学院編:第五十一話:真の目標
湿気でじめじめとした地下牢の中は光が薄暗く、壁の上の隙間から絶えず水が滴り落ちている、数十メートルごとに、壁面には燃え盛る松明が挿してあり、松明はパチパチと弾ける音を立てている。
腐臭、黴の匂い、灯油の匂い、そして言葉にし難い匂いが、地下牢全体を満たしており、胃の中がぐらぐらと波打つ、とはいえ牢獄の囚人たちも巡回兵たちもとうに慣れていた。
チューチューと、黒いネズミが壁際に張り付いて這い回る、彼らは鼻をひくつかせ、口元の髭をそっと震わせ、漆黒の目を上げて、一人の巡回兵を見つめる。
兵士は厳しい表情で牢房の扉の前に立っており、身に着けた皮鎧は松明の光で暖かな光沢を映している、物音を聞いて、兵士は足元のネズミに視線を落とし、チッと舌打ちし、顔中に嫌悪感を浮かべた。
だが彼はやはり片手をポケットに差し入れ、ピーナッツを一粒取り出し、何気なく壁の隅へ投げた、ネズミは走り寄って拾い上げ、匂いを嗅いだ後、両手で抱えて二口かじりついた。
それは顔を上げて兵士を一目見て、チューチューと数度鳴くと、細長い尻尾を引きずるようにして角の穴の口へと走り去った。
「何だって? お前は店荒らしの主犯じゃないだと?」
牢房の内側から怒りを帯びた怒号が響く、その声は鉄扉を抜けて、兵士に眉をひそめさせる、それから仕方なくため息を一つ吐き出した。
牢房の中、オーヴェの眉はぎゅっと寄せられ、目には抑えきれない怒気が宿り、その表情は非常に凄まじく、レオンと顔を合わせた時とはまるで別人のようだ、彼は一歩踏み出し、目の前の机までもが微かに震えた。
彼は左手ひとつで盗賊の胸元のぼろ布の衣服を掴み上げ、相手の体全体を宙に持ち上げる、それから右手を力強く振り抜き、拳を盗賊の腹に叩き込んだ。
「ぐはぁ……」
盗賊の口から血の水が一筋噴き出る、元々レオンに打たれた箇所は治療を受けておらず、今や更に酷くなっていた。
ドサッ!
オーヴェは適当に一振りし、盗賊の体全体はひとつの隅に叩き倒された、腹を引き裂かれるような激痛が全身を貫く。
彼は地面に丸くなり、額からは絶えず細かな汗が滲み出て、顔色は血の気が一切なくなるほど蒼白で、口からは血の水と酸の水を吐き出していた。
隣に立っていた巡回兵たちは互いに目を合わせ、二人の顔には不屑の色が浮かんでいる、その中の一人は盗賊を脇へ蹴りやったほどで、顔中に嫌悪感を満たしていた。
「続けろ。」
オーヴェは拳を解き、一歩後退して、後ろの椅子に腰を下ろし、脚を組んだ、その表情は淡々としており、先ほどの怒りを無理やり押し殺し、口調は冷たかった。
盗賊は必死に顔を上げる、口元にはまだ血の泡が付いている、体は絶えず痙攣し、一言一言が彼に力を尽くさせた。
「私……私はただの……ただの拾い盗りをしている盗賊で、本来は物を盗むつもりはなかったんです……ただ……どうしても飯を食う金がなくて……」
「だからこの数日、ずっと盗んでいました……貴重品は一度も取っておらず、僅かな銀貨と価値の低い物だけを、腹一杯になる分だけ……」
「そうか……お前は他に盗賊を見たことがあるか?」
オーヴェの指先が椅子の肘掛けを軽く叩き、口元を微かに上げて、冷ややかな笑みを浮かべた。
盗賊は苦しそうに喉元にせり上がってくる血の泡を飲み下す、鉄錆の味に酸っぱさと苦さが混じり、口腔の中に広がった。
「見たことあります……見たことはあります……だが一度だけです、彼らの動きは速く、実力も強かった、それに二人組で、一人は手際が良く、もう一人は少々慣れていない様子でした……私は彼らがやり始めた後に盗んでいたんです。」
オーヴェの視線は隣の二人の巡回兵に向けられ、相手に目線で合図を送る、二人は急いで地面に倒れていた盗賊を起こし、向かいの椅子に座らせた。
