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深淵紀行  作者: 梓UU
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学院編:第五話:篝火の旅

日常は平穏に戻り、幾日か続けて伯爵邸の全域が穏やかな調和に包まれ、雑多な出来事が次々と舞い込むこともなく、ただ淡々とした暮らしだけが残されていた。


しかしレオンはそのために鍛錬を疎かにすることはなく、ほとんどの時間をジャスミンやタロムとの戦闘訓練に費やし、時折ジャスミンと共に村々の様子を見に行く程度であった。


そして休息のたびに、レオンは静かに己を磨き、かつて学んださまざまな魔法知識の研究に没頭し、余暇を潰していた。


またたく間に三日が過ぎ、レオンは古風で豪奢な姿見の前に立ち、クローゼットにしまっていた制服を取り出してゆっくりと身に纏った。決して完璧な寸法とは言えず、レオンはどうにか着られるといった印象を抱いた。


漆黒の簡素な長款魔導ローブは、全体的にゆったりとしていて上品であり、線は質素で清潔感があり、派手な装飾は一切施されていなかった。


襟元はすっきりと直立し、ただ一粒の暗銀色のボタンで留められているのみで、袖はやや広めに作られ、裾はふくらはぎまで垂れ、中央には淡い暗銀色の紋様が施されており、カタリ貴族学院独自の徽章が描かれていた。


これこそがカタリ貴族魔法学院専用の正装である。鏡の中の少年の黒髪はきちんと整えられ、瑠璃色の瞳には一切の動揺もなく、ただ無関心に黒いローブを纏った自身を見つめていた。不安も期待も感情もない。


レオンは小さく息をつき、引き続き衣服を整える。トントン、と扉が叩かれ、レオンは顔を向けて声の調子を和らげた。


「どうぞ。」


ジャスミンがそっと扉を押し開けると、視界にはすでに制服に着替えた少年の姿があった、彼女の眼底に喜びが煌めき、少女の顔には優しい微笑みが浮かんだ。


「レオン様、そのお姿、とてもお似合いでいらっしゃいます!」


「まるで、あなたのために誂えられたかのようです。」


レオンは手を挙げてやや広い袖口を引っ張り、眉をわずかにひそめた、この正規のローブよりも、普段の衣服の方が彼の習慣に合っている。


「まあ……こんなものだ……」


ジャスミンはレオンに従って学院に入る随侍として、当然レオンと同じ制服に身を包んでいた、ただし違いとしては、黒いローブが白に変わり、銀のボタンが金色に変わっているだけであった。


「レオン様、馬車の準備は整いました。いつでも出発できます。」


「必要な生活用品、道中の物資、携行品はすべて私が適切に準備し、空間魔法ポケットに収めてあります。」


「わかった、行こう。」


レオンは隅に置かれた特製の魔導長剣を手に取る。鞘には複雑な魔力紋様が刻まれており、空間が揺らぎ、彼は剣を波動する空間魔法の中に消し去り、軽く頷いて応えた。


レオンは伯爵邸の廊下を歩き、その後ろをジャスミンが従う、少女の表情は厳かであり、廊下に立つ数人の女中や使用人たちは頭を下げて敬意を表した、彼らの顔には敬意と畏怖の念が満ちており、惜別の情を抱く者、静かに祝福を送る者、目の端に涙を浮かべる者もいた。


彼女たちはよく知っていた、レオンとジャスミンが自分たちに非常に親切であり、決して責めることなどないということを。


二人は一前一後となり、徐々に古風で豪奢な大扉の前に辿り着く、扉の脇に立つ女中が彼らに向かってお辞儀をし、ゆっくりと扉を押し開ける、一列に並んだ護衛たちとタロムが道の両側に直立し、それぞれの顔には厳粛な表情が浮かび、非常に整然としていた。


「伯爵府護衛隊長タロム、護衛一同を代表し、心からの祝意を捧げます!」


「レオン様、どうかご自愛くださいますよう。我々一同、あなた様のご帰還を心待ちにしております!」


ジャスミンは皆を見渡し、口元に微かな笑みを浮かべた。レオンは頷き、すべての視線の中を馬車へと歩いていく、馬車に乗り込もうとするその瞬間、誰も見ていないところでレオンの眸の底に一筋の冷淡さが走ったが、振り返ろうとするときには消え去り、彼は伯爵邸のすべての者たちを見渡し、声の調子を柔らかくした。


