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深淵紀行  作者: 梓UU
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学院編:第二十九話:風のような王者

海面には何事も起こらず、ただ波が静かに船体を打ち、白く泡立つ大きな泡の帯だけが広がっている、あたかも先ほどの出来事すべてが、最初から何もなかったかのようだ。


ティロはゆっくりと、ノエロアの前で庇っていた左手の腕を下ろす、彼女が握っていた麦酒の右手は、跳ねた麦酒で濡れており、酒の匂いを帯びた泡が絶えず甲板に滴り落ちている。


彼女の眼光は重く、黒い影が消えた方向を凝視していた、ノエロアは彼女の袖口を掴み、顔色は少し青ざめている。


「あれは、何ですか?」


しかし誰も彼女に答えない、レオンは甲板の最前方に立ち、両手は依然として欄干に置かれ、その瞳は静かにあの海面を見つめている。


彼の顔には何の表情も浮かんでいない、まるで先ほど起こったことのすべてが、取るに足らない小さな出来事であったかのように。


彼の指先が欄干を軽く二度叩く、ジャスミンはレオンを見て、眼底は困惑で満ちている、しかしレオンは笑い、非常に軽い口調で言った。


「手を出す必要はない、あれの目標は我々ではない。」


「あれは……」


ジャスミンの顔は疑問に満ち、彼女は頭を向けてレオンを見る。


レオンは説明せず、海面を凝視しながら、口調には少しも苛立ちがない。


「見ていればわかる。」


そう言って、ジャスミンもレオンの視線の先に従って見つめる、しかし海面は依然として何の変化もなく、ただ波が何度も船体を洗い流すだけだ、あの黒い影が作り出した泡でさえ、もう消えかけている。


ゴボゴボゴボ……


海面が突然、血水と気泡を絶えず浮かび上がらせる、最初は小さな領域だったが、その後拡大し始め、百メートルの海域にまで及ぶ、空気中の生臭さはさらに濃くなり、あの血の鉄錆の匂いが皆の鼻腔を満たし、不快感を催させる。


ドン! 遠くの海面が破られ、数十メートルの血色の水幕が飛び散る、水幕はすべての船に向かって落ちるが、ローとジャスミンが障壁を使って遮る。


視界が一面に鮮やかな赤に染まる、しばらくして、視界が次第に鮮明になる、皆の目に飛び込んできたのは、体長百メートルの青色の巨竜だった、それはまさに非常に珍しい魔獣——疾風青龍である。


疾風青龍の体の青色の鱗は陽光の下でキラキラと輝き、大量の血水がその青色の鱗に沿って流れ落ちている、その上には鮮やかな血が染み込んでおり、まるで凱旋した将軍のように見える、その縦瞳は誇りに満ちている。


疾風青龍の頭部には一対の恐ろしい金色の長い角が生えており、長い角は後方に一巻き成長した後、さらにその体の方向へと伸びている、二対の長い翼は絶えず羽ばたき、海面に絶えずさざ波を立てている。


後肢の二本の爪は、二匹の二十メートルほどの石鱗魚をしっかりと掴んでいる、細長い尾には二枚の短い翼が生えており、半空で絶えず揺れている、背中の棘は尾の先端まで続いている。


深紅色の縦瞳が甲板上の群衆を一瞥する、口には一匹の鮫をくわえている、鮫の体表は血のように赤い膚質で、その上に黒い縞模様が刻まれている、縞模様は鎖のように見え、絶えずその全身に絡みついている。


背中には尖った淡紅色の背びれが生えており、非常に鋭利に見える、もし不注意で傷つけられれば、治りにくい傷跡が残るだろう、鮫の体長は十メートルほどだが、それでもその目は凶暴さに満ちている。


その姿はまさに、常に船に乗る者や漁師たちがよく知る危険な魔獣、海の捕食者の一つ——黒紋血鮫である、ただし、今のこの一匹は、レオンが先に注意していた黒紋血鮫の幼体である。


