↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵紀行  作者: 梓UU
14/54

学院編:第十四話:ジャスミンの時

「わかった。」


レオンは立ち上がり、手を伸ばしてジャスミンから鍵を受け取ると、軽やかに階段へと向かった、その瞳は冷淡さに満ちていたが、何かを思いついたように、足を止め、階段の上で動きを止めた。


瞳の冷淡さと平静は消え去り、再び振り返った時、その口調は温和で、親しみやすさに満ちていた、彼はジャスミンの顔を見つめ、表情に笑みを浮かべた。


「風呂上がりは降りないつもりだ。もしケーキを食べたければ、行ってきていい、お前は……少しリラックスするのにふさわしい。」


「かしこまりました、レオン様。」


レオンの言葉を聞き、ジャスミンは微笑みを浮かべ、素直に頷いた、彼が階段の曲がり角に消えていくのを見送ると、耳元の髪を耳の後ろに撫でつけ、そっと酒場の木の扉を押し開け、通りへと歩み出た。


陽光は燦燦と降り注ぎ、通りの行き交う人々や地面を照らし、やや眩しかった、彼女はつま先立ちで、手を額の前に掲げて方角を確認すると、遠くの甘い香りを放つ菓子店へと向かっていった、少女は軽やかな歌を口ずさむ。


人混みの中に、フードをかぶった小柄な鼠頭の獣人が視界に入った、鼠頭の獣人はゆっくりと手を冒険者のポケットに差し入れ、口元を歪め、細長い鼻を興奮で微かに震わせていた。


ジャスミンはその動作を見て、瞳を微かに細めた、次の瞬間、耳障りな悲鳴とともに、鼠頭の獣人の手に変化が起きた、彼は金貨一枚をつまんだままの姿勢で、右手が氷に凍りついていた、左手で右手首を押さえ、人混みの中を狂ったように跳ね回り、その様子はひどく滑稽だった。


彼に金貨を盗まれそうになった冒険者は眉をひそめ、手のひらを揉みながら、怒りに満ちた口調で言った。


「よし、俺の懐に手を突っ込むとはな、さあ、隅っこで話をつけよう。」


「兄ちゃん、お願いだ、話を聞いてくれ!」


鼠頭の獣人は慌てふためき、逃げ出すことも忘れ、体を折り曲げて必死に弁解した、しかし冒険者はまったく構わず、人々の視線の中、彼の尻尾を一気に掴み、路地の中へと引きずり込んだ。


誰もその光景を見ることはできなかったが、ただ鋭い平手打ちの音と泣き叫ぶ声だけが、路地の奥から響いてきた、通りすがりの人々は大笑いする。


ジャスミンはそっと口元を押さえ、美しい瞳に笑みを浮かべた。彼女は手を上げて指を鳴らした、しばらくして、冒険者が路地から歩き出てきた、彼は首を振り、手には金貨一枚を握りしめ、遠くの人混みへと消えていった。


冒険者が去った後、鼠頭の獣人がようやくゆっくりと顔を出した、両頬は膨れ上がり、髭も何本か折れていた、彼は頭を押さえ、丸く大きな耳は垂れ下がり、前歯も一本折れていた、足を引きずりながら、隅っこへと走り去っていった。


パンの香りとケーキのクリームの匂いが鼻先を漂う、ジャスミンは木の扉を押し開け、鈴の音とともに、多くの視線が彼女の方に向けられた、目の前の少女に対して、彼女たちの目には一瞬の羨望が浮かんだが、すぐに視線を戻した。


店内にはすでに多くの人が座っていた、華やかな服装の貴族の令嬢、普通の服装の平民の娘、そして商人や冒険者の装いの少女たち。


それぞれが自分の前の料理を味わい、雰囲気はとても和やかで、時折少女たちの楽しげな笑い声が聞こえてくる、彼女たちは服装、美食、風景、様々な話に花を咲かせていた、それが少女たちの最も好きなことだった。


ジャスミンはカウンターに来て、木の札に書かれた品書きを見つめた、人差し指を品書きの上で行ったり来たりさせながら、なかなか決められずにいた、数分後、彼女はため息をつき、カウンターの少女に向かって穏やかな表情を浮かべた。


