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私の世界にようこそ  作者: てけと
番外編『異世界旅行と罪滅ぼし』
156/189

シンの異世界訪問 後編

これで一区切りという事で。ここまでお読みいただいている方には感謝しかありません。

 シンが元の世界に帰ってから3日目の夕方。スーツ姿のシンは、少し速足で歩いていた。

 駅前だけは少し賑わってはいるが、少し離れると閑静な住宅街・・・というより畑や木々が生い茂る山が目に入る。単的にいえばかなりの田舎である。

 しかしシンはそんなことを特に気にせず、ただ目的地に向かって颯爽と歩いて行く。


「せっかくの週末だったからもっと早く着くつもりだったんだが・・・。走って身だしなみが乱れるのも嫌だし・・・。タクシーでも捕まえるべきだったか・・・」


 シンが滞在できる期間で唯一の休日だ。出来ればこの2日で用事を済ませ、考え付いたあることを実行したいと、そうシンは思っていた。

 しかし彼は熱中すると時間を忘れるタイプだ。気づいたらもうこんな時間だった。


 駅から30分ほど歩き、完全に山道に入ろうかというところでぴたりと足を止めるシン。


「ほんとにここなのか・・・?」


 シンの目の前には立派な家・・・というか屋敷と呼ぶにふさわしい大きな家があった。

 塀に囲まれて全貌は見えないが、正面の塀だけでも200mはある。よく見てみると汐見とかかれた表札がかかっていた。

 シンは恐る恐る呼び鈴を鳴らす。ネクタイが曲がっていないか確認しつつ、応答を待つ。

 少しすると奥の方からガラガラと扉が開く音がし、木製の門扉が少しだけ開かれる。


「どちらさん?見無い顔だけど・・・?」


 凛とした中年の男性が顔を出す。和服の作務衣(さむえ)を着ており、ここだけまるで昔にタイムスリップしたかのような感覚を覚える。


「御門慎二と言います。汐見真央さんのお宅はこちらであってますか?」


 まるでお手本のようなお辞儀をしてそう言うシン。


「そうだけど・・・君はマオの何?お友達?にしては見たこと無い顔だよ。今更何しに来たんだ?」


 マオの友達なら葬式で顔くらい見てるはずだ。そう言う意味も込めて男性はシンに言い放つ。


「俺・・・いや、僕は汐見真央さんの夫―――」


 とシンが全てを言い終る前に男性はシンの腹部に正拳突きを放っていた。

 まるで車にはね飛ばされたかのように、シンの体が吹き飛ぶ。


「おい母さん!薙刀持ってこい!こいつはぶっ殺して山に埋めてやる!」


 その怒鳴り声に反応して、数名が家の中から出てくる。

 ポニーテールを揺らしながら歩いてくる女性の手には棒術で使うような長い棒が二本握られていた。

 その棒を一本男性に投げると、男性は棒を受け取ると棒の先を中段に構える。


「流石に殺しちゃだめ・・・。痛めつける程度にしてあげてね?」

「おいてめぇ・・・もう一回さっきの戯言を言ってみろよ?お前は真央のなんだ?」


 シンが逃げられないようにするためか、腰の曲がった老人と、若い男性がいつの間にか真の後ろに回り込んでいた。

 シンは何事もなかったかのように飛び起きると、棒を構える男性をまっすぐ見て言う。


「俺は汐見真央の夫のシンと言います。今日はお義父さんとお義母さんにご挨拶に伺いました」

「死んで地獄に落ちろ」


 一瞬で間合いを詰められ、棒をまっすぐつく。常人には考えられない速度だ。しかし、それでも所詮はこの世界の人間だ。シンの生きる世界の住民たちの戦闘速度に比べれば・・・。

 しかしシンは避けることなく、腹に力を込め、地に着いた足で踏ん張る。それでも50㎝ほど後方に押しやられる。


「真央は三年前に・・っ!それなのに夫だとっ!」


 男性は棒を振るう。一般男性なら一撃目で病院送りだろう。しかしシンは耐える。痛覚が死んでいる彼だが、この男性の痛みくらいはわかる。

 肉体の痛みは、傷は、生きている限りいつか治る。しかし心が負った傷は、生きてる限り治らないのだ。死ぬまで痛みに悩まされる。忘れたと思っても・・・ふとした瞬間に痛む。そう言うものなのだ。


