第25話 人の理を超えた鉄槌(中編)
「全員、敵襲だッ!」
副隊長ロバートの鋭い号令が響き渡り、周囲の騎士たちが次々と抜剣して長身の男を包囲した。
「賊め、大人しく投降しろ!」
数人の騎士が、訓練で培った連携を以て、男の足元と胴体を狙い、鋭い突きを放つ。
だが、その長身の男は避けるどころか、鉄槌を軽々と片手で旋回させ、騎士たちの剣を一気になぎ払った。
キンッ! カガッ! と、火花を散らす不快な金属音が響いた直後、男は踏み込み一閃、正面にいた騎士へと鉄槌を叩きつけた。
「……くっ、ああぁッ!!」
ベテランの騎士が、咄嗟に盾と長剣を交差させて直撃を食い止めようとした。
だが、それはあまりにも無謀な試みだった。
男の腕から放たれたのは純粋な質量の暴威だ。
鉄槌が触れた瞬間、騎士の盾は紙屑のようにへしゃげ、重ねた長剣も無残にへし折れた。
衝撃は殺しきれず、騎士の身体はボールのように後方へと吹き飛ばされた。
ドシャッ、と凄まじい音を立てて街道沿いの巨木に激突した騎士は、そのまま力なく崩れ落ちた。
「しっかりしろ!医療班こっちだ!」
駆け寄ったロバートが、その惨状に息を呑む。
「……生きてはいるが、重症だ」
その凄まじい破壊力に、包囲していた他の騎士たちが一歩、また一歩と後退りする。
カイは、その光景を静かに見つめていた。
いや、動くことができなかった。
カイの内面にはかつてないほどの困惑が渦巻いていた。
(……あの男はハヌや魔獣とは違う)
これまでの数度の死闘でも、身体が硬直することはなかった。
だが今は、感情の見えない男の姿を見て、背筋が凍る様な感覚を覚え、動くことすらままならなかった。
ただ、そこに在るだけで周囲を威圧し、死をもたらす存在。
カイは、その圧に押され、金縛りにあったかのように身動きが取れなくなっていた。
一歩でも動けば、その瞬間に巨大な鉄槌に叩き潰される。
これまでどんな悪路も走り抜けてきたカイの脚が、この時ばかりは大地に縫い付けられたように動かなかった。
男は静かに鉄槌を構え直し、無言のままカイへと歩み寄ってくる。
夕闇の静寂が、街道を支配しようとしていた。