「ご苦労だった、タロム。皆の祝福、確かに受け取った。ジャスミン、出発しよう。」


ジャスミンは御者台に歩み寄り、腰を下ろして馬の背を軽く叩き、優しい口調で言った。


「行きましょう、キュキュ。」


キュキュの歩みが動き始め、やがて皆の見送りの中、レオンの馬車はゆっくりと彼らの視界から消え、小さな黒点となった、タロムと一同は伯爵邸の大門前に立ち止まり、長い間そこを離れようとしなかった。


皆の心には悲しみと喪失感が満ちており、伯爵邸全体が一瞬にして中心と活気を奪われたかのように、萎れ沈んでいた。


「本当にレオン様とジャスミン様に行ってほしくないわ……伯爵邸が寂しくなってしまう……」


「私もよ……ジャスミン様に教わった生け花……まだ覚えきれていないのに……」


女中と使用人たちは互いに顔を見合わせた。レオンの旅立ちは避けられないことであり、彼の随侍であり女中であるジャスミンもまたレオンに同行するのは当然のことだった、伯爵邸でジャスミンに関する周知の秘密を知っている者にとってはなおさらであった。


「よし、皆! 自分の役目を忘れるな。訓練を続け、分内の仕事をきちんとこなし、伯爵府を守ることが我々の最大の貢献だ。」


「レオン様とジャスミンのために喜ぼう。それぞれ解散だ。」


タロムは頭を掻いた、この複雑で言葉にできない感覚には慣れておらず、惜しみの表情を浮かべる者たちを見ると、ひどく悩ましく感じられた、彼の心には自然とあの少女のことが思い浮かんだ。


もしロキシーがいたなら、彼女は決してこうはならないだろう、しかし彼女はモレナ伯爵に従って魔獣戦場へ向かっており、いつ戻ってくるのかもわからない。あの金貨一枚の賭けについても……彼女はまだ認めてくれるのだろうか?


馬車は伯爵邸の領地を遠く離れ、道中の風景が絶えず目の前を通り過ぎていく、レオンは静かに手にした書物に見入っていた、もしタロムならば間違いなく退屈に感じるだろうが、レオンにとっては決して退屈ではなかった。


耳元にはジャスミンの軽やかな鼻歌が響き、すべてがなんと美しく平穏であることか、ただレオンの心の中では、最近習得した新しい魔法の組み合わせについて黙々と思案が巡らされていた。


そんな調和に満ちた雰囲気の中、時間は静かに流れていった、レオンは書物の海に没頭し、馬車が次第に停車していることにもまったく気づかなかった、ジャスミンの声が耳元に届いて、ようやく彼の思索が中断された。


「レオン様、まもなく黄昏の時刻になります、一度馬車を降りて歩かれてはいかがでしょうか、近くには村はございませんので、今夜は野外で過ごすことになります。」


「わかった。」


レオンは手にした書物を置き、口元にほのかな微笑みを浮かべて、馬車の扉を押し開け、ゆっくりと降り立った。


眼前には伯爵邸とはまったく異なる景色が広がっていた、広大な草原の草木が風に揺れ、生命の息吹に満ちあふれている。


頭上には、見たこともない鳥たちが啼きながら半空を旋回し、涼やかな夕風が頬を撫で、彼の黒いローブと黒い短髪をわずかに揺らす、空気の中は、清々しさと心地よさに満ちていた。


夕陽がゆっくりと傾き、空一面の白い雲を炎のような赤い光景に染め上げる、キュキュは遠くで若草を食み、ジャスミンは黙って近くの開けた場所で忙しく動き回っていた、炊事道具を設え、薪を準備し、明らかに夕食の準備を始めていた。


轟、と一叢の烈火が薪の上に突然立ち昇る、枯れた薪が燃え続け、耳元にはパチパチという細かな音が響く、レオンは石の上に静かに腰掛け、眼前の焚き火が彼の顔を照らし出すのを見つめていた。


