学院編:第四十九話:雨のカーテン
「アナトロペが存在する領域は、ダンジョンのどこに隠されているとも限らない、つまり、どのダンジョンに出現する可能性もあるということだ。」
「その力は破壊と創造に由来し、能力はあらゆる願いを一度だけ叶える力を与えること、ここにある全てのもの、世界の規則を書き換えることすらも含めて。」
ここまで聞いて、レオンの眉がぎゅっと寄せられる、やがて徐々にほどけていく、机の上に置いていた指先がふと止まり、伏せていた目を持ち上げ、低い声で言った。
「あらゆる願い……」
レオンの異変に気づき、ジャスミンは顔を横に向けてレオンを見つめ、気遣いのあるまなざしを向けた。
「どうされましたか? レオン様?」
レオンは笑い、その目には穏やかさと気軽さが浮かんでいた。
「何でもない、ただ少し興味が湧いただけだ。」
ケトロニの声はまだ続いていたが、もはや誰一人として雑談をする学生はいなかった、彼らは皆、老練な講師の説明にじっと耳を傾けていた。
「古の書物の記録によると、その形態についての説は一万通り以上あるとされる、だが、認められているのは、ただ一つの形態だけだ。」
「それはおよそ九インチの高さで、三つの互いに捻じれ絡み合う環を持ち、それらは永遠に互いに回転し続ける、環には破壊と創造の銘紋が刻まれており、全体は暗金色で、黒金色の光を放っている。」
「その中心には、一つの聖杯が浮いている、聖杯は全体が不明の物質で作られており、全体は暗紅色、表面は焼けて溶け、また固まった蝋をまとったかのような様相を呈している。」
「その上面には恐ろしい眼の紋様がびっしりと刻まれており、頂部からは神聖な白い輝きが放たれている。」
ケトロニはゆっくりと息を吐き出し、その場の学生たちを見渡し、講台の縁を指の関節で一つ叩き、それから穏やかな笑みを浮かべた。
「皆さん、まだ何か聞きたいことはありますか?」
言葉が終わった途端、一人の男子生徒がゆっくりと手を上げ、それからいくぶん疑問を含んだ口調で追って尋ねた。
「教授、そのいわゆるあらゆる願いを叶える聖杯というのは、本当に存在するのですか?」
「紛れもなく、それは実在します、これは数え切れないほどの古い書物に記されているのです。」
ケトロニの口調は確信的だった、その声は大きくはなく、話し終わりの語尾はしっかりと落ち着いていた、その言葉を聞いて、少年はうなずき、問い詰めるのをやめて、静かに席に座ったまま黙って思いを巡らせていた。
そんな時、セシリアが手を上げる、それを見て、ケトロニは少女に発言を促した。
「では、ケトロニ教授、なぜこれまで誰もアナトロペを手に入れることに成功しなかったのでしょうか?」
「うむ、実に良い質問だ、実は理由はとても簡単なこと、このレベルの宝は、本来なら最上位の強者たちが奪い合うに値するものだ。」
「だが、彼らはまさに、これが世界にどれほどの変革をもたらすかを知っているからこそ、互いに牽制し合っているのだ、古来より誰一人として手にした者はない。」
セシリアはうなずき、それから静かに自分の椅子へと戻った、その目線は、隣でまるで気にした様子もなく何かを考え込んでいるかのようなレオンへと向けられた。
ちょうど他の学生が別のことを尋ねようとしていた時、教室の外から鈍い音が響いてくる、ケトロニは学生たちを見て、気さくな口調で言った。
「今日の講義はここまでです、お疲れさまでした。」
そう言って、ケトロニはレオン、ジャスミン、そしてセシリアを見た。
「レオン、ジャスミン、それにセシリアさん、少しの間私の執務室まで来てもらえますか、話したいことがあります。」
言い終えると、ケトロニは学生たちに軽く会釈し、学生たちとその従者たちの感謝の声に包まれながら歩き出し、学院の執務室へと向かって歩いていった。
「行こう、ジャスミン。」
