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11/22

11:説明です


 暗くなる前に寝たため、目が覚めて暗幕のようなカーテンを開けてみたら、外はまだ暗かった。

 二度寝のチャンスだと思ってベッドに潜り込み、どれくらい寝たのか判らないけど、腹の虫が鳴いた音で目が覚めた。


 卵粥しか食べてなかったもんなと思って部屋を出ると、一階からいい匂いが漂ってくる。

 この匂いは缶詰の焼き鳥だと確信して下へ行くと、速水さんからめちゃくちゃジトっとした目を向けられた。


「え…っと、おはようございます?」


 プイっと顔を背けられた。なぜだ、なぜご機嫌斜めなんだろう…

 それさえ可愛いと思う俺は首を吊るべきか。


 無言のまま缶詰とパックご飯の温めを手伝い、続けてカップ味噌汁のお湯を沸かしてダイニングへ。

 全ての用意が整ったところで、流石に我慢できなくなった。


「あの、どうしたんですか? 俺なにかしました?」

「…鬱陶しいって言った」


 五秒くらい考えて思い出した。ヤバい、言った。


「あれはだってほら! 速水さん逃げてくれなかったから!」

「私のことが鬱陶しいって言ったあ!」


 あ、これは言い訳が通用しないやつだ。

 父さんと母さんがケンカして、父さんが謝り倒すまで終わらないやつだ。


「心にもないことを言いました! ごめんなさい!」

「……鬱陶しくない?」

「俺が速水さんのことを鬱陶しく思うはずがありません」(キリッ)

「…もう言わない?」

「もう二度と言いません。絶対に言いません」(キリッ)


 心の底から安心したような顔になった速水さんが立ち上がり、俺の横に来て…


(へっ、えぇっ!?)


 頭を抱きしめられた。

 少し汗臭い。とても柔らかくて、すごく暖かい。


「私を抱いて逃げてくれた時ね、すごく嬉しくて頼もしかった」

「は、はい(私を抱いて、で終わってたら心臓麻痺だった…)」

「でもね、私もひなたくんのために頑張りたいんだよ。ちゃんと協力したいの」

「あ、ありがとう、ございます…」


 顔が、全身が熱い…心臓が破裂しそう…速水さんの鼓動も…速い。


「約束して。もう独りでどうにかしようとか考えないって」


 約束…してしまっていいんだろうか…

 ディアリィさんが魔物じゃなく、お稲荷さんを知ってたから無事だった。

 でも、今回みたいなことが起きたら、またやってしまう自信がある。


「約束してくれないんだ…」

「正直、もうやらないとは断言できません」

「そう。じゃあ私も同じことする」

「それは駄目です! 何が何でも駄目です! 許しません!」

「私も同じ気落ちなのに、ひなたくんだけズルイよ」


 同じ気持ちじゃない。これは平行線になってしまう。交わる気がしない。


「私って、頼りになる相方じゃなかったの? 嘘だったの?」

「嘘なんかじゃありません」

「じゃあどうして? やっぱりひなたくんズルイ」

「営業と技術に役割があるのと同じです」

「職種差別」

「区別です」


 側頭を鷲掴みにされ、ガバッと頭を放された。

 速水さん、目が座ってらっしゃる。

 相当怒ってらっしゃる。


「決めた。帰るよひなたくん。私お稲荷さんのお社壊すから」

「も、ものすごい力技…」

「そうだよ。私って負けず嫌いなの。女は男に守られてればいいっていう考え方も嫌い。ひなたくんがどんな屁理屈を捏ねたって、今のは明確な性差別だよ」


 二の句が継げない正論だ。ぐうの音も出ない。

 その真っ直ぐな眼差しが、うわべや建て前じゃないと強烈に主張している。

 ここで四の五の言うようじゃ、俺には異世界へ来る資格がない。


「分かりました、約束します。速水さんと二人で頑張ると約束します。見下した考え方をしてごめんなさい。俺は、速水さんを誰よりも頼りにしています」

「ならヨシ! 許してあげる!」


 決めた。言う。告白じゃなく説明だ。俺がどんな気持ちなのか。


「速水さん…速水愛琉さん!」

「な、なに?」

「前から憧れてました。今は大好きです。明日はもっと大好きです」

「え…えぇっ!?」


 速水さんの顔が真っ赤になった。俺の方が真っ赤に違いない。


「自分を犠牲にしてでも速水さんを守りたい。そう考えてしまう理由です。返事が欲しい訳じゃありません。理由と動機を説明しただけです。さあ食べましょう。いただきます」


 もう無理だ。顔なんて見れやしない。

 焼き鳥なのに焼き鳥の味がしない。

 味噌汁も味がしない。


(うそ、やだ、えっ? 告られたんだよね? 只の説明? えっ? え?)


