↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵紀行  作者: 梓UU
52/54

学院編:第五十二話:罠について

授業が幕を閉じると、ケトロニが口を開くより先に、レオンは相手に向かってうなずいた、ケトロニは一瞬呆けたが、やがて学生たちの喧騒の中を去っていった。


レオンは本をしまい、脇で背筋を伸ばして座り、本をめくっている少女を見て、平淡な口調で言った。


「行こう、今からケトロニ教授のオフィスへ。」


「どうしたの?」


セシリアは眉をひそめ、手にしていた本をめくる動作を止め、顔を横に向けてレオンと、隣で静かに立っているジャスミンを見た。


「本当の主犯はまだ捕まっていない、昨日出会ったのはただの、運任せで隙を狙っていた奴だけだ。」


そう言って、レオンはジャスミンを連れて教室の外へと歩き出した、ただセシリアだけがその場に残されたが、すぐに少女も席を立ち、扉の外へと向かう、扉の脇で待っていたハンナが黙って彼女の後に続いた……


トントン……


扉が叩かれ、ケトロニが入室を促すと、四人は再びソファに腰を下ろした、目の前の机の上には、ほのかに湯気を立てる紅茶が既に用意されていた。


「これをご覧ください。」


そう言って、ケトロニは一通の封筒をレオンの前に差し出した、レオンは封筒を手に取り開ける、そこにはオーヴェがケトロニに宛てて書いた報告書が記されていた。


「ケトロニ閣下へ、お恥ずかしながら、貴方の生徒のご助力により、我々は目標の確保に成功しました、ですが……残念なことに、彼は主要な目標ではありません。


本当の盗賊たちはまだ捕まっておらず、確かな情報によると、彼らは晶石症の治療材料を探しているようです、そのため、彼らは今夜も行動するだろうと予測しており、どうかご協力をお願いいたします。」


「うむ……ケトロニ教授、この件については我々も把握しています、ですから今夜、ジャスミンと引き続き調査します。」


レオンは封筒を、脇で紅茶を味わっていたセシリアに手渡した、少女はそれを受け取り、手にしていた茶碗を置き、眉を微かにひそめた。


「私はてっきりこの件はもう解決したものと思っていましたが……まさかこんな状況に遭遇するとは……」


ケトロニはため息をつき、苦笑いしながら首を振った。


「ええ……この数日で失われた材料は多く、巡回団側の負担もかなり大きいのです……」


「聖騎士が介入すれば、この事件の性質が変わってしまう、ましてや聖騎士はこのような小さな事件には決して関わらないでしょう。」


「彼らは巡回団と私に同時に依頼を寄越してきた、ただ私が目を掛けているのは、あなたたち二人だけだ……」


「ですが約束しましょう、たとえ金貨を望まなくても、あなたたちが必要とする材料や品物は、私が用意します。」


レオンとセシリアがちょうど口を開こうとしたところを、ケトロニに遮られた、二人は言葉を止め、黙って聞いているしかなかった。


ハンナとジャスミンは視線を交わし、口を開きかけては閉じるレオンとセシリアの様子を見て、二人は目を細め、顔に笑みを浮かべたまま、黙って眺めていた。


「あなたたちの考えは分かっています、ですが材料であれ道具であれ、今は必要なくても、将来使わないとは限りません、あなたたちが口にさえすれば、私は力を尽くして支援します。」


ケトロニの言葉が終わると、レオンとセシリアはしばらく思案した後、ようやくうなずいた、続いて、今夜の行動についての話し合いが行われた……


ぼろぼろの部屋の中、空気には淡い黴の匂いが漂い、日の光が屋根の破れ穴からまっすぐに垂れ落ち、まるで斜めに差し込まれた光の柱のようだ、塵の霧が光の中でゆっくりと漂っている。


