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深淵紀行  作者: 梓UU
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学院編:第七話:各々の信念

警告が遅すぎた、戦場の多くは反応する間もなく、黒竜が牙の生えた巨口を開き、天を覆い地を埋める青藍の冥火が瞬時に戦場全体を飲み込んだ。


その風貌の平凡な冒険者は即座に空間跳躍魔法を発動し、人々が最も密集する場所へと駆けつけ、手を掲げて空間障壁を張り、攻勢を防いだ。


しかし他の者たちにはその幸運はなく、彼らはことごとく火焰に飲み込まれ、悲鳴を上げる間もなく、次々と人型の氷像へと凍りついた。


黒竜の無数の棘が生えた長い尾が、氷像の群れに激しく叩きつけられた、氷塊は轟音とともに砕け散り、地面には底知れぬ深い亀裂が走った。


舞い上がる塵埃が生存者の視界を遮り、砕けた氷の破片に暗赤色の塊が混じり、人々の足元や周囲に飛び散った。


「くそっ、俺一人では到底抑えきれない!」


「この奴の力は俺の上を行く……」


風貌の平凡な冒険者は空間障壁を解除した、掌にはまだ冷気が漂っており、彼は振り返って後ろの冒険者たちと聖騎士たちを見据え、その口調には深い警戒心が満ちていた。


聖騎士隊長は目前の状況を見据え、これが対等ではない殺戮であることを悟った、数秒の思索の後、彼は口を開いた。


「閣下、存分におやりください、聖騎士隊長のエノートが保証します、決して一歩も退きはしません。」


「我々全隊が魔力を結集し、閣下のためのすべての攻勢を引き受け、全力で支援いたします、冒険者の方々も最大限、閣下のための時間を稼ぎます。」


「たとえ我々聖騎士が全滅しようとも、どうか避難所にいる平民たちをお守りください。」


「無論だ、防御に関してだけは、自信がある。」


風貌の平凡な冒険者は頷いた、エノートは麾下の隊員たちを見渡す、すべての者の視線が彼に集まり、彼の指揮を待っていた。


そしてこの聖騎士たちの中には、眼光鋭い者、眉をひそめる者、沈黙を守る者と、それぞれが心の内に思いを秘めていた。


「隊長……」


「我々の力で、本当にできるのでしょうか?」


「指をくわえて待つくらいなら、捨て身で挑もう!」


エノートは腰の長剣を抜き放ち、胸の前に構えた、体内に残る魔力のすべてが滾り、その声音は低く、しかし確固たるものだった。


「諸君、魔力融合魔法を使うぞ。」


聖騎士たちは瞬時に彼の側に集結した、足元には銀色の光を放つ魔法陣が浮かび上がり、絶え間なく魔力が紋様の中に注ぎ込まれていく、法陣は拡大を続け、その規模は最終的に黒竜の体躯と肩を並べるまでに至った。


次の瞬間、一隻の巨手が法陣の中から差し伸べられ、すべての聖騎士を一握りに掴むと、そのまま自身の身体の中へと移し替えた。


高大な躯は聖騎士の制式鎧を纏い、左手には銀白の紋様が刻まれた十字盾を握り、血色のマントが風に翻る、獅子の頭の紋様が鎧の上に鮮やかに浮かび上がっている。


頭上には獅子を模した兜がぴたりと嵌まり、頭部全体が金属で完全に覆われている、ただ二つの眼孔の間から、白い光を放つ双眸が覗いていた。


巨人騎士は右手で腰の鋭利な長剣を抜き放ち、舞い上がる塵芥に向かって軽く一振りした、唸る剣風が瞬時にすべての遮蔽を吹き散らし、黒竜の傲然たる真の姿を露わにした。


傍らの冒険者たちはこれを見て、すぐに魔力融合魔法を発動しようと試みた、しかし何度試みても失敗を繰り返し、魔力の反動で胸を押さえて吐血する者も少なくなかった。


「こ、これは一体なぜだ?」


「もうひと踏ん張りだ! 危機的な状況だ、あの法則強者に時間を稼がねば!」


「騒ぐな、早くもう一度試せ!」


「魔力の流れのリズムに合わせられるか?」


あの風貌の平凡な冒険者の背後では、魔力の気配が絶え間なく荒れ狂い、法則魔力が周身を奔騰し、まるで広大な海のようであった。


様々な元素魔法が一振り一振りの元素長槍を凝縮する、雷霆と火焰が絡み合い、氷霜と雷霆が交錯し、黄金と岩石が融合する、それらは暴雨のように黒竜へと襲いかかり、一槍ごとに極めて強力なエネルギーを放っていた。


