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深淵紀行  作者: 梓UU
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学院編:第六話:寒霜の侵食

ポリーの心に漂っていた翳りはすっかり晴れ、モニーの慰めが彼に新たな力を与えた。


ポリーはふと手を伸ばし、モニーの手を握った、その感触は相変わらず柔らかく細やかで、ポリーの目には笑みが浮かんでいた。


「わかったよ、モニー、すごく綺麗な場所に連れて行きたいんだ、一緒に来てくれ!」


突然の出来事にモニーは驚いたが、瞬きのうちにその驚きは消え去り、代わりに少女の優しい微笑みが浮かんだ。


彼女はそっと頷き、目の前の少年に手を引かれるまま、遠くへと続く道を歩き出した。


通りは人々で溢れ、道端の商人たちは声を限りに売り込み、行き交う冒険者たちの表情はさまざまで、冷めた顔つきの者もいれば、無表情な者もいた。


普通の平民たちは露店の前に立ち止まって品物を選び、ある者は笑い合いながらじゃれ合う、人の世のさまざまな煙火の情景が、この瞬間に余すところなく現れていた。


賑やかな人混みの中を、少年が少女の手を引いてゆっくりと歩いていく、周囲は非常に混雑していたが、二人は互いの指をしっかりと絡め合い、人を避けながら進み、やがて一つの露店の前に辿り着いた。


モニーの視線は周囲の人々の喧騒に流れ、隣にいる少年の行動にはまったく気づいていなかった、ポリーは棚に並べられた白く清らかな花冠を手に取り、そっと少女の頭に載せた、そしてゆっくりと頷き、その目には賛嘆と喜びが満ちていた。


「よく似合ってる、本当に綺麗だよ。」


モニーは一瞬呆け、しばらくしてからようやく我に返った、彼女は手を上げ、細い指を握り拳にして、そっとポリーの胸を叩いた。頬には少女の恥じらいが浮かんでいた。


ポリーはいつもそうだった、穏やかな日常の中で、彼女に思いがけない小さな驚きをくれる、彼は決して堅苦しくならず、自分に対して常にこうだった、モニーはそんな彼の率直さと真心がずっと好きだった。


傍らの露店の商人は温和な微笑みを浮かべ、目の前の初々しい光景を見て、思わず自身の若き日の記憶を思い起こした、ポリーが代金を払い、再び少女の手を取った。


二人は通りを縫うように歩く、モニーの視線は終始少年の背中に留まり、長い間離れることはなかった。


街角でふと疑問の声が上がり、ポリーは興味を惹かれて振り返った。


そこでは林檎売りの商人が、目の前で物思いに耽る冒険者を見つめていた、二人は顔を見合わせていた。


「兄ちゃん? 兄ちゃん? 林檎を買うのかい?」


しかし、冒険者は商人にまったく構わず、片手で顎を支えたまま、依然として独りで思索に沈んでいた、そんな様子を見て、商人の口調も次第に諦めの色を帯びてきた。


「兄ちゃん! 一体、林檎を買うのか買わないのか、どっちなんだい?」


ポリーは林檎の露店の様子を一瞥すると、そのままモニーを連れてさらに歩を進めた、彼の心は喜びに満ちていた。


騒がしい市場を遠く離れ、絶え間ない人波を避けると、目の前の視界はますます開けていった。


彼はゆっくりと互いに握り合っていた手を解き、振り返って朝の光を浴びる少女を見つめた。一瞬、彼は我を失った。


「もうもう! またぼんやりしてる!」


耳元にモニーの優しい叱責が届き、ポリーはやや気まずそうに頭を掻いた、少女はあまりにも美しく、彼の心の中では最も完璧な存在であり、その儚さが彼に非現実感を与えていた。


モニーは先に歩みを進めた、彼女の心はとっくに相手の小さな思惑を見透かしており、手を上げて頭の白い花冠を直すと、軽やかな足取りで町の高い城壁へと向かった、彼女はポリーがどこへ連れて行こうとしているのか、心の底から理解していた。