虫の息の盗賊を見て、二人の手からは翠緑の光が溢れ出す、光は非常に暖かく活力に満ちており、ゆっくりと盗賊の体の傷を治癒していった。
「うむ、大体わかった、お前たち二人、残りのことはお前たちで段取りをしろ、あいつを死なせるな、新しい手掛かりがあればすぐに私に知らせろ。」
オーヴェはうなずき、向きを変えて扉の外へ歩き出す、足音を聞いて、扉の外の巡回兵は慌てて扉を開けた。
巡回兵は拳を固く握り、胸の前でそっと叩き、オーヴェに敬礼した、オーヴェは淡々とうなずいた。
地下牢の臭いを嗅いで、彼は仕方なく眉を一瞬ひそめたが、すぐにまたほどき、足早に地下牢の外へ向かった。
オーヴェは湿った地面に一歩踏み出す、夜の空気には微かな冷たさが漂い、月が地面に白い霜を降り注いでいる。
彼は白いマントを取り出して身に纏い、軽く引っ張って整えると、また一つため息をついた、白い息が彼の眼前で速く散っていく。
「春もそろそろ終わりか。」
そう言って、彼は足早に遠くの一頭の黒馬へ向かう、手際よく鞍に飛び乗り、やがてゆっくりと夜の闇の中へ消えていった。
簡素な家が一軒、とある区域に建っている、屋根は赤い煉瓦で葦かれており、壁面には様々な柄の絵が描かれている、暖かな黄色の灯りがまだ点いていた。
オーヴェは馬から身を翻して降り、馬を家の馬小屋に繋ぐ、目の前の家を見て、彼は手を上げて付いていない埃をはらい、家の中へと歩み入った。
ギィ……と、やや古びた木の扉が、彼が押す動作に合わせてごく僅かな摩擦音を立てる。
彼の視線は暖炉の傍らに向けられた、そこには麻布の服を着た少年と少女が座っており、火の光が彼らの手元の書物を照らし、その顔を赤く染めている。
今し方、少年と少女は魔法の書物をめくっていたところだ、扉の方の物音を聞いて、顔を横に向けてオーヴェを見ると、顔に笑みを浮かべ、慌ててオーヴェの前に駆け寄った。
「兄ちゃん、帰ってきたんだね!」
「お兄様、今日も私と妹はちゃんと家でおとなしくしていましたよ!」
オーヴェは二人の小さいのを見て、手を上げて頭をわしゃわしゃと撫で、微かにしゃがみ込むと、手を上げてココを抱き寄せ、少女の柔らかな髪を撫でた。
「うむ、ココもベルも、こんな遅くまでどうして起きているんだ? 特にベル、お前どうしてちゃんと彼女を見ていなかったんだ? これではココの病状が悪化するだけだぞ!」
ベルは唇を噛み締め、頭を掻きながら、自責の混じった口調で言った。
「兄ちゃん、ココは昼ごろからずっと調子が悪くて、夜になってやっと少し良くなったんだ、でもやっぱり兄ちゃんの帰りを待ちたいって言って、俺にはどうしようもなかったんだ……」
ベルが兄に問われているのを見て、ココはオーヴェの胸元にすり寄って、まるで人懐っこい猫のようだ、その声は柔らかで甘かった。
「私……咳、お兄様、私は大丈夫です、お兄様がお帰りになるのを待ってから休みたかったんです……」
ベルは片手を腰に当て、顔中に仕方なさを浮かべ、両手を広げてオーヴェを見た。
「だから……兄ちゃん、俺にもどうしようもなかったんだよ、あいつが強情すぎてさ……」
オーヴェは仕方なさそうに首を振り、手を上げてベルの額を軽くつつき、それからそっとココの鼻先を指でなぞった。
「お前たちは……まったく……よし、時刻も遅いし、俺は顔を洗ってくる、お前たちも早く休め。」
「うん! はーい、お兄様!」
「分かったよ、兄ちゃん……」
二人の子供はうなずき、ベルは暖炉の傍へ行って本を手に取り、オーヴェはココを抱き上げて、寝室へと歩いていく、寝室は広くはないが、とりわけ温かさに満ちていた。
ココはオーヴェにそっとベッドに下ろされる、オーヴェは少女に布団を掛け直し、ベルにもベッドに入るよう催促する、二人の子供がベッドに横たわるまで、彼は居間の机の前に歩いて腰を下ろした。