疾風青龍は黒紋血鮫の幼体の背びれを一口で噛み切る、淡紅色の背びれはドボンと音を立てて海面に落ち、水しぶきを上げた後、ゆっくりと海底に沈んでいく。


その背中には鋸歯状に歪んだ傷口が現れており、そこから大量の血水が絶えず流れ出ている、その時、疾風青龍が突然頭を上方に振り上げ、口の中の黒紋血鮫の幼体を半空に放り投げる。


黒紋血鮫の幼体は半空で必死にもがき、体を奮って振るが、しかし何の意味もない、巨竜は血のように赤い巨大な口を開け、その一排の白い牙には血水と粘液が絡みつき、周囲に飛び散る。


黒紋血鮫の幼体はその口の中に落ちる、嚥下の動作と共に、疾風青龍の喉が膨らむ、それは頸部の筋肉を力を込めて収縮させ、喉に詰まった黒紋血鮫を下方へと飲み込む、ゴクンという音と共に、相手は完全にその胃の中へと滑り落ちた。


その四枚の翼が激しく羽ばたく、強烈な颶風が王都の靄を絶えず巻き上げ回転させ、陽光の照射と共に、ついに消え去った。


雄大な王都がその真の姿を曝け出す、しかし今、誰もそれに注意を払っていない、すべての人の視線は目前のこの猛獣に集中しており、少しも逸らそうとはしない。


風浪の力は強く、すべての人の髪と衣服を巻き上げる、微かな水滴が顔に当たり、一絲の冷たさを帯びている。


疾風青龍の一対の淡青色の縦瞳が甲板上の群衆を捉える、群衆の中にはその存在を知る者もおり、張り詰めた精神が和らいだ。


ある者はそれに怯え、足取りがよろめきながら数歩後退する、また学生たちの中には、新奇さと震撼に満ちている者もいる。


それは極めて速い速度で高空へと飛び去り、後肢で二匹の石鱗魚をしっかりと掴んでいる、石鱗魚の全身の鱗は石塊のようで、かろうじて魚の輪郭がわかる程度だ、鱗の隙間にはひび割れがびっしりと入っており、それゆえに——石鱗魚と名付けられている。


鋭い爪がその体に突き刺さる、カカカという音と共に、石鱗魚の硬い鱗が容易に貫かれる、傷口からは絶えず赤い血の滴が落ち、痛みに石鱗魚は必死にもがき振るが、しかし全く何の役にも立たず、完全に逃れることはできない。


高空の疾風青龍は頭を捻り、細長い縦瞳で船団を見渡す、その縦瞳は好奇心で満ちており、次から次へと続く船団を、まるで一匹一匹の渺たる蟻のように見ている。


吼! 疾風青龍が一声咆哮し、頭を遠くの王都の方向に向ける、四枚の翼が再び力を込め、その速度は速く、これらの動作の完了は、すべて数呼吸の間に行われた。


それは高空の翻る雲層へと飛び上がり、再び海面に落ち、絶えず加速して疾走する、一陣の鈍い衝撃音を伴いながら、飛行の途中で体を一回転させ、二対の青色の翼が海面をかすめ、無数の水しぶきを上げる。


それは百メートルの高さの城壁を越え、広大な建築群を迂回し、巡回する聖竜騎士たちをかわす、聖竜騎士たちは飛竜を駆って絶えず追跡するが、完全にその速度に追いつけない、最後に疾風青龍は再び翼を震わせて陽光に向かって突進し、太陽の前に立つ。


それは体を海面に向け、傲慢にすべてを見下ろす、あの千年にわたって聳え立つセムール帝国の重要な中心、あの広大な千里の巨大な王都——ヴァノダを。


最終的に、疾風青龍の深紅色の縦瞳が一度船団を見やり、再び四枚の翼を羽ばたかせ、その竜全体が雲層の中に消えていく、ただ群衆の視線だけがそれに従って雲層に移り、群衆はゆっくりと視野を収める。