「遠き彼方に〜」


「一輪の花が咲く〜」


「遠くの旅人よ、彼女はなぜ眺めるのか〜」


「それとも彼女は思い出すのか、淡い哀しみを〜」


「どうか忘れないで、互いの眼差しを〜」


少女の悠揚婉転たる鼻歌がゆっくりと響き始める、モニーは跳ねるように歩き、まるで可愛らしい小兎のようだった、ポリーは黙って彼女の後ろに従い、二人は次第に高い城壁へと向かっていった。


モニーは両手を城壁の縁に置き、果てしなく広がる深緑の平原を遠くに眺めた、言葉にできない自由が心を撫で、長年にわたる家族の束縛と叱責が、この瞬間にすべて消え去った。


少女は高く聳える城壁の上に立ち、頭の白い花冠が彼女を一層生き生きと引き立てていた。


モニーはゆっくりと両腕を背に回し、手首を軽く絡めた、幾筋もの秀髪が風に任せて漂い、美しくも静かだった。


後ろのポリーはその場に立ち尽くし、動くこともできず、その目にはただ少女一人の風景だけが映っていた。


いつしか空からは静かに雪が舞い降り、冷たい風は次第に勢いを増していた、淡い氷霧は既に静かに大地を蝕み始め、地面に銀色の霜を浮かび上がらせていた。


しかしポリーはそれを全く気に留めなかった、彼の視線の中には、ただ少女の弱々しい背中だけがあった。


その瞬間、ポリーの心の中のすべての懸念と迷いは完全に打ち砕かれた、彼はゆっくりとモニーの後ろに歩み寄り、音もなく片膝をついた、顔の表情は特別に厳かであり、声も思わず微かに震えた。


「モニー……俺は……君を連れて……逃げ……」


ポリーの言葉が終わらないうちに、モニーはその言葉を聞いて、突然体を震わせた、彼女は振り返ってポリーを見つめ、その澄んだ目には信じられないという表情が満ちていた。


少女が口を開け、愛する人に心の秘密を打ち明けようとしたその時、また一陣の凛冽な風雪が猛然と二人の上を吹き抜けた。


モニーは無意識に雪に覆われた空を見上げた、頭の白い花冠は風に吹き飛ばされ、パタッと地面に落ちた。


巨大な青藍色の冥火の球が、町目がけて激しく落下してきた、町の中心にある鐘楼に接触しようとしたその瞬間、薄い蝉の羽のような魔法障壁が素早く現れた。


ドン! 障壁全体が青藍色の冥火に完全に飲み込まれた、この炎の最も異様な点は、一見灼熱に見えるにもかかわらず、すべてを蝕む骨まで凍えるような寒気を放っていることであった。


障壁は絶えず浸透され、無数のひび割れが全面に広がっていく、カカッ……いくつかの破片が落下し、空中で儚い光の粒となって消えた。


漏れ出した冷気だけで、多くの軒先が瞬時に凍りつき、屋根の上で楽しげに跳ねていた鳥たちは瞬く間に氷の彫刻と化した。


冷気は急速に内部へと広がり続け、障壁はもはや耐えきれず、全体に蜘蛛の巣のような穴が開き、ついに澄んだ破砕音とともに完全に消え去った。


そして青藍色の冥火は四つの火球に分裂し、それぞれが町の建物に向かって轟然と落下した。


天を震わす轟音が町の各所で響き渡り、青藍色の冥火が消え去ると、その後には広範囲の絶対氷結が残された、多くの一般市民が冥火に巻き込まれ、完全に氷漬けとなった。


そして最も偶然だったのは、そのうちの一つがモニーの両親の家の中央に落下したことであった、モニーは襲い来る衝撃波に吹き飛ばされ、後方に倒れそうになった。


幸いにもポリーが目敏く少女を抱き留め、二人は互いに見つめ合い、その目には恐怖と僥倖が満ちていた3もし彼らが最初にいた場所に留まっていたなら、確実に消滅していたであろう。