ポンマはクリムの傍らにしゃがみ込み、手を上げて額の汗を拭いながらも、手の中の動作は止めなかった。


顔を拭い清められた子供たちを見て、クリムは軽くため息をついた、手の中の紙は握り締められて変形していた、それはまさにベアンから渡された材料リストだった。


「集めた物も大体揃っている、ただいくつか足りない、今夜で足りない分を揃える……」


ポンマは地面から立ち上がり、その眉はぎゅっと寄せられ、顔には心配と不安が浮かんでいた。


「ボス、最近動きが激しすぎる。巡回兵もどんどん増えてる。もし捕まったら、俺たちだけじゃなく、この子たちまで巻き込まれる。今夜はもう盗みはやめよう。ベアン医師と調整することもできるし……」


彼は手を上げてクリムの肩を軽く叩き、口調は先ほどより沈んでいた。


「この子たちのためにも、俺たち自身の約束のためにも、それに……ベキの時間はもうあまりない」


クリムの目に一瞬の躊躇が走ったが、すぐに押し殺された、彼の視線は、眠りに落ちている、体に晶石が生まれ始めている少女へと向けられた。


少女の皮膚には既に多くの細かい透明な砕石が付着しており、呼吸のたびに少女は苦しげな声を上げる。


クリムは苦笑いを浮かべ、手を上げてポンマの肩を叩き、仕方なさそうな口調で言った。


「分かっている、だが約束の期限が近い、待っているわけにはいかない、今回だけ賭けるんだ。」


ポンマはクリムの視線を追って見やり、長く思い悩んだ末、ついに白い歯を見せて、顔に笑みを浮かべた。


「分かりました、信じますよ、ボス、ではもう一度だけ賭けましょう、せめてこの子たちに治療を受けさせてやるんだ。」


さらさらさら……


一通の密閉された手紙の両脇に、掌ほどの大きさの翼が生まれ、羽ばたくたびに細かな魔力の粒が舞い落ちる、やがてそれは灰色の煉瓦で積み上げられた建物の窓辺へと降り立った。


ここはまさに王都の辺縁に位置する巡回団であり、主に日常の事件処理と小規模な治安維持を担当している。


ケトロニの魔力の波動を感じ取り、オフィスに座っていたオーヴェは慌てて窓を開けた、封筒はゆっくりとオフィス内に飛び込み、まるでいたずら好きな子供のように、屋内を一周してから、ようやくオーヴェの手元に収まった。


オーヴェは擦り切れた机の前に腰を下ろし、親指で封を切り裂き、中から折り目の整った便箋を取り出して読む、それから背もたれに寄りかかった。


「ふっ……夜間の巡回兵を引き揚げさせ、相手の警戒を緩ませて、レオンとセシリアに捕まえさせる、と?」


オーヴェの視線は窓の外に注がれる、遠くを数羽の飛鳥が掠めていき、彼らは一匹の虫を追いかけている、そのうちの一羽がようやく虫を咥えたその時、一羽のより大きな鷲が雲間から急降下してきた。