オーヴェは羽根ペンを手に取り、インクを浸すと、羊皮紙の一枚に今日の取り調べと報告の進捗を書き記していく、顔にあった優しさは、再び厳しさに取って代わられた。
どれほどの時が過ぎたか、彼は手にした羽根ペンを置き、窓の外の月を見て、低く呟いた。
「今の状況はますます厄介になっている、どうやら……まだまだ手が掛かりそうだ……ただ、上がずっと解決を急かしている、あと数日で片付かなければ、この隊長の座も危ういな……」
「この仕事がなければ、妹の薬代も、弟の学費も、諸々の出費も……はあ……」
しばらく思案した後、オーヴェはまた一枚の羊皮紙を広げ、手のひらで微かに丸まった端を撫で伸ばし、インクを浸し、続けて書き記した。
「ケトロニへ……」
月は、より一層明るくなる、風は、より一層強くなる、窓の外の木の葉を吹いて、サラサラと音を立てる。
オーヴェは顔を洗い終えて部屋に戻ると、ぐっすりと眠っている二人の小さな者たちを見て、極めてゆっくりとした動作でマントを脱いだ。
寝間着に着替えた後、彼はベッドの前へ歩み寄り、腰を屈めて二人の子供の額にそっとキスをし、それから枕元の灯りを落とした。
「おやすみ、ベル、ココ……」
翌日、遠くの空の果てに銀白色の縁が広がり、陽の光が地面に降り注ぎ、大地に薄い金色の衣を一枚掛ける、朝の露が草の葉を圧して、折れ曲がるほどに垂らしていた。
レオンとジャスミンはとっくに食事を終えていた、授業の開始までにはまだ時間がある、レオンはジャスミンと寮の芝生の上で、魔法の練習について語り合っていた。
この期間、レオンはジャスミンの指導と鍛錬の下、多くの魔法を学び、元素の使い方もますます巧みになっていた、ただ魔力だけはまだ大きな伸びしろが残っている。
レオンは片手を胸の前に組み、もう一方の手で顎を支え、今後の予定を考え込んでいる、彼の目はジャスミンの手の中で絶えず凝縮される風魔力を見つめていた。
「ジャスミン、今の俺はほとんど全ての元素魔力を使える段階まで達している、魔法のほうも追いつけなければならない、次は……図書館で魔法の本を借りるべきだな。」
「時間はまだある、後に冒険者協会で依頼を受ける準備をしなければならない。」
「レオン様、いつ行かれるおつもりですか?」
ジャスミンは片手で軽く握ると、手の中の風魔力を難なく掻き消した、少女は目の前のレオンを見つめ、目をぱちぱちと瞬きながら、彼の身長が自分の胸の高さに届こうとしているのを見て、ひとりごとのように低声で呟いた。
「レオン様、だいぶ背が伸びたように見えますが、ところで……男の子の身長って、こんなに速く伸びるものなんですかね?」
「ジャスミン?」
レオンは目の前で自分をじっと見つめ続けるジャスミンを見て、歩み寄って少女の前に立つと、片眉を微かに上げた。
「わ……わたくし、います! 申し訳ありませんレオン様、わたくしうっかり考え事をしてしまって、おっしゃったことを聞き逃してしまいました……」
ジャスミンは我に返り、慌ててレオンに答える、目の前の心配そうな眼差しを向ける少年を見て、目を左右に見渡した後、うっかりしていたことによる微かな赤みを顔に浮かべた。
ジャスミンの答えを聞いて、レオンは両腕を胸に組み、ジャスミンの周りを一周してから、一抹の笑みを浮かべた。
「うむ……俺の身長のことについて考えていたんじゃないか?」
ジャスミンは微かにうなずき、そっと指を絡めながら、見抜かれた表情を浮かべた。
「あの……レオン様に当てられてしまいましたね……えへへ……」
レオンは笑い、軽くため息をつき、ジャスミンを見て説明した。
「体自体が発育期にあるし、それに鍛錬や栄養補給もあるんだ、珍しいことではない、ただ最近は物事が多くて、気にしている余裕がなかっただけだ。」