泣き叫ぶ声、嘆きの声、慌てふためく人々が町の中を狂ったように逃げ惑う、先ほどまでの美しいすべてが、瞬く間にこの世の煉獄と化した。


モニーは酷く怯え、ポリーにしっかりと抱きつき、自らの頭を少年の胸に埋めた、ポリーは少女の震えを感じ取り、優しくモニーの髪を撫でながら、声をかけて慰めた。


「大丈夫、大丈夫だよ、モニー、僕がいる。」


二人は城壁の頂上に留まり、すべてを黙って見守っていた、そして下方のすべては既に大混乱に陥っていたが、ただ一隊、約百人ほどの白い影が非常に目立っていた、それは町の聖騎士たちであり、彼らは迅速に集結していた。


その途中には、冒険者協会の数百人に上る冒険者たちも加わり、彼らは理知的に群衆を誘導し、救助を組織し、緊急治療を行った。騒然としていた人々はようやく制御され、地下の避難所に適切に避難させられた。


「急げ、急げ! あちらにもまだ巻き込まれた人がいる! 急げ!」


「メイア、お前は他の治療係を連れて負傷者の治療を急げ!」


一面の氷霜の地面の上で、白い鎧を身にまとった中年の男が神妙な面持ちで立っていた、彼は隊長として、その場の他の人員を自ら指揮し、その指示は一つ一つが簡潔明瞭だった。


全身の銀白色の鎧は様式が簡素で、表面には薄く一层の霜がついており、線はすっきりと質素だった、ただ各部品の縁には金色の縞が描かれ、胸には独特の獅子の頭の紋様が刻印されており、一目で町の正統防衛勢力——聖騎士に属することがわかった。


彼は年老いた面差しを空に向け、白い雪が絶え間なく静かに降り積もる、今のところ、すべての危機はまだ制御可能な範囲にあった。


そして濃密な雲層の奥深くで、一つの巨大な漆黒の影が突然、町に向かって急降下を開始した。その速度は極めて猛烈で、速い! 速すぎて常人には捉えることすら叶わない。


ドン! 町の広範囲の地面が轟音とともに跳ね返され、前線への救援に向かっていた聖騎士の隊伍や、各地から集まった冒険者たちはすべて衝撃を受けた。一部の人員は激しい震動に抗う間もなく、その場で命を落とした。


人々の視線は一斉に町の中心広場へと向けられた、百メートルに及ぶ濃霧が晴れると、瞬時にして万物を凌駕する磅礴たる気配が会場全体を覆い尽くした。


すべての者の神経が反射的に張り詰め、生まれ持った生物の本能が彼らの心底に逃避の念を芽生えさせた、あれは決して通常の魔物ではない。


漆黒の双翼が広がり長空を覆い隠し、細長い氷藍色の縦瞳には絶対的な蔑視が満ちている、躯体は堅固で重厚であり、尾が無造作に振られるだけで、大量の家屋建築がことごとく崩壊し損壊した。


「これは何だ……」


「どうしてこんな化け物が現れるんだ……」


「冗談じゃない! これは俺たちが対抗できる存在なのか?!」


「魔獣……」


一団の聖騎士と冒険者たちは無意識に足を後退させ、身体は止めどなく微かに震え、魂の奥底から湧き上がる恐怖が勝手に広がっていった。


周囲の人々の心境はそれぞれ異なり、若い冒険者は恐怖に満ち、心底から忌避の念を抱いていた。年長の遍歴者は神色を沈めていたが、それでも両拳は微かに震え、聖騎士たちさえも額に冷や汗を滲ませていた。


人々が彷徨っているその時、一道道の金色の魔法陣が人々の足元に展開された、心の内に広がっていた恐怖感はゆっくりと退き、騒ぎ立つ心の緒も次第に鎮まっていった。


沈着で力強い中年男性の声がゆっくりと響き渡る、その口調は確固として微動だにしない。まさにあの神妙な面持ちの聖騎士隊長であった。


「諸君、目下の状況は、皆の目に明らかだ、魔獣が我々の故郷を襲っている、救出を待つ生存者のために、命を落とした平民たちのために、我々は立ち上がり戦わねばならない。」