鷲はあの飛鳥を掴み上げた、飛鳥が必死に羽をばたつかせても無駄で、数枚の羽が宙に舞い落ちるだけだった、その光景を見て、彼は低い声で言った。


「なるほど、あの少年の名はレオンと言うのか……」


間を置き、彼の指先に一団の炎が燃え上がり、手の中の封筒を焼き尽くすまで燃やした。


「釣りか……あの魚がいつ針に掛かるか、楽しみなものだ。」


「ベアン医師、何を忙しくされているんですか?」


普通の平民の服を着た一人の青年が、忙しく働くベアンの方へ顔を覗かせた、彼の机の上には様々な珍妙な材料が並べられている。


その中で、拳ほどの大きさで、眼球のような形をした石が、ガラスの瓶の中に浮遊していた。


ベアンは手元の動作を止め、顔を横に向けて青年を見て、軽く笑いながら首を振った。


「晶石症の治療材料と、睡眠薬の解毒薬だ。」


青年は淡い金色の光沢を放つ一本の薬剤を手に取り、目の前に掲げてしばらく眺めた後、好奇心を込めて尋ねた。


「晶石症? 睡眠薬の解毒薬、ですか、おいくらで?」


ベアンはうつむいたまま手元の動作を止めず、気の抜けた口調で言った。


「金貨二百枚だ。」


青年はベアンの言葉を聞いて、口の中で唾液にむせて絶えず咳き込んだ、顔には困惑と衝撃が満ちていた。


「金貨二百枚? この晶石症の主な材料——巨石像の目だけでもう金貨百三十枚以上はしますよ、それにこれらの薬剤を加えたらどう見ても百七十枚には届きます……」


「それに……これはあくまで原価です、診察費や他の雑費を考えれば、どう考えても二百枚では収まりません、これじゃあ損をするのでは?」


ベアンは再び手元の動作を止め、声は低く、だがそこには一切の感情が込められていなかった。


「うむ、分かっている。」


長い沈黙の後、彼は再び口を開いた。


「だから、彼らに治療晶石症の副材料を探してもらっている、そう高いものでもないし、ただ……」


ベアンが言葉を止めるのを見て、青年は首を傾げて尋ねた。


「ただ?」


ベアンは軽く笑い、手を上げて眼鏡を押し上げ、視線を窓の外の景色に移し、しばらく思いを巡らせてから、傍らの茶碗を手に取り、一口含んで言った。


「いや、何でもない、小僧、お前は自分の用事をやりに行け。」


橙紅色の雲が天の果てまで広がり、微風が広い街道を吹き渡る、空気には様々な奇妙な匂いが混じっている。


道行く冒険者や商人たちは足早に歩き過ぎる、いくつかの店の前には大勢の冒険者が立ち並び、商人たちが彼らと言葉を交わしているようだ。


レオンは馬車の中から窓の外を眺め、しばらくして、視線を収め、目の前のセシリアを見た。


「どうやら、商人たちも焦り始めているな、今夜は間違いなく眠れない夜になりそうだ。」


セシリアはそっとうなずき、価格を巡って言い争う商人と冒険者たちに視線を流した、彼らは顔を真っ赤にしており、今にも殴り合いを始めそうな様子だ。


「うむ、計画は予定通りだ。ジャスミン、今回もお前は予定通りでいい。万一の時以外は、目標の逃走を阻むだけでいい。この戦いは俺が直接決着をつける。」


レオンは笑い、隣で背筋を伸ばして座るジャスミンを見た、少女は彼に微かにうなずいた。


「承知しました、レオン様。」


レオンの言葉を聞いて、セシリアは窓の外を眺めていたハンナに顔を向けた、少女の視線に気づき、ハンナは頭を掻いた。


「問題ありませんよ、セシリア様、私の任務はジャスミンと同じです。」


馬車は走り続け、やがてとある邸宅の前に辿り着く、速度は次第に緩やかになる、従者が車の幕を開けると、最初に目に入るのはあまり高くない囲い柵だった。


黒い欄干は腰ほどの高さの石壁の中に固定されており、塗装はやや色褪せている、邸宅の主体は灰白色の石造りの建物で、窓の内側は赤いカーテンで遮られていた。


正門の脇には、少々錆びた郵便箱が立っている、門を通して庭を覗くと、それほど広くはない、一本の古木が碎石の小道の脇に傾いて立っている、邸宅全体として言うほどの趣はないが、手入れが行き届いており、非常に清潔だった。


レオンは車の幕を下ろし、御者台の従者が扉を開けるのを待たずに、真っ先に馬車を降りた、セシリアが彼のすぐ後ろに続く、ジャスミンとハンナは互いに視線を交わし、それから互いに譲り合いながら馬車を降りた。


「行こう、ケトロニ教授が待っている。」


その言葉が終わるのとほぼ同時に、邸宅の門がゆっくりと開かれ、ケトロニとケルがレオンたちの元へ歩み寄ってきた、レオンを見て、ケルは口をへの字に曲げ、頬を膨らませた。