一筋の魅惑的な鮮やかな香りが四方に漂い、多くの小型魔物たちが遠くの暗がりに潜み、この火光をじっと見つめながら、主従二人の寛ぎのひとときを見守っていた。


焚き火の上に吊るされた鉄鍋は絶えずぐつぐつと沸騰し、乳白色のスープの中では肉と野菜が煮込まれている、黄金色に焼けたパンからは淡い脂が滴り落ち、表面の砂糖霜がわずかに溶けていた。


これらはすべてジャスミンがここ数日、特に選び抜いたものである、レオンの年齢に適した良質な食材ばかりであり、すべて彼女の心を込めた調合によるものだ、ジャスミンは元来、このように細やかな心配りができる娘なのである。


「レオン様、お召し上がりください、ただし、少々熱くなっておりますのでご注意を。」


ジャスミンは一碗の料理をよそい、そっとレオンの前に差し出した、その眼差しには若干の期待が宿り、まるで自らの成果を問いかけるかのようであった。


レオンは匙を唇の前まで上げ、軽く息を吹きかけ、適温になったことを確かめてから口に運び噛み締めた。極めて不思議な味わいが彼の口中に広がった。


レオンはわずかに驚きを覚えた、決して不味いからではない、彼がこれまでに味わったことのない独特の風味であり、それが意外にも彼の舌に合っていたのである。


「美味い。」


レオンは多くを語らなかったが、その言葉は簡潔で率直だった、しかしジャスミンにとっては、それで十分な評価であった、彼女の瞳には焚き火の光だけでなく、静かに食事を味わう少年の姿も映っており、顔には喜びに満ちた微笑みが浮かんでいた、心の中で彼女は思わず呟いた。


「本当によかった……」


「レオン様が……お気に召さないのではないかと心配しておりました……」


二人が食事を終えると、ジャスミンは自らすべてを片付け、手際よく空間障壁魔法で周囲を覆う安全な空間を作り出した、その空間は一切の風の音や魔物の咆哮を遮断した。


レオンは馬車の中に入って休息し、ジャスミンは草原の上にそっと横たわり、空に高く掲げられた明月と星々を見上げた。


「なんて綺麗なのかしら……」


ジャスミンはその景色に見惚れ、思わず低く呟いた、道中の疲れが彼女にいくばくかの倦怠感をもたらし、朦朧とした眠気が訪れ、彼女は次第に夢の中へと誘われていった……


ただレオンだけが馬車の窓辺に軽く凭れ、頭上から放たれる微かな光魔法で書物を照らしながら、無表情で文字の中の魔力運用や操作の細部をじっくりと味わっていた。


朝、ジャスミンは手を挙げて空間障壁魔法を取り除いた、湿った水気を帯びた冷たい風が彼女の頬を撫で、やがて風の音はますます騒がしくなっていった。


周囲の環境もいくぶん冷え込み、この季節には似つかわしくない雪の花がゆっくりと舞い降り、地面に触れると消えていった。


「雪? 今は初春の季節……雪が降るはずはないわ……」


風はますます強くなり、凛冽な風雪が彼女の銀色の秀髪を舞い上げ、身に纏う白いローブも吹き上げられた、ジャスミンは耳元の髪をそっと撫で上げた、この程度の寒さは彼女にとって何の苦にもならなかった。


少女はそのまま手を挙げ、空間障壁魔法を馬車全体と馬の身体に覆い被せた、赤い瞳には警戒の色が満ちていた。


「あれは……魔獣?」


視線を遠くに向けると、巨大な躯体が空の雲層の中に忽隱忽現していた、その輪郭はまるで竜のようであった。


しかし彼女はそれを気に留めることなく、再び視線を馬車の中のレオンに集中させた。


洗面を済ませた後、ジャスミンはレオンのために温かい飲み物と、形の異なる数種類の果物を用意した、二人がそれを食べ終えると、一夜の休息を経て、キュキュも活力を取り戻していた。