黒竜は即座に厚い氷の壁を凝り、身の前に立ち塞がらせた、元素長槍は次々と氷壁に炸裂し、激しい轟音を轟かせながら、氷壁は絶えずひび割れ崩壊していく、辛うじてこの一波の攻勢を耐え凌いだ。


第一波の攻勢が終わっても、この風貌の平凡な冒険者は魔力の小半を消耗したものの、休むことなく背後で法則魔力を絶えず集め続けていた。


雷、氷、岩、水、炎――五つの法則が狂おしく絡み合い、戦場全体の気流は不安定に騒ぎ始める。


黒竜は明らかに、これ以上彼に力を溜めさせるわけにはいかないと判断した、自らの法則魔力を駆使し、口から大量の氷の棘を噴射して、この冒険者を正確に狙い撃つ、同時に巨大な体躯を猛然と前方に突進させ、その勢いで彼を仕留めようとした。


その時、銀白の獅子紋の鎧を纏った巨人騎士が、十字盾を風貌の平凡な冒険者の前に横たえて盾とした、黒竜の攻撃は盾に打ち付けられ、大量の氷片が四方に飛び散り、その音は耳をつんざくものだった。


黒竜は双翼を氷刃に変えて巨人騎士に斬りかかる、次々と続く攻撃に、十字盾は砕け散り、長剣と寒氷の衝突音が絶え間なく響く、巨人騎士は衝撃に耐えかねて幾度も後退した。


体勢を立て直す間もなく、黒竜の尾の鞭打ちをまともに受け、その巨体は地面を数メートル転がり、多くの建物を押し潰して瓦礫の山と化した。


風貌の平凡な冒険者は五つの法則を形態変換し、元素長剣を再び凝縮して斉射した、しかし黒竜が凝った厚い氷壁に阻まれた。


黒竜もまたこれによって法則魔力を少なからず消耗していた、元素長剣は氷壁の半分を粉砕し、その躯体に無数の傷跡を刻み込む、これらの傷はあるものは暴風に引き裂かれ、あるものは火焰に焼かれ、あるものは植物に寄生されて、強引に魔力を吸い取られていった。


黒竜の縦瞳は怒りに満ち、急いで法則魔力を駆り、氷霜魔法で自身の傷を素早く凍結させた。


今や、この風貌の平凡な冒険者の魔力は小半を残すのみとなっていた、額からは汗が絶え間なく流れ落ち、一滴一滴が地面に叩きつけられる。


黒竜は竜の首を巡らせ、鎧の表面に幾条もの深い傷跡を刻まれた巨人騎士が迫るのを認めると、その足で巨人騎士の胸を踏みつけ、口を開けてその頭部を噛み砕こうとした。


巨人騎士は両手で必死に黒竜の上下の顎を押し支える、聖騎士たちの魔力は急速に失われ、巨人騎士の全身には崩壊の兆しが現れ始め、戦局は完全に危機に陥った。


モォ! 狂暴な嘶きが戦場に響き渡る、そこには岩と木で構成された巨大な牛が現れ、それを操っていたのは先ほどの冒険者たちであった。


巨牛の体躯は岩石で構成され、全身には細かな蔓が絡みついている、鼻の孔からは熱気を噴き出し、筋骨隆々とした筋肉が盛り上がり、頭上の二本の太く鋭い角は野性的な覇気を放っていた。


