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第4話 故郷の灯火と小さき大食漢(前編)

 商人から受け取った莫大な報酬を懐に、カイが真っ先に向かったのは、自分の生まれ育った「ハルカ村」だった。

 見晴らしの良い高台に位置するその開拓村は、激しい風の通り道だ。

 かつて村に恐ろしい流行病が広がった際、カイがその脚力を限界まで駆使して、険しい山を越え特効薬を運び込み、村を救ったことがある。

 それ以来の、久々の帰郷だった。

 野生動物のように発達した太ももを軽快に躍動させ、見慣れたあぜ道を駆け抜ける。

「ただいま、ニナ」

 古びた我が家の扉を開けると、中からエプロン姿の少女が鋭い目つきで飛び出してきた。

 カイのたった一人の家族であり、歳の離れた妹のニナだ。

「ちょっとお兄ちゃん! 急にいなくなったと思ったら、こんなに泥だらけになって! また靴底をそんなにボロボロにしてからに!」

「悪かったよ、ちょっと急な仕事が入ってさ。……ほら、これ」

 腰に手を当てて怒るしっかり者の妹に、カイは苦笑いしながら、ずっしりと重い革財布をテーブルの上にぽんと置いた。中から覗く金貨の山に、ニナは「ええっ!?」と目を丸くする。

「これ、前回の報酬。これだけあれば、しばらくは生活に困らないだろ。無理せず使ってくれよ」

「こんな大金……。お兄ちゃん、まさか怪しい仕事とかしてないよね? 私はもう、村の皆に頼らなくても一人でちゃんと生活できてるんだから、危ない稼ぎ方は絶対にダメだからね!」

 幼い頃に両親を亡くした二人は、村の大人たちに助けられながら、支え合って生きてきた。

 今ではニナも家事を完璧にこなし、一人で自立して暮らせるほど頼もしく育っている。

 だからこそ、兄が無理をして命を危険に晒すことを、誰よりも嫌っていた。

「分かってるって。プロの運び屋として、真っ当に依頼をこなして稼いだ金だよ」

 そう言って笑ったカイだったが、ふとニナの顔を覗き込み、その小さな肩にそっと手を置いた。

「それよりニナ、体調は悪くないか? ……流行病のとき、お前が一番ひどい熱を出してたからさ。少しでもおかしなところがあったら、隠さずすぐに言うんだぞ」

 あの流行病の夜、生死の境を彷徨う妹の姿を見たからこそ、カイはすべてを懸けて走ったのだ。

 その時の恐怖は、今でも忘れていない。

 ニナは一瞬、驚いたように瞬きをしたが、すぐに照れくさそうにカイの手をはねのけた。

「もう、いつの話をしてるのよ! 私は見ての通り、ピンピンしてるわ。お兄ちゃんが命がけで薬を運んでくれたおかげで、後遺症だって一つもないんだから。心配しすぎ!」

「……ならいいんだけどさ。お前が倒れたら、俺が走る意味がないからな」

「はいはい、分かったから! ……それより、背中でさっきからゴソゴソ動いてるその鞄、何が入ってるの?」

 ニナに促され、カイが背中のバックパックの紐を緩めると、中から「きゅぃ?」と、白銀の毛並みの小さな子猿がひょこっと顔を出した。前回の激戦で力を使い果たし、小さく縮んでしまった森の守護獣、ハヌだ。

「わあ……! 何この子、腕が4本もある!?」

 ニナは驚きつつも、すぐにしゃがみ込んでハヌと目線を合わせた。

 ハヌはニナのキリッとした、しかし根底にある優しい気配を察したのか、4本の小さな腕を器用に伸ばし、ニナの手をぎゅっと包み込むように握りしめた。

「きゅーぅぃ」

「ふふ、初めまして。私はニナ。お兄ちゃんの妹だよ」

 ニナが頭を優しく撫でてやると、ハヌは嬉しそうに目を細めて喉を鳴らす。

 「前の仕事で、森で拾ったんだ。名前はハヌ」

 ニナはすぐに立ち上がると、「お兄ちゃんもハヌちゃんも、お腹空いてるでしょ。今から、うちの野菜とお肉でスープとふかし芋作るから、たくさん食べなさい!」と腕をまくった。

 そしてテーブルに料理が並んだ瞬間、前代未聞の「爆食い」が幕を開けた。

「うにゃうにゃ、もぐもぐもぐ!」

「わわっ!? ちょっと、信じられない勢いなんだけど!」

 ハヌは4本の腕をメトロノームのようにせわしなく動かし、うちの畑で採れた大きなふかし芋を両手で掴んでは口に放り込み、残りの2本の手でスープの器を抱えてダイナミックに飲み干していく。その姿はまさに小さな暴風雨だった。

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