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深淵紀行  作者: 梓UU
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学院編:第二十話:テミスの疑問

食堂区で、レオンはポントと静かなひとときを楽しんでいた、耳に流れる軽快な音楽は人をリラックスさせる、ポントはオレンジのような小さな果実を手に取り、口に放り込む、最初はほのかに甘く、その後苦みが広がり、彼は思わず顔をしかめた。


「ケケッ……こ、これは何だ……甘いと思って取ってきたんだが……」


彼はナプキンを口に当て、何度も咳き込んでから、ようやく途切れ途切れに言った。


「それは柠橘果(レモンオレンジフルーツ)ですよ、火気を鎮める果物です、多くの人は好みませんが、慣れるととても美味しいんです。」


レオンは笑い、柠橘果を一つ手に取って口に入れ、何の変化もなく噛み砕く、ポントは口元を引きつらせ、苦笑いを浮かべてレオンを見た。


「本当に美味いのか?」


「もちろん。」


レオンはうなずき、口調は変わらない。


二人が話していると、同じカタリ学院の黒い制服を着た少女が、彼らの方へ歩いてくる、手には赤ワインのグラスを持っている、誰かが不注意で彼女にぶつかり、グラスの中の赤ワインがレオンめがけて飛び散った。


刹那、レオンは椅子から消え、再び現れた時には、少し離れた空き地に立っていた、その目には微かに見えるほどの冷淡さが浮かんでいる、バシャッと赤ワインが机の上に飛び散り、さらに跳ね返った酒がポントの胸元にかかった。


少女は慌ててポントの前に駆け寄り、焦りと動揺を含んだ声を上げる、彼女は何度もポントの胸を拭きながら、顔色を青ざめさせていた。


「すみません、すみません! わざとじゃなかったんです!」


少女の声は大きく、周囲の多くの人々の視線を引き寄せる、面白がって見る者、本当に不注意だったのかと疑う者、つまらないと感じて迷わず立ち去る者もいた。


ポントは軽く手を振り、少女を制した、彼の顔には怒りの色は一切ない、彼はナプキンを手に取り、自分の身体を拭きながら、少女に安心して立ち去っていいと合図する、しかし少女は動かず、その場に立ち尽くしていた。


そこへ、白いローブを着た少年が少女の隣に立つ、事情を把握すると、彼は申し訳なさそうな表情を浮かべ、清潔魔法でポントの身体をきれいにし、謝罪の言葉を述べた。


「申し訳ございません、我が家のプーヤ様が、あなたにご迷惑をおかけしました、心よりお詫び申し上げます。」


そう言って、彼は軽く腰を折る、少女も彼に倣って一緒にお辞儀をした、ポントは二人を起こし、笑顔を浮かべて、全く責める気持ちがないことを示した。


「本当に大丈夫です、私は何ともありません、プーヤ様が無事で何よりです。」


再三の確認の後、ようやく二人は立ち去っていった、レオンはポントの前に歩み寄り、淡々とした口調で言った。


「すみません、反射的に……」


「気にするな、俺だって反射的に避けるさ、でも、お前の反応は本当に速いな、魔法段階で言えば、かなり上位のレベルだろ。」


ポントはレオンに再び座るよう促し、新たに温かいミルクとコーヒーを注文する、目の前にはまだ柠橘果が置かれている、彼はレオンを見て、感慨を込めた口調で言った。


「まだまだですよ。」


レオンは笑い、柠橘果を口に入れて噛みながら、自嘲気味な微笑みを浮かべる、その笑みの下に何があるのか、ポントには分からない、ただ、レオンの実力が確かに強いことだけは感じていたが、彼が実際に戦うところを見たことはなかった。


娯楽区、一人の輝く金髪の少女がテーブルに座り、指でページをめくっている、彼女は上品な私服をまとい、薄紫色の瞳で文字を追っていた、その全身は書物の海に没入していた。


ローは端正な執事服を着て、無表情のまま、少女の後ろの少し離れた場所に静かに立っている、ベランドとテミスも私服に着替えていた、何しろ鎧を着ているのはあまりに目立つからだ。