 くそ、頭が爆発しそうだ。もっと味が濃い物が欲しい。醤油はどこだ!

 あ゛ーーー死ぬほど恥ずかしい! いっそ死んどくか? いや違うだろ!


「早く座って食べてください。焼き鳥美味しいですよ(味しないけど)」

「は、はい!」


(う、生まれて初めて好きって言われた…ど、どうしよう。

 お母さんに電話する? 私なに言ってんの?

 え、どうしよう。どうすればいいのか分かんない。

 とにかく焼き鳥を…あれ? 味がしない。

 ひなたくんが私のこと…や、やだ、大好きって言われた!

 明日はもっと大好きって言われたっ!!)


 流れに乗っただけなのに、なんかこうスッキリした気がしなくもない。

 卒業式の日に、ずっと好きでしたって言ってくれた下川さんも、こんな気持ちだったのかな。

 ごめんとしか答えなかったけど、もっと言葉を考えて答えればよかった。

 そもそも俺はなぜ断ったんだろう。今でも判らない。

 下川さんの泣き笑いの顔、今でも憶えてる。


「ごちそうさまでした。紅茶とコーヒーどっちがいいですか?」

「え、えっと、紅茶をお願いします…」

「お願いしますって(笑)」

「うぅ…」

「村長さんたちに昨日の説明をしたら帰りましょうか」

「そっか、何も話してないんだったね。何て説明する?」

「そこですよねぇ」


 お稲荷さんの部分を割愛して、どう辻褄を合わせるか。

 ディアリィさんが口裏を合わせてくれるならどうとでもなる。

 いや、気に入られて縁を結ばせてもらった、で通用しそうだ。


 問題は、チェーンソーがお幾ら万円するのかと、コンロ四十台とボンベ二百本を納品しつつ、こっちで五日間を過ごさないと入金がないこと。


「そうだ、速水さんはどうやって金を売るつもりなんです?」

「親友の実家が大手の質屋さんなの。ひなたくんも名前くらいは知ってると思う」


 聞いたら普通に知ってた。一、二を争う大手なんじゃないだろうか。

 ともあれ、速水さんと親友さんは大学の同期だそうだ。

 今でもお互いの家にお泊りするくらいの仲良し。

 親友さんは既に入り婿さんと結婚していて、跡を継ぐべく三年前から質屋の仕事を覚えている真っ最中らしい。

 今どきにしては早婚だけど、盤石な家業があればそんなものかもしれない。


「帰ってお買い物して、また直ぐこっちに来ようよ」

「あっちは十七時半くらいだから余裕ですけど、結構な荷物になりますよ?」

「一緒に頑張る! 大きいスーツケース二つあるし! でもシャワーしてから!」

「そうですね(笑)」

「あとさ、お金入ったら車買お? 私免許持ってるし」

「免許は俺もありますけど、車買えるくらいの利益が出ますかね?」

「村長さんの話を信じるなら、コンロ四十台で二〇〇〇万円近くなるはず」

「は……またまた、冗談ですよね?」


 速水さんがカバンから手帳とペンを出して書き始めた。


【前提条件】

・100円玉サイズの金が10,000ゴルド

・100円玉の体積は0.68㎤(だったはず)


【金の買取価格】

・12,000台後半/g ⇒ 仮定:12,500円


【比重】

・ 金 :19と少し(ちゃんと憶えてない)


【換算式】

・19×0.68=12.92g(10,000ゴルド分の金の重さ)

・12.92g×3=38.76g(30,000ゴルド分の金の重さ=コンロの単価)

・38.76g×40台=1550.4g(端数切捨て)

・1550g×12,500円=19,375,000円


 ママママジですか!? 俺の予定年収、税込み三八四万円なんですけど…


「ひなたくん、異世界最高だね! かかって来い住宅ローン!」


 速水さんが立ち上がって拳を天に突き上げた。


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