レオンは振り返り、その口元が微かに上がる、顔を上げてジャスミンに向かって説明する。


「以前、パルティ酒場の本の中で、ある魔獣の紹介を見たんだ、その中にこいつの名前もあった、名前は——疾風青龍、黒紋血鮫や他の魚を捕食するのが好きなんだ。」


「安心していい、奴らの知能は高い、ほとんど人間を襲うことはない、人間を襲うのは割に合わないからな。」


「そうだったんですね!」


ジャスミンはレオンの説明を聞き、軽くうなずく、彼女は最初から疾風青龍の位置を把握しており、数合でこれを斬り殺せる自信も十分にあった。


何しろ、ただの魔力が渾厚な魔法級の魔獣に過ぎず、彼女にとって脅威にはならない、しかし、レオンの同意なしに、ジャスミンが決して独断専行で手を出すことはない。


疾風青龍の突発的な出来事が終わった後、すべての人の注意は再び目前の王都に戻った、今は霧の遮蔽は一切なく、王都全体が完全に彼らの目に晒されている。


広大な千里の灰白色の高壁が大海の上に横たわり、濃霧を追い散らす日光の中にその全貌を現す、眼前に浮かぶこの海洋の間の王都の光景は、多くの冒険者や学生たちが書籍の中で想像した姿と重なる。


城壁の一つの石はすべて晶岩石で積み上げられている、透かし彫りの回廊は壁に沿って内側に収束し、一面の壁には複雑な淡銀色の魔法紋様が刻まれており、環状の城壁に沿って一圈千里にわたって広がっている。


城壁の半分は岩礁の下に隠れ、半分は海面に向かって絶えず延伸している、数十基の岩石彫刻で作られた幅百メートルの石橋が城壁の外の各方面から延びている。


さらに外側に数キロメートル延びた後、その先端は広大な巨大埠頭に接続している、埠頭のすべての停泊区には数万隻もの商船、学院船団などが停泊している、まるで複雑な蜘蛛の巣のようであり、王都はこの大きな網を織り出す捕食者である。


城内は地形に沿って絶えず上昇している、低い民家は海岸線に沿って広がり、赤瓦白壁の家々は嬰児のように、環状の内城の麓に寄り添っている、水路が町を貫き、小型の帆船が内陸の水路をゆっくりと航行する。


視界は一路上方へと上昇し、宮殿群が内圏に聳え立つ、最終的に、王城の最も中心で、あの雲層を突き刺す主城が担ぎ上げられている。


純白の彫刻の塔楼、無数の尖針式の高塔が真っ直ぐに伸びている、遠くから見ると、まるで訓練された聖騎士の隊列のようだ、海風は城の尖塔の間を流れ、風は塔楼の透かし彫りの回廊を通り抜け、悠長で空虚な風鳴を帯びる。


甲板は静寂に包まれている、先ほど疾風青龍に震撼されて失神していた群衆は、今、この千年にわたって聳え立つ帝国に心臓をしっかりと掴まれ、思わず息を呑む、ある者は冷気を吸い込み、ある者は興奮し、無意識に拳を握り締めた。


ノエロアは果てしなく連なる王都の輪郭を見つめ、その口調は感慨に満ちている。


「本当に壮大ですね、何度来てもやっぱり震撼しますね。」


「そうだな、本当にそうだ、最初にここに来た時の俺たちの姿を思い出すと、あの学生たちと同じだったな、懐かしいよ。」


ポントはうなずき、片手を手すりのそばに置き、目は深く、顔にはかすかな笑みが浮かんでいる。


「機会があれば、僕もヴァノダに住みたいな、ここはガレンムー砂漠よりずっと快適だ。」


ティロとポントは目を合わせる、彼女はノエロアを見て思わず笑い声を漏らし、杯の中の麦酒も絶えず揺れる。


貴族の学生たちは体を前に傾け、手すりに掴まって手を上げて広大な街並み、珍奇で独特な建築物、そして本でしか見たことのない彫像を遠望する、これは彼らが初めて、頭の中の幻想を超える場面を自ら体験した瞬間であり、誇らしげな表情を浮かべる学生もいる。