他人から見れば、一人の貴族令嬢が二人の従者と一人の執事を連れているだけに過ぎず、帝国の王女であるとは誰も想像しない、何しろ少女は舞踏会や社交の場にほとんど出席せず、ヴェロシアの顔を知る者は確かに多くないからだ。


テミスはベランドの隣に座り、そっと彼の耳に近づく、声は非常に小さく、ローに聞かれるのを恐れていた、もしローがファムヤに手紙を書いて報告すれば、自分はただでは済まないからだ。


「ベランド、王女殿下とちょっと話してみないか? 殿下は寛大だから、外を見に行かせてくれるだろ?」


「朝から乗船して、もう丸一晩座りっぱなしだ、退屈で死にそうだ!」


ローの視線がテミスを射抜く、テミスはすぐに姿勢を正し、気まずそうに天井を見上げ、次に地面を見つめ、忙しいふりをする。


「ローおじ様、ソファにお座りください、立っている必要はありません、それに……テミスとベランドはもう一晩中座っていました、外で少し息抜きさせてあげてください。」


ヴェロシアは手にしていた本を置き、目に温かな優しい笑みを浮かべる、ローは首を振る、ヴェロシアはゆっくりと立ち上がり、やや荘厳な口調で言った。


「ローおじ様、私が王女としてこの言葉を申し上げているのです。」


ローは少女の心を理解し、胸が温かくなるのを感じた、少女が単に、自分が立っているのは疲れるだろうと思っているだけだと分かっていた、彼自身は全く疲れを感じていないのだが、そしてあの二人の小僧については、心の中で仕方なさそうにため息をつき、少女を見て厳しい口調で言った。


「承知しました。」


彼はテミスとベランドに手を振り、ゆっくりとソファに腰を下ろす、彼が反応する間もなく、ヴェロシアは茶を一杯持ってきて、笑顔を浮かべた。


「お疲れさまです。」


そう言って、ヴェロシアは再びテーブルに座り、本を手に取って読み始める、そしてテミスとベランドは、とっくに姿を消していた……


展望区、テミスは船の手すりに寄りかかり、ベランドを見て感慨深げに言う。


「やっぱりヴェロシア殿下は俺たちを大事に思ってくれているな……あの瞬間、俺は殿下の前に跪いて、手の甲にキスをしたい気持ちだったよ。」


「ははは、そんなことをしたら、お前の顔は間違いなく豚になると思うぞ。」


ベランドは軽く笑い、感慨ぶったテミスの様子を見て首を振る、彼もテミスの隣に寄りかかり、果てしなく広がる海面を眺める、時折、大きな魚が一、二匹、水面に飛び跳ね、大きな水しぶきを上げてから、跡形もなく消えていく。


一羽のカモメが二人の前に降り立つ、テミスの前を一目見てから、素早くベランドの前に歩み寄り、羽を数回羽ばたかせると、大きな傘の頂上に飛び乗った。


二人の視線が下方に移る、三人の女性が座って話し込んでおり、雰囲気はとても和やかだ、彼女たちの顔には皆、楽しげな表情が浮かんでいる、テミスは目を細めて彼女たちを見つめた。


一人はカタリ学院の白いローブを着た銀髪の少女、片側の三つ編みのポニーテールがとても愛らしい、彼女は非常に美しく、ヴェロシア王女と比べても優劣をつけがたい、その赤い瞳は優しさと魅力に満ちている。


一人は淡い黄色のロングスカートを着た女性で、麦酒を飲んでいる、その明るい琥珀色の瞳はとても生き生きとしており、小麦色の肌は陽光の下でかすかに輝いている、淡い金色の長い巻き毛は肩の前に無造作に垂らされ、振る舞いは豪快で、異国の女性特有の雰囲気を醸し出している。


一人は比較的小柄な体型で、薄紫色の紗のスカートが清純さと活発さに満ちている、柔らかな濃い紫色の髪は高いポニーテールに束ねられ、淡い緑色の瞳は深く澄んでいる、彼女は両手を机の上に置いて頬を支え、両足を地面から少し浮かせてゆっくりと揺らしており、とてもおとなしそうに見える。