どうやら昨日の奔走で確かに疲れていたようだ。馬車の車輪が再び回り始め、遠くの黒点のような町へと向かっていった。


レオンは窓の外の雪を見つめた。百里を越えて聞こえてくる教会の鐘の音が彼の耳に響いた、彼は眉をひそめ、声音は平静そのものだった。


「どうやら……空模様が変わるようだな……」


そして百里彼方の空の雲層の上では、一頭の身躯が巍峨たる山岳のような漆黒の巨竜が、太く逞しい竜躯に幾重もの硬質な鱗甲をびっしりと纏っていた。


それは頭を持ち上げ、天を揺るがす竜の咆哮を放った、周囲の雲層はすべてその一声によって震え散った。


太い尾部には無数の棘が密集して生えており、身躯がわずかに動くたびに厚い雲層を引き裂いた、漆黒の双翼は一面の玄色の鱗甲で覆われ、それによって高く安定して雲層の中に留まっていた。


全身には浩瀚で圧倒的な凶戾な煞気が満ちており、陽光がその身躯の鱗片に降り注ぐと、幾重にも色とりどりの流光が反射された。


一対の細長い氷藍色の縦瞳の眼差しは、下方の人間の町を冷淡に見下ろし、生まれながらの高みからの侮蔑の色を帯びていた、鼻腔の間からは絶えず冷気が溢れ出し、周囲の気流はすべて黒竜の強大な魔力に引き寄せられ集まっていた。


それは牙の生えた深淵の如き大口を開け、口中に一叢の青藍色の冥火を凝縮した、周囲の気温はたちまち急降下し、極限の低温が長空に充満し、雲層さえも凍りつかんばかりであった。


ドン! もともと小さかった青藍色の炎の塊が急速に落下し、途中で絶えず拡大膨張し、最後には町の半分ほどの規模に達した、凛冽たる氷の力がその中に秘められ、その気配はまさに阻むべからざるものであった!


そして、このすべては一時間前に遡る。


扉が開かれ、ポリーは恋い慕う少女の家の両親に追い出されていた、彼は向かいの路地の陰からそっと顔を覗かせる可憐な少女を見つめ、仕方なく再び首を振った。


これで五度目であった、毎回同じ境遇である、ポリーは普通の市井に生まれ、家は決して貧しくはないが、少女の家と比べれば、その差は歴然としていた。


少女の名はモニー、暮らし向きは町の中でも比較的裕福な家庭であった、彼女がポリーと出会ったその日から、この少年に興味を惹かれた、明るいポリーはいつも彼女に何とも言えない新鮮な体験をもたらしてくれた。


モニーは幼い頃から、同年代の女の子たちとはどこか違う性格を示していた、彼女は複雑な礼儀や処世術を学ぶのが好きではなかった。


生まれつき、彼女は男の子がするようなこと、例えば木登りや魚やエビを捕ること、あるいは男の子たちとじゃれ合うことのほうが好きだった。


これは彼女の両親にとって、女の子のあるべき姿にそぐわないと考えられた、しかし、それでも彼女は気にしなかった、たとえ今、大人になったとしても、同じことであった。


「やっぱりダメだ……彼らには到底受け入れられないと思う……」


ポリーはモニーの前に歩み寄り、目の前の少女を見つめながら、声には諦めの色が満ちていた、ポリーは少女を連れて逃げ出そうと考えたこともあったが、どうしても決心がつかなかった。


モニーの両親が町の聖騎士に彼の逮捕を申請するのではないかと恐れたのだ、しかしそれが最も重要なことではなかった、彼がより恐れていたのは——少女が完全にそれを受け入れず、拒否するのではないかということだった。


「大丈夫よ、あなたはもう十分頑張ったわ!」


モニーはポリーの頭を撫で、白い顔には愛らしさが満ちていた、彼女は少年の顔に浮かんだ落胆を見て、心ますます痛みを覚えた、しかし彼女は心の中の言葉をポリーに打ち明ける勇気が出せなかった。


彼女はポリーを連れて、自分を抑圧するこの町から逃れ出たかった、しかし彼女は言えなかった、もしこの言葉を口にしたら、ポリーは家族に背くこの反逆的な少女を受け入れてくれるのだろうか?

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