レオンは隣でうつむきながら本を片付けているジャスミンを見て、そっと相手の腕を叩いた、ジャスミンは微かにうなずき、耳元に垂れていた髪を手で掬って耳の後ろに掛け、レオンに向かって優しい笑みを見せた。
「はい、レオン様。」
隣のセシリアはレオンとジャスミンをちらりと見ただけだった、それから教室の外にいる一人の少女に向かって手を上げて合図を送る、相手は速やかで機敏な足取りで少女のそばへ歩み寄る。
少女は執事の黒い燕尾服を身にまとい、柔らかなオレンジ色の短髪をきれいに整え、白い顔に淡い笑みを浮かべ、瞳が微かに釣り上がっており、非常に親しみやすい印象を与えていた。
「セシリア様、何かご用件でしょうか?」
少女は体を微かに折り、口元から白くきれいな八重歯が覗く、その目はやはり細められたままで、立ち居振る舞いは上品で模範的だった。
「ハンナ、この後、あなたも一緒にケトロニ教授の執務室へ来て、何か複雑な事態が起きていると思うの。」
ハンナは微かにうなずき、厳しい口調で言った。
「かしこまりました。」
レオンとジャスミンは教室を出ると、目に飛び込むのは広々とした廊下だった、床には灰青色のウールカーペットが敷き詰められ、空気の中にはほのかな薫香の香りが漂っていた。
一陣の清風が廊下に吹き込み、少女の銀白色の髪と、レオンの黒い短髪をそっと持ち上げた。
少年は後から追ってきたセシリアを一瞥したが、何も言わず、まっすぐケトロニのいる執務室へ向かって歩いていく……
黒金色の木製の扉からは木の香りが漂い、ジャスミンが手を上げて扉を叩くと、黒金色の木製の扉が澄んだ音を立てる、ケトロニの声が部屋の中から響いてくる。
「どうぞ。」
ガチャ。
ジャスミンは黒金色の木製の扉を開き、体を横にしてレオンを先に入らせた、後ろから続いてきたセシリアを見て、相手に微笑みかけ、それから先に進むよう促した。
ハンナはジャスミンを見て、明るい笑顔を見せ、ジャスミンの耳元に寄せて小声で言った。
「ありがとうございます。」
執務室の空間は広くはなかったが、様々な古風な書物が並べられており、空気中には紙の匂いが漂い、木の香りと混ざり合って、とても居心地の良い雰囲気を醸し出していた。
四人はそれぞれの席に腰を下ろすと、ケトロニが軽く手を振る、四杯の金の紋様が彫られた磁器のカップが、四人の前にゆっくりと舞い降りる、濃厚なローズの香りがほのかな茶の湯気とともに四人の鼻先に漂った。
ケトロニは四人を見て、手を上げて髭を撫でつけながら、そのうちの一杯をジャスミンの方へ半寸ほど押しやり、慈愛に満ちた笑顔を浮かべた。
「特別に手に入れた紫藍玫瑰だ、これは珍しい花茶でな、早く味わってみてくれ、味わいは実に独特なのだ。」
「ありがとうございます……」
四人は遠慮することなく、ケトロニに礼を述べた後、茶碗を手に取ってそっと口に含む、花茶の温度はちょうど良く、茶が口の中に入った瞬間、ほのかな清らかな甘さと濃厚な花の香りが、それぞれの口の中に満ち広がった。
ジャスミンとハンナは目を輝かせ、二人は互いに視線を交わし、それからケトロニを見て言った。
「これは本当に良いお茶ですね、私は初めて飲みました。」
レオンとセシリアは特に大げさな反応は見せなかったが、それぞれに味は良いと思っていた、レオンはそっと手の中の茶碗を机の上に置き、非常に微かな音を立てた。
「ケトロニ教授、よろしければ、早速本題に入りませんか?」
セシリアは何も言わなかったが、やはり茶碗を机の上に置き、目線をケトロニに向け、その目は穏やかだった。
ケトロニは髭を撫でつけていた手を止め、手のひらを机の上に置き、指の関節で机を二度叩き、眉をぎゅっと寄せるが、すぐにまたほどく、年老いた顔立ちが真剣なものに変わる。
「ふふ、では遠回しはやめにしよう、昨日のことを覚えているかね? 私の店が盗難に遭った、だが、私はこれで事が収まると思っていた。」
「しかし、状況は私の考えよりももっと悪い、今朝までに、近隣の多くの店が盗難に遭っている、既に王都巡回団には報告したが、今のところ何の手掛かりも得られていない。」