「ただ後退するだけでは、決して何も変えることはできない、奮闘して戦うことこそが、すべての者のために一縷の生機を勝ち取る唯一の道だ!」


「諸君、躊躇すれば敗北する!」


聖騎士隊長は周囲に溢れていた金色の魔力を収束させた、広範囲の奮起魔法の駆動は、既に自身の魔力の大半を消耗していた、しかしその結果は価値あるものだった。すべての者の崩壊しかけていた心は安定を取り戻した。


あの林檎の露店に長く立ち止まっていた冒険者が聖騎士隊長を見つめた、二人の視線が交錯し、無言のうちに互いに頷き合って確認する、次の瞬間、彼の姿は忽然とその場から消えた。


この冒険者の外見は平凡そのもので、人混みの中に置かれてもなかなか目立たない、その体躯は小さく、黒竜の巨大な躯体と比べれば、その一片の鱗にも満たない、しかし身体から迸り出る速度は、常人の想像を超えていた。


残る聖騎士や冒険者たちもそれに続いた、一筋の渾厚で強靭な法則魔力が彼の腕に絡みつき、ゆっくりと這う、彼は足元の地面を力強く踏みしめ、全身を跳ね上げて黒竜の頭部と同じ高さの高空にまで到達した。


腕を巡り続ける法則魔力が掌の上で一振りの微小な巨剣を凝縮する、彼は片手でそれを軽く握りしめ、指の隙間から粒々の光が零れ落ちた。


ゴォォという轟音が響き渡る中、高空の雲層の奥深くで、一振りの黒竜を遥かに超える体格の巨剣が雲の幕を引き裂き、天空にゆっくりと姿を現した。


剣先が黒竜に向かって重々しく突き刺さる、鈍重な巨物同士の衝突音が絶え間なく響き渡り、空一面の白雪と雲霧は巨剣の気勢によって押し開かれ、一筋の眩しい陽光がすべての者の身体を照らし出した。


黒竜は一声咆哮を上げ、双翼を広げて必死に剣先を押し止める、その身躯は絶えず後方へと急速に後退し、強烈な衝撃力によって一時的に押さえ込まれた、折しもその時、残る人々は一斉に魔力を駆り、総攻撃を仕掛けた。


烈火魔法が空間魔法を伴って真っ直ぐに襲いかかる、元々微弱だった星火は、空間魔法の増幅に支えられ、瞬時に汹涌たる火の波と化し、前方へと激しく叩きつけられた。


闇の魔法と雷霆魔法が互いに織り交ざり、聖騎士の掌中で凝縮される、この力はあまりに狂暴で、絶えず電弧が迸り出ていた。


ドンという一撃の轟音とともに、雷霆と闇の魔法が絡み合い融合し、奔涌する奔流のように、黒竜の肉体に衝突した、周囲には電弧がびっしりと閃き、最終的に闇の中へと融けていった。


数え切れないほどの各種魔法がことごとく黒竜に向かって撃ち込まれた、黒竜は死の魔法を用いて天空の巨剣を侵食し、巨剣が崩壊し消散するに伴い。


それは再び新たな攻勢に直面せざるを得なくなった、それらの天を覆い地を埋める魔法攻撃によって、体表の広範囲の竜鱗が絶えず剥がれ落ち、砕け散り、淡い暗紅色が露出した。


しかしこの程度の損傷は、表層の皮肉が擦り剥けたに過ぎず、黒竜にとっては取るに足らないものであり、根本を傷つけるには至らなかった。


黒竜は鼻から冷気を噴き出し、その縦瞳には不屑の光が煌めいていた、まるで「お前たち、その程度なのか?」と言わんばかりであった。


あの風貌の平凡な冒険者は表情を引き締め、巨竜の牙の隙間から漂う冷気を凝視した、言葉にできない異様な感覚を微かに察知し、彼ははっと振り返って背後にいる人々を見やり、口調が急に慌ただしくなった。


「まずい! 逃げろ!」

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