 10分ほど殴られ続け、シンの体は青あざだらけになり、額と口からは血が流れ、せっかく着飾ったスーツもボロボロになっていた。


「はぁ・・はぁ・・・。なかなかしぶといじゃねえか・・・。普通なら10回は死んでるぞ・・・」

「俺を殴りたければ好きなだけ殴ってください。でも満足されたら俺の話を聞いてください」

「上等だ・・・」


 棒を握りしめ、上段に思いっきり振りかぶる。そしてそれをシンに振り下ろす―――――。




「まぁまぁ。この辺でいいんじゃないかの?」


 シンの後ろにいた老人が、男性が振り下ろした棒を素手で掴んでいた。音もなく・・・。


「しかし・・!」

正人(まさと)君はまだまだ修行が足りんのぉ・・・こやつの持つ気に当てられよってからに・・・まぁ特異すぎるがの・・・人間の負の感情増幅させる・・・誰にとってもメリットの無いものじゃなぁ」


 老人はシンをジロリと見つめる。まるでシンを見定めるかのように。


「ふむ・・・。何か話があるんじゃってな?中で聞こう。付いておいで」


 スパーンっと小気味のいい音と共に、正人の頭をポニーテールの女性がはたく。


「やりすぎ!止めなかった私も私だけど・・・彼の気に飲まれてただけだったとは・・・」

「お前はいいのか!?真央の夫とか抜かすんだぞ!?」

「何か理由があるんでしょ?話を聞いてからに判断しよ?彼はその為にあなたの攻撃を避けずに受け続けたみたいだし」

「俺の攻撃が見えなかっただけだろ?」

「はぁ・・・だから修行が足りないって言われるのよ?相手の力量くらい立ち会った瞬間にわかるようにならないと」

「・・・そんなにあいつは強いのか?」

「さぁ?実際戦闘する気で立ち会ってないからわかんないかな?でも相当修羅場をくぐってるのはわかるかな~」


 ふふふとポニーテールの女性は少しにやけつつ、シン達の後を追って家に入って行った。








「ふむ・・・慎二君といったか。お主の話は分かった」


 目じりにたまった涙を拭き、シンを見る老人。


「真央・・・こんなに大きくなって・・・うぅ・・・」

「ちょっとあなた!見えないでしょ!画面の前に行かないでって言ってるでしょ!」


 ドガァ!と蹴られて、壁まで飛ぶ正人。しかしすぐカサカサと床を這い画面の前に正座する。

 シンの持ってきた映像をすぐに見ると言ったため、パソコンをわざわざマオの部屋から引っ張り出して大広間に設置して見ているのだ。


「それで?わしらにこのびでおれたーとやらを取ってほしいと?」

「はい。受けていただけますか?」

「もちろんじゃ。孫の為ならばそのくらいお安い御用じゃ・・・しかし」

「しかし?」

「お主をマオの婿と認めるのはの?」

「当たり前だ!マオだけを愛するというならともかく・・・何股する気だお前は!」


 映像を見終わったのか、老人の横に座る正人。そしてポニーテールの女性も正座して座る。


「紹介がまだじゃったな。わしが汐見誠(しおみまこと)。マオのお爺ちゃんと言ったっ所じゃな。こちらが汐見正人、マオの父親でわしの後ろに立ってるのが門下生の朝戸快(あさどかい)じゃ。」


 涙目でジロリとシンを睨む正人。


「そして私が現汐見流柔術十八代目当主であり、マオの母親の汐見真梨(しおみまり)よ。よろしくね慎二君」

「汐見流柔術・・・正人さんが当主じゃないんですか?」とシンは誠に聞き返す。

「正人君は婿養子じゃ。真梨がワシの子供じゃ。そして・・・汐見家にはしきたりがあっての・・・」

「私としては、真央は幸せそうだし、そんなしきたりなんてどうでもいいんだけどね~・・・慎二君強そうだし、私と試合しよう!」

「へ?」

「うむ。すでに裏山に準備をさせておる。向かうとしようかの」

「はい?」


 ガシッっとシンは正人に捕まり、山の方に無理やり連れていかれるのであった。






 



 木々が生い茂る山の中を4人は歩いて進んでいく。


「この山って・・・私有地ですか?」とシンが前を歩いている真梨に声をかける。

「そうよ。私たち汐見家が昔っから持ってる山の一部ね」

「へぇ・・・」

「着いたぞ。ここでしあってもらうとするかの~」


 そこは少し木を切り倒して開けただけの場所だった。特に何も変わったところはなかった。

 真梨は黒のチノパンに半袖の白のTシャツ、シンは破けたスーツの上着を脱ぎすて、ネクタイをとる。

 傍から見るとこれから試合するような服装ではない。しかし二人はある程度距離を取り構える。シンは両ひざを曲げ、両手をだらりと脱力させたように。真梨は半身になり、左手を前に。