レオンはケトロニの顔を見て、それから追って尋ねた。
「それで? ケトロニ教授、我々にこの件の調査を手伝ってほしいとおっしゃりたいのですか?」
ケトロニは微かにうなずき、席から立ち上がり、それから二袋の金貨を取り出して二人の前に差し出した。
袋は膨らみ、少なくとも十五枚以上の金貨が入っているのが分かる、机の上に置かれた時、じゃらりと音を立てた。
「うむ……こんなことを頼むのは心苦しいが、君とセシリアなら、きっとすぐに事を解決できると思うのだ、君たちは私がこれまで見てきた中で、数少ない仕事のできる学生だからな。」
レオンとセシリアは同時に手を上げ、袋をケトロニの前へ押し戻す、二人の声は穏やかで、ほとんど同時に発せられた。
「それは結構です、ご安心ください、この件は、私たちがお手伝いします。」
隣のハンナとジャスミンは何かを思案するように互いに視線を交わす、彼女たちはあえて口を挟まず、静かにレオンとセシリアを見守り、時折手の中の花茶を一口含んでいた。
「ですが……」
ケトロニがまだ何か言おうとしたその時、セシリアに遮られた、少女の表情は極めて真剣で、目には強い決意が宿っていた。
「ご安心ください、私たちがお手伝いするのは当然のことです、これは他の人々を助けることにもなりますから。」
幾度もの押し問答の末、ケトロニは仕方なく金貨をしまい込んだ。ここで、依頼の件はひとまず置かれることとなり、三人は学術的な話題について話し始めた。
隣のハンナがそっとジャスミンの肩を叩き、体をジャスミンの耳元に寄せ、ごく小さな声で尋ねた。
「あなたは、この件をどのくらいで解決できると思う?」
ジャスミンはハンナの言葉を聞き、少女は急がず騒がず花茶を一口含み、目線はメディア型の法則について議論しているレオンに向けられていた、少年は時折「やはりそうか」といった表情を浮かべている。
ジャスミンが顔を横に向けて隣のハンナを見ると、相手は細められた目に浅い笑みを浮かべていたが、ジャスミンの口調は確固としていた。
「すぐに!」
三人は長いこと議論を交わし、レオンがまた多くのことを学んだ後、ケトロニは二人にそれぞれ報告書と通行カードを手渡した、レオンとセシリアたちはケトロニの執務室を後にした。
…………
時間は瞬く間に夜へと移り変わる、ざあざあと、しとしとと降る雨音は、誰かが寮の部屋の窓ガラスを叩いているかのようだった。
稲光はまるで一匹の大蛇のように、体をくねらせるたびに雲の底を灰色に照らし出す、光が消えると、雨音は一層騒がしくなり、やがて鈍い爆発音が響き渡る。
レオンは机の前に座り、手元でケトロニから渡された調査報告書をめくっている、彼の眉は深く結ばれ、指先が絶えず報告書の端を擦りながら、何かを思案しているかのようだった。
トントン! 部屋の扉が叩かれ、レオンが顔を横に向けて扉を見て、気軽な口調で言った。
「どうぞ。」
ガチャ、扉が開かれ、ジャスミンが小さな盆を持って立っていた、盆の上には食器一式と、その隣にジャスミンが手作りした点心が置かれている。
「お疲れさまです、レオン様。」
そう言って、ジャスミンはレオンのそばに来て、そっとレオンのために紅茶を一杯注ぎ、また点心をレオンの机の前の隅に並べた、やがて、紅茶の清らかな香りと点心の漂う香りが部屋の中を包み込んだ。
レオンは点心を一つ手に取り、口に入れて一口噛む、甘い味わいが彼の口の中に広がる、彼はジャスミンを見た。
「ありがとう。」
「これは私がするべきことです。」
ジャスミンは笑い、そっと首を振ると、机の上の報告書を見て、探りを入れるような口調で尋ねた。
「レオン様、事件の方はどうなりましたか?」
レオンは点心を飲み込み、ジャスミンから差し出されたナプキンを受け取り、それから報告書を閉じて、目を上げて隣のジャスミンを見た。
