよ俺の理性…


「女性って風呂場用品も多いんだな。色々お金かかりそう」


 シャンプーも高そうなので控え目に使い、コンディショナーは止めておく。

 ボディブラシも使う訳にはいかないから手で洗うしかない。

 風呂から上がると速水さんは外着に着替えていて、妙に楽し気だ。

 買い物してる間もはしゃいだ様子で、俺もすごく楽しかった。

 二人で大きなスーツケースを手に、ラウネ村へと戻った。


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