四本の蹄で地面を蹴り、黒竜めがけて猛然と突進する、しかし黒竜は予想外に狡猾で、巨牛が衝突する寸前、強力な雷電魔法を融合させた氷壁をその面前に作り出した。


ドン! 巨牛の角はそれに激突したが、氷壁に嵌まり込んで抜け出せなくなり、溢れ出る雷電がその体躯を蝕み続ける。


モォ! モォ! 巨牛は断末魔の嘶きを上げ、その声は戦場に響き渡った。


体躯が岩石で鋳造されていようと、魔法と法則はそもそも質的な変革である、冒険者たちは法則魔力が変換した雷電魔法に抗う術などなかった。


「あああああ……」


巨牛の体内にいる冒険者たちは悲鳴を上げ、電流に身体を貫かれて震えが止まらない、この状況を見て、風貌の平凡な冒険者は一瞬の躊躇もなく、手にした長剣を天に向けて掲げた。


一筋の火焰法則魔力が剣身に宿り、続いて空間魔法によって剣は大きく拡大される、彼は氷壁と黒竜に向かって全力で斬り下ろした、黒竜は慌てて後退し、氷壁は瞬時に両断され、巨牛はようやく束縛から解放された、巨人騎士も急いで立ち上がり、地面に落ちた長剣を拾い上げる。


連続して法則魔力を過剰に消耗した彼は、頭が張り裂けるような痛みと、強い窒息感に襲われ、呼吸することさえ困難だった。


全身が崩れ落ち、荒い息を必死に吸い込む、もし手にした長剣が身体を支えていなければ、今頃地面に倒れていただろう。


しかし、彼は倒れるわけにはいかなかった、脳裏に故郷の母の言葉が蘇り、疲れ果てた瞳に再び闘志が灯る、彼は賭けに出ようと思った。一度のチャンスに。


「ルート、人生には無数の選択肢がある、私はただ、お前には初心を守り抜ける冒険者になってほしい。」


「お前が自らの力で他者を守れば、他者はお前に信頼を寄せるだろう、そしてその信頼の絆こそが、お前をすべての艱難辛苦と共に歩ませる。」


「お前が正しいと思うことを為せ、お前自身でいるだけで十分だ。」


巨人騎士は長剣を振るい、黒竜に斬りかかる、黒竜も長きにわたる激戦で法則魔力を酷使し、動作は次第に鈍くなり、巨人騎士に一翼を斬り落とされた。


黒竜は口から青藍の冥火を吐き出し、巨人騎士の長剣を氷結させる、単翼で力強く一拍すると、カキンという鋭い音とともに凍りついた長剣は砕け散り、地面に落ちた。


岩木巨牛が続いて飛びかかり、その角を黒竜の背中に深々と突き立てる、骨が見えるほどの深い傷を二筋も抉り、黒竜は嘶きを上げて氷霜魔法で傷を凍らせると、狂ったように岩木巨牛の頭部に噛みついた。


岩木巨牛の頭部の半分はその場で噛み砕かれ、魔力で凝縮された体躯はその場で崩壊する、冒険者たちは口から血を吐き、制御を失って地面へと墜ちていった。


ルートは苦労して手を上げ、木魔法で編まれた大きな網で全員をしっかりと受け止める、ルートはよろめきながらも体勢を立て直し、体内に残る法則魔力をゆっくりと集め始めた、今度こそ、自身の魔力のすべてを搾り尽くすつもりだった。


彼の周囲では、無数の岩石がルートの魔力放出によってゆっくりと浮遊し始める、彼はこの一撃にすべてを賭けていた。


肩に痺れが走り、手にした長剣は絶えず震える、しかしそれはルートの技量に少しも影響を与えなかった。


巨人騎士は黒竜に突進し、拳を連打して黒竜の頭部を瘋狂的に打ち据える、我が身を顧みずに肉弾戦を挑み、黒竜は連続して後退を余儀なくされ、その牙の間からは血が滲んでいた。