「慎二君が真梨に一本でも取れたらマオの夫として認めよう!では始め!」


 誠の気迫のこもった開始の合図と共に、シンは間合いを詰める為両足に力を込める―――が・・


「遅いなぁ~慎二君」


 スパーンっと水面蹴りでシンの両足をはね、全く反応できなかったシンはそのまま横に倒れる。

 水面蹴りの反動そのまま、左足を天高く上げると、真梨は倒れ込んだシンの頭めがけてかかとを落とす―――。


 ドンッ!と地面をえぐり、シンの頭、数センチ横にかかとが落ちていた。


「どうしたの慎二君?ぼけーっとしちゃって・・・もう諦める?」

「いえ・・・いろいろ納得しただけです。もう一回お願いします」


 バッとシンは飛び起き、真梨はもう一度間合をとる。


「一回と言わずに何回でもかかってきていいよー!君の本気を見せてよ」

「期待に応えられるように頑張ります」


 そうしてシンは、ほぼ勝ち目のない試合に挑み続けることになった。


 

 



 ドォン!バキバキと木々が倒れる音が山をこだまする。真梨の攻撃で小さくはない木がへし折られ、当初試合を始めたころより、この場所は開けた場所になりつつあった。 

 シンと真梨が試合を始めて2時間ほどたっただろうか。いまだにシンはまだ真梨から一本をとれていなかった。


「相変わらずうちの嫁は化け物ですねぇ・・・」

「汐見家の女性はみんなあんな感じじゃよ正人君や。そう言う一族なのじゃ。しかし慎二君もよう防いどるな」


 シンは予測で数瞬速く攻撃を読み、ぎりぎり攻撃をかわしてはいたが、それで精一杯であった。

 攻撃に転しても、いなされ、倍の力でカウンターを食らう。シンはほぼ八方ふさがりになっているように見える。

 天性の膂力(りょりょく)に、幼いころからの鍛錬。そしてその膂力にして剛の拳を振るうかと思いきや、武術は柔術と言うにふさわしい、カウンター主体の技なのだ。

 この世界で、誰がこの人に敵うだろうか。


「楽しくなってきたけど・・・もうそろそろ限界かな?慎二君避けてばっかになって来たし」


 つまらなさそうに真梨はそう言って動きを止める。この平和な世界に生まれていなかったら、きっと彼女は世界最強の者として君臨していただろう。汐見家とはそもそも最強の戦闘民族なのだから・・・。


「ん・・。なんとなくわかってきました。そうですね。そろそろ日も暮れますし、これで最後にしますか」


 シンはそう言ってだらりと構える。構えるというよりは自然体に近い、ぼーっとただ立ってるだけのように見える。


「ふーん。まぁ私から一本って言うのは無理難題過ぎたね。この一撃で立ってられたら合格にしてあげるよ」


 そう言うと真梨は拳を握り、腰に据える。

 ドォンと地面を蹴る音と共に、真梨はシンに肉薄する。そしてシンの頭めがけて上段()()を放つ。常人なら首ごと刈り取られる威力の蹴りだ。しかし・・・。


「がぁ!?・・・なんで・・・!」


 頭に蹴りを受けたのは真梨の方だった。側頭部にシンのかかとが当たっていたのだ。

 当人のシンはというと、地面に転がっていた。ちゃんと頭は吹き飛んでいなかった。


「完璧ってのはまだ難しいですね・・・。真梨さんのは程遠いですが、僕やココには相性のいい武術なのかもしれませんね。柔術って言うのは。勉強させていただきました」


 あろうことかシンは、真梨の蹴りに対して力をいなし、それどころかその力を利用して、真梨にカウンターを決めたのだ。攻撃の完璧な予測による先読みがあってこその芸当だった。力を返し切れず体勢が崩れて地面に転がってはいるが・・・。


「ははは・・・・。あーっはははははは!すごいね君!見事一本を取られたよ!」


 山の中で、真梨の笑い声がこだまし、その様子を見ていた誠と正人は呆気にとられ、ポカーンとしていた。


「もうちょっと真梨さんの動きを勉強したかったですが、もう遅いですし帰りましょう。食事作りますので」


 飄々とそんなことを言いながら、山を下りる準備をするシン。真梨は満足そうな顔でさっさと山を降りていく。それに快が付いて行く。正人と誠は正気に戻るまでもう少し時間がかかるようだった。

 


 