ベランドが咳払いを一つすると、テミスはようやくゆっくりと視線を戻した、その口調はからかうようなものだった。


「どうした? テミス、まさかお前……」


「ケッ、俺がそんな不真面目な人間なわけがないだろう、ただ興味があっただけだ。」


ベランドはかつて、ヴェロシア殿下の他に、テミスが声をかけられない女性がいるのだろうかと考えたことがあった、ふとある出来事を思い出し、彼は思わず笑いをこらえきれず、テミスを見て言った。


「あれはごく普通の警備任務の午後だった、俺は薪火の街に転任してきたばかりで、ここのルールをまだよく知らなかったんだ。」


「訓練場の前を通りかかった時、外に一人の小さな女の子が立っているのが見えた、輝く金髪で、八、九歳くらいだった、つま先立ちで訓練場の中の少年とファムヤの戦いを見ていたんだ。」


「その女の子はとても美しく、血色の目には心配と不安が満ちていた、俺は二度見してしまい、心の中で思わず感嘆した。」


「統領の娘さんは本当に可愛いな、と。」


「だが、その一言が原因で、俺は人生で最も恐ろしい視線を浴びることになった。」


「ファムヤの頭が、ほとんど即座に振り返ったんだ、何の前触れもなく、物音もなく、まるで眠っていた竜が突然侵入者の気配を嗅ぎつけたかのようにな。」


「あの血色の瞳孔が俺を捉えた、彼の視線はとても平静だったが、俺はまるで本物の竜に睨まれたかのように感じ、全身の血液がその瞬間に凍りついた、あまりに恐ろしかった。」


「自分がどうやってその場を離れたのかさえ覚えていない、気がついた時には、統領署の門の外に立っていて、背中の服は冷や汗でびっしょり、足はまだ震えていた、だから……んんんんっ……」


テミスは口元を引きつらせ、慌ててベランドの口を塞ぎ、慌てた口調で言った。


「それが同じなわけあるか! ヴィオラ様はファムヤ様の宝物で、ヴェロシア王女は皇帝陛下の娘様だ、俺はあの時来たばかりで何も知らなかったんだ! 見てはいけない人を見てしまったんだ!」


「今のこの三人の女性は、話しかけやすそうに見える、ちょっと話しに行って何が悪い?」


「好きにしろ、幸運を祈る。」


ベランドは彼の嘘を暴かず、ただ淡々と一言言って、海の方へ向き直る、海風が彼の淡い青色の短い髪を撫でる、彼はテミスが行くことを知っていたし、十中八九、しっぽを巻いて帰ってくるだろうことも知っていた、だが、それは重要ではない、重要なのは、テミスが決して気まずさを感じないということだ。


テミスは軽く衣服と髪型を整える、自分は特別に格好いいわけではないが、薪火の街で言えば二番目に格好いい男だとされている、これは貴族の令嬢や平民の娘たちの間で暗黙の了解だった、一番目はまだ現れていない、彼は心の中で密かに考えた。


「銀髪の少女は本当に綺麗だ、彼女に話しかけられれば最高だな、あの淡い金色の長い巻き毛の女性も魅力的で、悪くない、あの濃い紫色の髪の少女も……俺に合ってるな……ははは。」


彼は身体を動かし、非常に自信満々にジャスミン、ティロ、そしてノエロアの下へ歩いていき、笑みを含んだ口調で言った。


「ケケッ、こんにちは、美しいお嬢さん方、今日はいい天気ですね、ははは……」


通りかかった通行人たちはテミスの言葉を聞いて、思わず足を止めた、一人ひとりの顔には、困惑、羞恥、そして呆然とした表情が浮かんでいる。


テミスの言葉を聞いて、パチッと、ベランドの隣の通行人の耳元で軽い音がした、ベランドは思わず自分の顔を平手で叩いた、それは、自分の服を剥ぎ取られて大通りに放り出されるよりも恥ずかしいことだった……