説明を終えると、彼は向きを変えて背中をジャスミンに向ける、先ほどまで笑みを含んでいた声は収められ、口調も先ほどより一層真剣なものになった。
「今日の午後は図書館へ行こう、盗賊の件は解決したし、久しぶりにゆっくりできた、後の冒険者協会の依頼に備えて準備を進めるぞ、これからの日々……ペースを上げるぞ……」
ジャスミンはうなずき、レオンの足取りに従って、教室の方へ足早に歩き出した、教室の扉がようやくジャスミンに押し開けられると、学生たちの議論の声が押し寄せてきた。
「聞いたか、昨夜もまた何軒もの店が盗まれたんだ、金貨の他に、材料もたくさん盗まれたそうだ……」
「知ってる知ってる、どうやら晶石症に関係のある材料らしい!」
「本当かよ? あんなの盗んでどうするんだ? 治療か? もし本当に晶石症だとしたら、結構な金が掛かるんじゃないか?」
頭に二本の角を生やした魔族の少年が頭を掻き、満面に困惑を浮かべた。
背もたれに寄りかかっていた竜族の少年はフンと鼻を鳴らし、紫色の縦長の瞳に軽蔑の色を満たしていた。
「いまだに主犯すら捕まっていない、聖騎士なら、こんな事態はとっくに解決しているだろうに、何でわざわざ巡回隊を作ったのかも分からないな。」
隣ですぐに同調する声が上がる、彼らの話し声は大きく、周りの本を読んでいた多くの学生が眉をひそめるが、制止はしなかった。
窓の外の陽の光が玻璃を通り抜けて注ぎ込み、絨毯の上に光を落とす、微かな塵が光の柱の中でゆっくりと浮遊し、時折遠くの何羽もの鳥が掠めていくのが見える。
最前列で短い三つ編みを結ったドワーフの少女が机にうつ伏せになり、顎を腕に載せ、目を半ば閉じてあの連中の話を聞き、時折口をへの字に曲げて、慣れたものだといった風情だ。
レオンは視線を収め、自分の席に腰を下ろし、魔力実践の本を一冊開く、ようやく置いたところで、また隣でちょうど席に着こうとしているジャスミンに首を向けた。
レオンは一拍置いてから、ゆっくりと口を開いた。
「ジャスミン。」
「はい? レオン様?」
ジャスミンは少し首を傾げ、レオンの真剣な顔を見て、無意識に少し近づいた。
「昨夜のあの盗賊を覚えているか?」
「覚えています、それがどうかしましたか?」
ジャスミンはうなずき、手を上げて耳元に落ちた髪の毛を掻き上げ、まつ毛をぱちぱちとさせた。
「あいつは本当の目的じゃない、ただの拾い盗りだ、本当の犯人はまだ捕まっていない。」
レオンは回りくどく言わず、口調に一抹の無念を含ませた。
「だから、授業が終わったらケトロニ教授に会いに行く。」
ジャスミンは何か考えるように、遠くでまだ議論している学生たちを見やった、唇を微かに引き結び、それから顔を戻した。
「承知しました、レオン様、今夜はわたくしも手を貸して参ります。」
レオンは視線を戻し、本を開き、ジャスミンを見ないまま、思考を巡らせながら続けた。
「うむ、そうしよう、ただ……勉学のことは、しばらく後回しにしなければならないな。」
部屋の隅で、一人の赤い髪の少年が、あの大小の主従を見て、視線はずっとレオンに注がれていた、彼は先日久しぶりに決闘場で行われた試合を思い出し、あの時からレオンに目をつけていた。
「あの男……また何かを企んでいるのか?」
彼はちょうど教室に入ってきたセシリアを一瞥し、長く留まることなく、また視線をレオンに戻した。
「見せてもらおうか、レオン……お前は一体、何を根拠にそんなに余裕でいられるのか。」
「あの……レオン様、彼のことをご存じですか?」
ジャスミンは振り返りもせず、片手で顎を支え、もう一方の手で本をめくりながら、隣のレオンに尋ねた。
「知らない。」
レオンは肩をすくめ、手元の本のページをめくり続ける、二人は、あのずっと自分たちを強く見つめていた視線に、さして気を留めることはなかった。




