第26話 策謀の影と分断の戦場(中編)
長身の男による襲撃から、数日が経過した。
調査隊の行軍は、表面上は極めて順調に進んでいた。
ヴィルシュタットへと近づくにつれ、街道は徐々に標高を上げ、冷涼な風が吹き抜ける高地へと姿を変えていた 。
しかし、隊の内部には、疲労が蓄積していた。
あの日、一人の騎士を重傷へと追い込んだ「怪力の影」が、いつまた現れるか分からないという緊張が、隊員たちの精神を内側から削り取っていた。
特に護衛の騎士たちは、夜の野営でも交代で不眠不休に近い警戒を続けていた。
だが、皮肉にも何も起きない穏やかな旅路が続くことで、彼らの間には安全だと思い込みたい心理と、不意の襲撃への恐怖が入り混じり、深刻な疲労の色が広がり始めていた。
カイは、馬車の横を一定の距離を保ちながら、淡々と歩き続けていた。
運び屋としての習性が彼に周囲の地形を克明に記録させていた。
(……後ろに『何か』がいるな。禁忌の森でハヌに追われた時と同じ、あのまとわりつくような感覚だ)
プロの運び屋としての直感が、大気の中に混じる不穏な気配を敏感に察知していた。
ふと馬車の窓を見ると、エリーナが資料を広げながら、凛とした表情で前を見据えていた。
彼女は教会の教えを否定する覚悟を決め、自らの意志で真実を掴み取ろうとしていた 。
「敵襲!」
調査隊の警告が響いたのとほぼ同時だった。
街道を塞ぐようにして、無数の倒木が投げ込まれ、馬車の進路が強制的に遮断された。
周囲の林の中から、喚声を上げて飛び出してくる数十人の盗賊たち。
「来たか……!」
騎士たちが疲れた体に鞭打ち、必死に抜剣して馬車を囲む。
その混乱の渦中に、音もなく圧倒的な威圧感を放つ影が現れた。
巨大な鉄槌を担いだ、あの長身の男だった。