しかし黒竜も一方的に打たれているだけではなかった、下顎を持ち上げて巨人騎士に噛みつき返す、たとえ鎧のすべてが粉々になろうとも、聖騎士たちは意に介さなかった。


しかし先ほどの過剰な法則魔力の消耗により、黒竜の反応はあまりに鈍くなっていた、さらにもう一発の拳が、鈍い音とともに黒竜を完全に地面に叩き伏せた。


巨人騎士はさらに攻撃を加えようとしたが、その動きが一瞬止まり、全身が突然急速に崩壊し始めた。


聖騎士たちの魔力は完全に枯渇していた、巨人騎士に残された最後の魔力が彼らをそっと地面に下ろし、その後、巨人騎士は虚空と化して空へと消えていった。


彼らは一人ひとりが疲れ果てた表情を浮かべ、強烈な脱力感に襲われ、立っていることさえも贅沢に感じられた。


ルートは疲弊した聖騎士たち、重傷を負った冒険者たちを一人ひとり見渡し、その目には強い決意が宿っていた、両手で長剣をしっかりと握りしめ、それを脇に構える。


周囲の気流が彼の長袍をはためかせ、彼のすべての法則魔力が剣に注ぎ込まれた。


火の法則、風の法則、雷の法則がすべて剣身に宿る、天を衝く法則の力が幾重にも波動し、地面には亀裂が走り、火焰と暴風が互いに融け合い絡み合い、雷電は四方に激しく迸り、周囲の岩石を粉々に砕いた。


「ご苦労様でした、あとは私に任せてください。」


彼はすべてを賭けた一撃を力強く振り抜いた、元素光砲が真っ直ぐに轟き出す、世の中のすべては色を失い、天地は一片の静寂に包まれた。


三位一体の法則光砲が黒竜に炸裂する、まっすぐな溝が町の地面を延々と伸ばし、その勢いは強力で長く続き、ついに巨竜をこの町から押し出し、草原の上まで弾き飛ばした。


続いて火焰竜巻が黒竜をその中に閉じ込め、雷電が絶え間なくその体躯を蝕む、全身は無数の穴だらけとなり、ついにルートの魔力が完全に消え去るとともに、黒竜の体躯は揺らぎ、立っていることすらできなくなった。


その口からは大量の血液が溢れ出し、傷つき破れた体躯は平原に倒れ伏す、表面はまったくの動きを見せず、死骸のようであった、しかし、かすかな生命法則がその体内で静かに流れていた。


パタリと長剣が地面に落ち、ルートは全身の力が抜けてその場に崩れ落ちた、意識は朦朧とし、身体は限界に達していた、抗いがたい眠気が襲いかかる、それは魔力が完全に搾り尽くされた徴候であった。


張り詰めていた戦場は一時の静寂に包まれた、冒険者たちと残った聖騎士たちは皆、その場に座り込む。荒い息遣いが、あちこちから聞こえてきた。


しばらくして、ようやく彼らの神経は緩み始めた、生き延びた安堵感が広がる中、一人の冒険者が疲れた腕を揉みながら低く呟いた。


「ようやく終わったか……俺、もう死ぬかと思ったぜ、はははは!」


「今夜は一杯飲みに行くぞ、自分へのご褒美だ。」


「本当に強力な一撃だったな……」


エノートはゆっくりとルートの傍らに歩み寄り、感慨を込めた口調で言った、彼は苦労して眠りに落ちたルートを支え起こし、周りの他の聖騎士たちも一緒に手を貸した。


「隊長、私が手伝います!」


その時、戦場に生き残った者たちはようやく一息ついた、その中の一人、聖騎士の白袍を着た少女が空を見上げる、陽光が眩しく、彼女は手を額の前に掲げた。


「あの……黒竜は……?」


「メイア、まずは周辺に他の生存者がいないか探してみよう。」


隣にいた体つきの細い青年聖騎士が白袍の少女を見て、平坦な口調で言った、彼の顔は埃まみれで、いくぶん無精に見えた。


二人が生存者を探しに動き出そうとしたその時、つかの間の安寧は再び打ち砕かれた、次の瞬間、平原で死骸のように横たわっていた黒竜が、猛然と目を見開いた。


それは苦労して身を起こし、空に向かって一声の悲しげな咆哮を上げる、体には薄い膜が張り、優しい生命法則の光を放っていた、傷だらけの体躯がゆっくりと修復されていく……


死の静寂と絶望が、再び戦場全体を覆い尽くした。

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