第26話 策謀の影と分断の戦場(前編)
深い森の奥、木々に隠されるようにして存在する盗賊団のアジト。
略奪品が乱雑に積み上げられた洞窟の奥で、盗賊団のボスは、自分を「絶対的な王」だという不遜な態度で、戻ってきた長身の男を鋭い目で見据えていた。
「……で、どうだった。あの旅団は」
ボスが酒瓶を傾けながら問うと、長身の男は感情の読み取れない無機質な声で答えた。
男が先刻、単身で調査隊に仕掛けたのは、単なる略奪のためではなく、敵の力量を正確に測るための「威力偵察」であった。
「戦力は、長剣使いの男が中心だ。腕は立つが、俺が抑えれば問題ない。他の騎士どもは練度は高いが、数で押せばどうにでもなるだろう」
男の報告に、ボスは満足げに口角を上げた。だが、男は続けて、少しだけ声を落として告げた。
「だが……一人、判断に迷う男がいた。武器も持たず、装備も戦闘用ではない。ただの荷運び人のように見えたが、俺の奇襲に誰よりも早く反応した。騎士を抱えながら、俺の一撃を跳躍してかわしてみせた身体能力は、脅威になる可能性がある」
男が指しているのはカイのことだった。長身の男は、神の祝福など知らぬ身でありながら、純粋な武人としての本能でカイの異質さを嗅ぎ取っていた。
カイは戦闘に関わるような役割ではないと推測されたが、あの奇襲に気づき騎士とともに跳躍する能力は無視できなかった。
「ほう。お前がそこまで言うか」
ボスが不気味に笑う。長身の男は、あくまでボスの忠実な部下として、次の襲撃における策を進言した。
「分断して叩くのが最善だ。俺が長剣使いを引き付け、子分どもに馬車を襲わせる。その間、ボスにはその『荷運び人の男』を排除してもらいたい。」
「……あ? なぜ俺がそんな、ただの荷運び人を相手に出なきゃならねえんだ」
ボスの眉間に不快そうな皺が寄る。しかし、長身の男はボスの自尊心をくすぐるように言葉を重ねた。
「もし、その男が戦えてもボスならすぐに倒せる。荷運び人を片付けてから馬車へ行けば、財宝を真っ先にその手に収めることができる。俺では、あの長剣使いを仕留めるのに少し時間がかかるかもしれんからな」
その言葉に、ボスの虚栄心が見事に満たされた。
「ガッハハハ! そうだな、お前が手間取っている間に、俺が全部片付けてやるよ。いいぜ、その作戦で行こう」
ボスは立ち上がり、周囲にたむろしていた手下たちに向けて、野太い声で号令を下した。
アジトに盗賊たちの下卑た歓声が響き渡る。長身の男は、無言のまま巨大な鉄槌を担ぎ直し、闇の奥へと視線を向けた。
その瞳は、獲物を確実に追い詰める獣のように、冷たく光っていた。