「うーんうまい!いいねぇ―慎二君!料理までできるなんて!真央の事よろしく頼んだよ?」

「もちろんです真梨さん」


 山から下り、すぐシンは食事の支度にとりかかり、現在円卓に家族全員が座り食事をしていた。


「しかし最後の蹴りまで予測したのはすごいねぇ~。普通だったら拳が飛んでくると思うけど?」

「突きを放つなら前足に重心が乗るはずなんです。しかし真梨さんは後ろ足に重心を残していたので・・・。でも本来は袴とか着て戦うんでしょ?重心移動を悟られない様に」

「もうそんな命がけの戦闘もすることがないからね~戦闘用の道着なんて埃をかぶってるさ。おかわり!」

「はい!」と快がすぐに現れて茶碗にご飯をよそう。

「真央に送るビデオレターをとるんだっけ?」と茶碗を受け取りながらシンに聞く真梨。

「はい・・・そのつもりだったんですけど・・・誠さん。一つ僕の頼みを聞いてもらえないでしょうか?」

「ん?なんじゃ?」と食事を食べ終わり、お茶を啜っていた誠が答える。

「その・・・裏山を僕にくれませんか?」


 ブッ!とお茶を吹き出し、ゴホゴホト咳込む誠。


「ゴホ・・うちの山が・・どれほどの広さかわかっておるのかお主?」

「そんなに広いんです?」

「そうじゃな・・・わかりやすく言うならうちの山を売りに出せば数十兆くらいにはなるじゃろうな・・・」

「・・・ちょうどいいですね。マオと話してみたくないですか?」

「どういうことだ?」と正人も口を出す。

「僕の考えがうまくいけば・・・一週間に一回くらいはマオと通信できるようにできると思うんです」

「「「本当か!?」」」

「うちの神様が許してくれるならですが・・・試してみる価値はあるかと」

「ふむ。それならば山くらい安いものよ。好きに使ってかまわんよ」と再びお茶を啜りだす誠。

「ありがとうございます。ではさっそく取り掛かります。あ・・・それともう一つお願いが・・・」

「なんじゃ?」

「通信する際もうひと家族呼んでほしいんです」

「それくらい構わんよ」

「ありがとうございます。では」

「え!?今から?もう夜だよ!?慎二君?」


 真梨がそう引き留める声に一瞥もせず、シンは暗闇に消えて行った。








 シンが作業を開始してから3日目の夜。汐見家の家族がとある場所に呼ばれる。


「慎二君?ここは?」


 汐見家から1時間ほど山に入り、大きな崖の前でシンは歩みを止めた。崖の亀裂に挟まっている石をシンが押すと、ゴゴゴッと扉が横に開く。

 

「流石にバレるといろいろまずいので隠し扉にしてあります。もう一回押せば締まりますので・・・もちろん中にもボタンがありますので・・・」


 隠し扉をくぐり、階段を降りると和風な部屋が二つある。畳にモニターが置いてあるだけの質素な部屋だ。


「え・・・?これを3日で・・・?」と真梨は驚く。

「いえ・・・実はなるべく見えない様にカモフラージュしていますが、パラボラアンテナが数十基山に設置してあります」

「そんな事できるのか・・?嘘をついているようにも見えんが・・・」とあごに手を当て正人はシンをジロリと見る。

「あぁ・・・僕にはこんな能力がありまして・・・」


 と言いながらシンは椅子を数個具現化する。


「何とも面妖な・・・この力を使えば真梨にすぐ勝てたんじゃないのかの?」と誠が尋ねる。

「自分の力で認めてほしかったですし・・・。真梨さんの使う武術に興味もありましたし。っと、これが前言ってた誘ってほしい家族の住所です。僕の名前とこの手紙を渡せばわかってくれると思います」

「ふむ。確かに受け取った」


 シンは誠に手紙を渡し、この施設と通信する時期について説明する。


「ひとまずテスト通信と時間のずれの確認が必要なので、明後日の夜通信を行いますのでよろしくお願いします」

「その辺は正人君の方が詳しそうじゃな。ぱそこんなるものは儂にはよくわからんしの」

「真央の為だ。俺が全力尽くそう。頼むぞ・・・慎二・・」

「はい。では僕はもう帰らないといけないので・・・ここで失礼しますね。皆さんお元気で」


 そう言うとシンは少し急ぎ足で山を下りていく。

 実を言うとシンはティアから貰った金をほぼすべて使い切っていたのだ。なので帰りの交通費もなく走って帰るしかない。

 

「ぎりぎり間に合うよな?間に合わなくても拾ってくれよ・・・頼むぞ・・・」


 そんなことを言いながら、シンは目的地まで走り続けるのだった。

 もちろんこの後ティアにこっぴどく怒られつつも、何とか許可してもらったのは言うまでもないことだろう。

今後は2期作を描きつつSSとかテキトーな感じで書いて行きます。

今後ともよろしくお願いします。

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