通行人の一人が、奇妙な表情を浮かべてベランドに尋ねた。


「すみません、彼はあなたのお友達ですか?」


ベランドは依然として顔を覆ったままで、微動だにせず、ただ淡々とした口調で言った。


「いいえ、私は彼の友達ではありません、彼とは知り合いでもありません……」


ジャスミンとティロ、そしてノエロアは、突然目の前に立った青年を見て、困惑の表情を浮かべる、天気が良いとか悪いとか、展望区に立っていれば天気が見えないはずがないのに。


ノエロアが先に口を開いた、その口調は好奇心に満ちており、青年を観察しながら言った。


「こんにちは、どちら様ですか?」


テミスは目の前の小柄な少女を見て、目に一瞬の驚きが走る、心の中で思わず賞賛する、なんて綺麗な声だ、彼は咳払いを一つし、優しい口調で言った。


「私は通りすがりの者です、皆さんがとても美しいので、ぜひお知り合いになりたいと思いまして、ははは……」


「えっと……」


ノエロアは相手の微笑みに少し居心地の悪さを感じる、確かに相手の容姿は良いのだが、行動が軽薄すぎる、どう彼と会話すればいいのか分からず、ジャスミンに助けを求めるように視線を向ける。


テミスは時折、こっそりとジャスミンを盗み見る、彼女は三人の女性の中で、彼が最も気に入った一人だった、彼は手をこすり合わせ、ノエロアの態度に全く動じることなく、ジャスミンに視線を向け、誠実な口調で言った。


「こんにちは、銀髪のお嬢さん、あなたはとても美しい、今日お会いした中で二番目に美しい女性です、ははは!」


ジャスミンは何も言わず、ただ机の上のジュースを見つめ続け、何を考えているのか分からない、彼女の唇は微かに引き結ばれ、こういう人間に対しては、一言も話したいと思わなかった。


ただ一人、ティロだけが、テミスをからかうような口調で、指先でグラスの縁をそっと撫でながら言った。


「ねえ、お兄さん、あんたにちょっと興味が出たよ。」


「本当ですか、美しい奥様! 私もあなたはとても魅力的だと思いますよ、ははは……」


テミスはまだ粘っていた、ベランドは、彼の話を聞き続けられる人間は、ファムヤよりもすごいと思った、ローでさえ敵わないだろう、これは心からの賛辞だった。


「そうね、ただ、私の年齢は、あなたのような十八、九歳の若者よりは上かもしれないわ……」


ティロの睫毛が微かに震え、琥珀色の瞳が細められ、顔には淡い笑みが浮かんでいる。


「大丈夫です! 年上の女性が好きなんです! あなたが年上でも構いません、十歳以上離れていても全然OKです! ははは!」


テミスは頭を掻きながら、興奮した口調で言う、しかし、彼の言葉は、通行人でさえ思わず口元を引きつらせ、無意識に目を覆ってしまう、彼らにはこれ以上見ている勇気がなかった。


「あんたはもう行きな、ここはあんたを歓迎しない、口も利けないし、空気も読めない奴は。」


ティロの顔色は冷たく、手を振って払いのけ、顔をそむける、ただテミスだけは、なぜ一秒前まで自分に笑いかけていた美しい女性が、次の瞬間にはこれほど冷たくなってしまったのか理解できず、困惑と疑問を抱えながらベランドの下へ歩いていく、そしてベランドに不思議そうに尋ねた。


「なあ、どうしてだと思う……」


そして、全ての人々の視線がテミスに追随してベランドに移る、ベランドは何も言わず、テミスの困惑をよそに、背中だけを残して、迷うことなく娯楽区へと向かった。


彼は思った、皆の前で自分の人格を失い続けるくらいなら、最初からヴェロシア殿下のそばにいた方がましだと、たとえ座りっぱなしでも、少なくとも体面は保てる。


一方テミスは、困惑しながら海面を見つめ、長い間、我に返ることができなかった、彼は長い間考え込んだが、やはり理解できなかった。


こうして、テミスの黒歴史に、また新たな重い一ページが加えられた、その場にいた全ての人々も、この光景を一生忘れることはないだろう。

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