「おおよそのことは分かった、盗まれた店を調べると、材料と金貨を除けば、他の物品は何も失われていない、つまり、この盗賊たちは何かの材料を探していた可能性が高い、しかも彼らはかなり金に困っているようだ。」
ジャスミンは何かを考えるようにうなずき、レオンから受け取った事件報告書を開いてざっと目を通し、それから隣の本棚に置いた。
「はい、確かに私も確認しました。」
「うむ、だが私はそれだけではないと思う、ケルを覚えているか? 彼女が店の盗難に遭ったと言っていた、失われたのは何だった?」
「睡眠薬と金貨二十五枚、ですから、彼らが探している材料は睡眠薬に関係しているかもしれません……」
そう言って、レオンは笑い、紅茶を手に取ってそっと一口含み、ジャスミンを見るその目は明るかった。
「だが、これは今のところ私の推定に過ぎない、まだ確かではない、明日ケトロニ教授に伝えて、ケルに近隣の店で失われた材料が何だったのか調べるよう知らせてもらおう。」
そう言いながら、レオンは立ち上がり、紅茶を一気に飲み干し、それからジャスミンを見た。
「行こう、今夜から、私たちの調査を始める。」
「はい! レオン様。」
……
パタ、パタ。
大と小、二人が黒い雨合羽を身にまとい学院の道を歩く、広々とした大通りに沿って、まっすぐ学院の門へと向かっていく、ちょうど二人が門を出ようとしたその時、二つの白いローブ姿が歩み出てきた。
彼らの身には白い雨合羽がかけられ、雨合羽には金色の文様が描かれている、頭部は兜で包まれているため顔は見えない、そのうちの一人の聖騎士の衛兵がレオンを見て、穏やかな声で言った。
「学生、こんな夜更けに、どこへ行こうとしている?」
ジャスミンが先に相手の前に歩み寄り、ポケットから通行証を取り出して、目の前の聖騎士に差し出し、穏やかな口調で説明した。
「こういうことです、私と主家の方はケトロニ教授の邸宅へ向かうところです、これが通行証です、通してください。」
ジャスミンの目の前の聖騎士は隣の仲間を見る、相手はその意図を理解し、手を伸ばしてジャスミンの通行証を受け取り、指先でその上に刻まれた名前を撫でた。
ケトロニの名前は金色の文字で刻まれており、カードは全体が白金で作られ、表面にはカタリ貴族魔法学院の紋様が刻まれ、レオンとジャスミンの姓名が特別に記されていた。
確認が済むと、彼女は仲間に向かってうなずく、ジャスミンの前に立っていた聖騎士も同じようにうなずき、それから体を横に退けて、相手に通るよう合図した。
「問題ありません、通行証はお戻りの際にお返しします、ですが、くれぐれもお伝えしておきます、夜間に外を出歩くのは危険を伴うかもしれません、どうかご注意ください、もし何かあれば、近くの巡回兵に知らせてください、彼らが支援を提供します。」
「ありがとうございます。」
ジャスミンは礼を言ってうなずき、緩やかな足取りでレオンの後ろに続き、王都の市街地の方向へと歩いていく、二人の姿はすぐに二人の聖騎士の見守る中、冷たい雨の夜へと消えていった……
ちょうど二人が去ってから半刻ほどが過ぎた頃、一人の少女がもう一人の少女を連れて、再び二人の聖騎士の前に現れた、二人の聖騎士は互いに目を合わせ、それから尋ねた。
「あなた方も外出ですか?」
「も? つまり、私たちより先に、誰かが外出したと言うのですか?」
セシリアは目の前の聖騎士を見て、その口調は平穏で、顔には何の変化も見られなかった、それを聞いて、二人は互いに視線を交わした。
「はい、レオンとジャスミンという、主従の二人組でした。」
「そうですか……」
セシリアはうなじをひとつ、隣のハンナは細めた目でセシリアを見て、笑みを浮かべた。
「どうやら、私たちは彼らより一歩遅れてしまったようですね……」
「問題ありません、今日は主に調査ですから。」
セシリアは通行証を片方の聖騎士に渡しながら、もう一方でハンナを見て言った、その眸はまるで穏やかな湖面のように、何のさざ波も立っていなかった。