「レオン、セシリア、さあさあ、中で話しましょう、ケル、ジャスミンとハンナを連れて、あちこちを案内してやってくれ。」


「はい。」


ケルは軽くため息をつき、レオンとセシリアがケトロニと肩を並べ、三人が学術的な話題を交わしながら、笑顔で話し合っている様子を見つめた。


ケルはジャスミンとハンナを見て、ジャスミンの前に歩み寄り、手を上げてジャスミンの腕に抱き付き、顔に笑みを浮かべ、後ろの尻尾は楽しげに揺れている、レオンを見た時の態度など微塵もなかった。


「ジャスミン、久しぶり、ハンナも、一緒にあちこち回ろうよ、爺様のところは退屈すぎるもの。」


「それに、まだ時間はたっぷりあるし、夜の行動にも響かないわ、まずは一回りしてきて、その後に戻って食事にしましょうよ!」


「うむ、いいね、ケル。」


ジャスミンはうなずき、つい手を伸ばしてケルの微かに震える耳をそっと撫でた、ケルは体を一瞬びくつかせたが、それでもジャスミンに撫でられるままにしていた。


ハンナは伸びをし、口の中で思わず軽く鼻歌を漏らす、それからケルとジャスミンの手を引いて、とある通りの方へと足早に向かった。


「そうそう、さっき馬車に乗っている時に一軒、装飾品の店を目にしたんだよ、早く見に行こうよ、ははは!」


邸宅の中、レオンは紅茶を一口含み、茶杯を机の上に置いたばかりのところへ、一人の女中が彼の前に歩み寄り、もう一杯注いだ後に、一礼して脇へ下がった。


レオンはケトロニを見て、珍しく眉を固く寄せ、その表情は非常に真剣だった。


「教授、あの媒介型法陣は確かに便利ですが、消費が大きすぎます、それほど魔力を消費するとは思っていませんでした、法則級の転送に比べると、コストが高すぎます。」


「もし携帯型法陣だとしても、効果があまりに弱すぎます、もしあの日携帯型を使っていたら、一瞬で魔力を吸い尽くされ、教授の店にすら辿り着けなかったでしょう。」


ケトロニは茶杯をソーサーに戻し、笑みを含んだ口調で言った。


「法則級は確かにそれほどコストを掛けない、だが問題はそこにある、本来なら、魔力が全てを決める、携帯型は速いが、極めて魔力を消費する。」


「媒介型法陣はこれほど遅いのに、なぜそちらを選ぶのか?」


ケトロニは手元の動作を止め、ソファに寄りかかって説明した。


「それはコストだ。お前の話した経緯からして、私は聞き取れたぞ、お前は迷った、慎重さを選んで、ジャスミンに魔力を使わせたのだろう、自分で使わずに、どれだけ節約できるかを感じ取れなかった。」


「一つ、媒介型法陣を使えば、たとえ魔法級であっても、自身の魔力の一割しか消費しない、消費するのはあくまで材料だからだ。」


「二つ、その効果は携帯型を遥かに上回る。」


そう言い終えて、ケトロニは茶杯を手に取り軽く一口含み、視線を脇で沈黙しているセシリアに落とした、セシリアは笑い、そっとうなずいた。


「ケトロニ教授のおっしゃる通りです、ただ、まだお漏らしになっている点があります。」


「漏らしている点?」


レオンはいくぶん疑問に思い、ソファに凭れていた背中を少しだけ立て直したが、声は依然として穏やかだった。


レオンの穏やかな顔を見て、彼女の指が机の上で陣紋を描きながら、平淡な口調で言った。


「媒介型法陣には、もう一つ不安定なものがあります、もし長く放置されていた場合、レオン、様々な陣紋を書き換えて、転送法陣や禁魔法陣などに修復することは可能かもしれません……」


「ですが、極めて大きな隠れたリスクが一つあります。」


「リスク?」


レオンの視線はケトロニに注がれたが、相手は説明する様子もなく、ただ目を微かに細めて、口元に淡い笑みを浮かべていた。


セシリアはレオンとケトロニの小さな仕草を目に留めたが、何も言わず、丁寧に答えた。


「そうです、それは極めて不安定で、いつ暴走してもおかしくない、あるいは反噬を受けるかもしれない!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。