「あれが王都か……ずっと前から来たかったんだ、この夢がついに叶った!」


「わあ! 本当に本に書いてあるよりも壮大だ!」


「何言ってるんだ、俺はずっと前に来たことあるぞ!」


「本当か? お前、もう来たことがあるのか?」


彼ら学生のそばに立つ従者たちや冒険者たちは、耳に響く声を聞いている、商人の中にも手を上げて口を覆い、こっそりと笑う者がいる。


ただレオンだけは両手をそっと手すりに置き、その目は穏やかにヴァノダ全体を一瞥する、下は城壁の配置構成から、上は建築の積み上げと分布に至るまで、すべての光景が彼の脳裏にしっかりと記憶され、決して忘れることはない。


ローの目は海面を見つめて考え込んでいる、その時、ヴェロシアが突然笑い声を漏らす、少女の笑い声は非常に空霊で、まるで山間の小川の流れのように、清らかで心地よい、彼女の美しい瞳には喜びが溢れ、最初の悪い感情も消え去った。


多くの人の視線が彼女に向けられ、ヴェロシアはようやく我に返る、彼女の白い指が顔を覆い、耳と首は恥ずかしさで微かに赤くなる。


しかし少女が自分を覆い、ローの後ろに隠れるのを見て、彼らはやむを得ず視線を戻し、互いに新しい話題を話し始める、ただ一部の者は諦めきれず、時折少女に一目視線を向けた後、また漫然と仲間と雑談しているふりをする。


ベランドとテミスも少し困惑し、彼らは少女のそばに歩み寄る、彼女の恥ずかしそうな表情を見て、ベランドは何かを言おうとするが、口を閉じる、テミスは頭をかきながら尋ねる。


「ヴィロ様? これは……」


ヴェロシアは指先をこっそりと少し開き、もう誰も自分に注目していないのを確認してから、ゆっくりと息を吐く、少女は指を下ろし、耳元の輝く金色の髪をそっと払い、淡紫色の瞳に喜びを浮かべる。


「この疾風青龍がヴァノダに来てから、もう長い時間が経っています、私が王都にいた時から……私はその話を知っていました。」


「この子は時々、船団が通る航路の下に現れて、自分の能力を披露するんです。」


「でも……それだけでは満足できず、次に王都の聖竜騎士に挑発を仕掛けて、自分の存在感を誇示するんです。」


ベランドはヴェロシアの言葉を聞き、口元を上げて笑顔になる、彼は手を上げてテミスの肩を叩き、からかうような口調で言う。


「なるほど、テミスと同じってわけか。」


「おい! 俺はそんな人間じゃないぞ!」


テミスは慌てて説明し、その顔には困った表情が浮かび、両手をベランドの前に広げる。


「ジャスミン、行こう、時間はまだ早いし、先に食事にしよう。」


レオンは手すりに置いていた両腕を引き戻し、ジャスミンを見るその目には温和さが浮かんでいる、現在の状況では、王都まではまだ数時間かかる、甲板にずっと立っていたため、まだ食事を取っていない。


「かしこまりました、レオン様。」


ジャスミンはレオンの後に従う、その歩みは軽やかで、ここ数日の休息で、少女の状態は良く回復している、彼女の歩みに合わせて、銀白色に結われた高いポニーテールが活力に満ちて揺れる。


その時、一道の清らかな鐘の音が響く、この音は空霊で長く、長く海面にこだまする、レオンの足が一瞬止まり、彼は振り返って王都の方向を見る、その碧い瞳は平淡さで満ちている。


ジャスミンの視線は立ち止まったレオンを見つめる、彼女はあの音を既に聞いていたが、特に新奇には感じなかった、少女は少し不解そうだ。


「何かあったのですか? レオン様?」


「いや……何でもない……」


レオンは淡々と笑い、その顔には笑顔が溢れている、ジャスミンを見るその眼底は非常に清らかで、柔らかさに満ちている。


そう言って、レオンは引き続き食堂区へと歩いていく、今回は振り返らず、鐘の音が鳴り響くのに任せ、彼は全く気にしない。

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