「すみません、フラン菓子を二つ、クリームケーキを二つ、クリームコーヒーを二つください、そのうち一つは持ち帰りでお願いします。」


カウンターの少女はジャスミンを長い間じっと見つめ、一瞬反応が遅れた、その目と髪の毛はあまりにも珍しく、彼女自身も思わずジャスミンと知り合いたくなった、しかし彼女は職業倫理を守り、頷いて微笑んだ。


「かしこまりました、お客様、三番のお席で少々お待ちください。」


ガラス窓越しに、ジャスミンは遠くの景色を見つめた、行き交う人々の大通り、時折地竜に乗って通り過ぎる者、追いかけっこをする子供たちに頭を悩ませる両親、彼女はそこに座り、片手で頬を支え、その目は優しさに満ちていた。


耳に歌声が届く、彼女は視線を、木琴を手にした入ってくる女に向けた3女はいくぶん貧相に見え、服には多くの継ぎ接ぎがあったが、意外にも清潔だった、彼女は歌を口ずさみ、店主も彼女の来訪を追い払うことなく、ただ見つめていた。


「あの変わらぬ面影よ〜」


「あの忘れえぬ眼差しよ〜」


「風が〜私たちの〜額を撫でる〜」


「また〜あなたに会えるだろうか〜」


…………


女の歌声は悠揚として自然で、少しの狂いもなかった、多くの人が感動し、ある少女は銅貨を女のポケットに入れ、ある者は銀貨を一枚差し入れ、さらに一人の貴族の令嬢は拍手をして、金貨を一枚女のポケットに入れた。


女は皆に向かって腰を折ってお辞儀をした、その表情はいくぶん貧相だったが、その後、久しぶりに微笑みを浮かべた、ジャスミンはまだ歌声に浸っていた、しばらくしてようやく我に返ったが、あの女はいつしか去っていた。


「あの曲……名前は何というのだろう?」


「お待たせしました、お客様のデザートが完成しました、こちらは店内でお召し上がりいただく分で、もう一つはお持ち帰り用としてカウンターに用意してあります、どうぞごゆっくりお召し上がりください。」


カウンターの少女は、フラン菓子、クリームケーキ、クリームコーヒーをそっとジャスミンの前に置き、その後、こっそりとジャスミンをもう一度見てから、振り返ってゆっくりと去っていった。


ジャスミンはスプーンを手に取り、クリームケーキの上から小さな一塊をすくい上げ、ゆっくりと口に運んだ、クリームのなめらかさとケーキの柔らかさが絡み合い、ジャスミンは幸せそうに目を閉じ、口中に広がる甘い香りをじっくりと味わい、そっと飲み込んだ。彼女は思わず褒めた。


「本当に美味しい、やっぱり、デザートは心の憂さを癒してくれるわね!」


ジャスミンはこのひとときを楽しんでいた、彼女のまつ毛が微かに震え、その瞳はガラス窓の向こうの陽光を見つめていた。


「ティーロたちの件は……どうなっているのだろう……」


薪火の街聖騎士統領署、ここは街の最も中心に位置する建物で、聖騎士統領が管理し、すべての事務を取り仕切るのは、「紅竜」と呼ばれるファムヤが駐屯していた、高い建物がそびえ立っている。


建物は白岩で造られ、楼体は整然として鋭く、中間層は切り取られた三角形のように見え、大小さまざまな窓とバルコニーがあった、太陽が照りつけると、窓の赤いガラスが血のような影を落とし、硬質な白岩がその影に染まり、まるで皮を剥がれたばかりの竜の骨格のようだった。


他の王都に近い街とは異なり、数百年の時の浸食を経ても、ここの統領署は何の変化も受けておらず、ずっとこの薪火の街の安寧を守り続けていた。


森厳で殺気に満ちた赤い大扉の前には、二本の赤い竜の形をした柱が立っていた、屋上には血のように赤い旗が風に揺れており、そこには黒い竜の頭の横顔の印が刻まれ、殺意を宿した竜の瞳は残虐で凶暴な光を放っていた。


数十人の聖騎士たちは、竜の頭の赤い盾を手にし、腰には長剣を下げていた、その表情は冷淡で、全身の銀白色の鎧の縁には赤い紋様が施されていた。


彼らの両肩には、表情の荒々しい二つの竜の頭があり、胸には黒竜の紋様が刻印されていた、一身の血色の長袍が風に舞う中、彼らは竜の柱のそばの白い階段に、微動だにせず彫像のように立っていた。


統領署三階の内部の部屋では、一人の中年の男が上品な貴族の服装を身にまとい、情報資料を床に叩きつけていた、血のように赤い瞳で、目の前の十九歳の聖騎士隊長を睨みつけ、その眉間には皺が寄り、まるで今にも噴火しそうな火山のようだった、その迫力に、聖騎士隊長は震え上がっていた。


「ベランド、お前は龍鰐の群れを調査してきて、これだけの無意味な資料を持ってきたのか? 毎日何をしているんだ?」


ベランドは微かに額を上げ、男の目を見て、すぐにまたうつむき、片膝をついて地面に跪いた、声は少し震えていた、男の圧迫感が強すぎて、彼は心の底から恐れていた。


「ファムヤ様、海の面積が広すぎます、私とテミスは調査可能なすべての手がかりを集めましたが、龍鰐の群れの行動は狡猾で、なかなか本当の位置を特定できません。」


ファムヤはベランドの言葉を聞き、怒りが瞬間的に爆発した、平手で贅沢な木の机を叩いた、力を入れていなかったにもかかわらず、机にはひび割れが走り、今にも崩れ落ちそうだった。


「ならば、引き続き探せ! 民の安危すら解決できないなら、我々統領署に存在する意味などない!」


「見つけられなければ、お前とテミスを海に放り込んで、龍鰐の餌にしてやるぞ!」


「はい……すぐに引き続き調査にあたり、できるだけ早く新しい結果をお持ちします。」


ベランドは慌てた口調で、一切の不平や不服従もなく、立ち上がるとすぐに部屋を去り、そっと扉を閉めた、しかし、振り返った瞬間、彼は一瞬固まった、一人の青い長裙を着た少女が、すでに彼の背後に立っていた、彼女はベランドを見て、疑問を帯びた表情を浮かべた。


「ベランドお兄ちゃん……父様は……また……あなたたちを叱ったの……」


少女の血のように赤い瞳には思いやりが満ちていた、ベランドは手を上げて少女の頭頂を撫でた、その輝く金髪はとても滑らかで柔らかかった。


「ああ……君の父親が、俺とテミスを海に放り込んで龍鰐の餌にするって言ってたよ……」


少女の顔には微かな赤みが差し、輝く金髪の下の耳がほんのり赤くなっていた、彼女は目の前の、背筋の伸びたハンサムな青年を見つめた、その淡い青色の短髪が光を反射し、彼女の表情にはわずかに見分けがたい慌てた様子が浮かんでいた。


「だ……大丈夫、後で私が行って、あなたたちのために正義を取り戻してあげるから……」


ベランドが反応する間もなく、彼女は彼の視線から逃れるように、他の方向へと急ぎ足で去っていった、彼は仕方なさそうに軽く笑って首を振った。一方、少女はある曲がり角に寄りかかり、心臓の鼓動が速くなっているのを感じていたが、なぜそうなるのかは分からなかった。


ベランドは階段を下りた、一歩ごとに重く感じられた、統領署を離れ、一本の木陰に向かうまで、木々は茂り、葉が風にサラサラと音を立てていた、そこには彼と同じ鎧を着た青年が座っていた。


深緑の短髪はさわやかで、薄緑の目は遠くを行き交う娘たちを見つめ、顔には笑みが浮かんでいた、通りかかる娘たちは彼を見ると、恥ずかしそうな表情を浮かべ、足早に通り過ぎ、時折振り返ってテミスを一目見てから去っていった。


「テミス……お前、真面目にやれないのか?」


ベランドはため息をつき、その口調には諦めが混じっていた。


「ははは、これが真面目ってやつだよ、娘たちこそ、この世で最も貴重な宝物だ、でも、お前の様子を見ると、また統~領~の~父~親~に叱られたんだろ。」


テミスはベランドを見て、隣の草地を叩き、座るように促した、ベランドも迷わず、彼のそばに歩み寄り、ゆっくりと腰を下ろした。


「冗談はやめてくれよ、ははは、でも、ファムヤ様は確かに……俺たちを海に放り込んで龍鰐の餌にするって言ってたぞ。」


ベランドの言葉を聞いて、テミスは座っていた体を地面から跳ね上げた、彼の顔は思わず引きつり、その口調は信じられないという様子だったが、すぐに落ち着いた。


「龍鰐の餌! こ……これはあまりにも荒唐無稽だ、でも、あの方の性格には合ってるな……ずいぶん前に、俺たちを薪火の街の城壁に吊るして、干からびさせてやるって言ってたっけな……」


ベランドは立ち上がり、テミスの肩を叩き、からかうような表情を浮かべた。


「ははは、どうした、今回は本当に怖くなったのか? それならさっさと実家に帰って、伯爵位を継いで、おとなしく領地を管理したらどうだ?」


彼の口調は慌てたものになり、あのふざけた様子も収まった。


「それはダメだ、せっかく聖騎士の副隊長の地位を手に入れたんだ、実家からは、もう勘当すると言われているが、俺は勘当されても構わないと思ってる……」


「どうせ俺にとって、伯爵の称号なんて何がすごいんだ? この世界で誰もが魔力を磨くスタートラインが同じなら、称号なんて何の役に立つ?」


「それもそうだな、とにかく、調査を急ごう、さもないと、本当に龍鰐の餌になってしまう。」


ベランドは頷き、遠くの埠頭へと向かった、テミスも彼の後を追い、片手をベランドの肩に乗せて、顔に笑みを浮かべた。


「ははは、行こう行こう、夜はお前を酒に誘うよ。ただし、何もなければの話だが……」


統領署の大扉の前で、一台の白い馬車がゆっくりと停まった、聖騎士たちの注意を引き、彼らは来訪者の身分を注視した。


御者台から中年の男が馬車を降りた、彼の体つきは均整が取れており、身にまとう気迫は、彼らのファムヤ統領にも引けを取らなかった。


彼の黒い短髪は陽光の下で微かな光を放ち、眉骨は突出し、目には冷淡さが満ちていた、身に着けた上品な王都の服装、白い手袋をはめた手を上げて、そっと馬車の扉を開け、その口調は敬意に満ちていた。


「ヴィロシア様、統領署に到着されました。」


十五歳の少女が馬車からゆっくりと身を乗り出した、輝く金髪が微風に吹かれて舞い上がる、その貴気と端然とした品格に満ちた薄紫色の瞳には、一抹の疲れが浮かんでいた。


「分かりました、お疲れさまでした、ロウおじさま。」


彼女は両手でそっと馬車を降り、まぶたを上げて統領署全体を見渡した、ロウは馬車を脇の区域に停め、少女のそばに立った、彼は片手を背中に当て、すべての聖騎士たちを見渡した。


一歩、また一歩と、ヴィロシアは白い階段を上っていく、ロウがその後ろに続く、聖騎士たちは互いに目を合わせたが、誰も軽々しく行動することはできなかった。


彼らはもちろん知っていた、これはセムールの王女殿下であり、王都の皇帝の娘であることを、しかし、少女の背後に漂うあの気迫はあまりにも強烈で、彼らを畏怖させた。


少女が彼らの前に立ち、彼らの様子を見て、ヴィロシアは振り返ってロウを見つめ、その口調は優しかった。


「ロウおじさま、その必要はありません、私はファムヤおじさまに会いに来たのです、味方を脅かすためではありません。」


ヴィロシアの言葉を聞き、ロウは身にまとっていた法則級の魔力を収め、静かに彼女のそばに立ち、その口調は厳しかった。


「はい、承知いたしました。」


聖騎士たちはようやく安堵の息をつき、少女を見て慌てて腰を折った、九死に一生を得たと安堵する者、顔色を青ざめている者、そして敬意に満ちた表情を浮かべる者もいた。


「王女殿下、ありがとうございます、統領は三階におられます、いつでもお入りいただけます。」


扉が開かれ、ヴィロシアはロウを連れて中へと入っていった、すべては再び最初の状態に戻ったが、彼らの額からは絶えず汗が流れ落ちていた。


統領署三階の部屋の中で、ファムヤはあの魔力の気配を感じ取り、厳しい顔に久しぶりの笑みが浮かんだ。


「彼女が、ついに戻ったか。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。