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3話 共闘の躍動(前編)

 ――ズズズズズズ……ッ!!!

 隣国の街へと続く街道を外れ、カイが猛スピードで引き返した『禁忌の森』の奥深く。

 そこは、先ほどまでの静寂が嘘のように、おぞましい紫黒の瘴気に包まれていた。

 森の深部にある、古の封印が刻まれていたはずの祭壇は見る影もなく破壊され、その中央から「それ」は這い出ていた。

 蠢くのは、無数の頭を持つ巨大な大蛇の魔獣。

 一頭が馬車ほどもある鎌首をもたげ、巨木を腐敗させる漆黒の毒霧を撒き散らしている。

 草木は枯れ果て、大地は汚泥のようにドロドロと朽ちていく。

 それは生命を踏みにじる死の権化であり、いずれ世界そのものを侵食し、冥府へ導く、絶対的な『悪』の顕現だった。

 ウガァァァァッ!!!

 その闇が群れる顎に向かって、果敢に躍り出る白銀の勇士。

 四臂の巨猿。

 この森の守護者だ。

 巨猿は太い腕で大蛇の首を掴み、力任せに地面へと叩きつけていく。

 しかし、魔獣の再生能力は異常だった。

 叩き潰した先から肉が蠢き、新たな頭部が次々と生えてくる。

 数に圧され、毒霧を吸い込んだ巨猿の動きが徐々に鈍っていく。

 背後の巨木に叩きつけられ、逃げ場を失った守護獣の前に、大きく開かれた顎が、死の牙が、その首元へと肉薄する。

 巨猿が、覚悟を決めたように目を閉じた――その刹那。

 バチィィィンッ!!!

空間そのものが爆ぜたかのような、凄まじい衝撃音が森に木霊した。

 直後、大蛇の頭部へ、一陣の風が突き刺さる。

 神力を宿したカイの右膝蹴りだ。

 強固な鱗を木っ端微塵に叩き割る凄絶な一撃に、魔獣の巨頭が悲鳴を上げて地面へと叩きつけられた。

 「はぁぁ……!」

 着地し、激しい風圧の残響の中でカイは息を吐く。

 荷物のないカイの速度と跳躍力は、先ほど巨猿と対峙した時の比ではなかった。

 なぜ、自分はここへ戻ってきたのか。

 ただ身体が、本能が、そうすべきだと告げていただけだった。

 だが、実際にこの眼で『それ』を見て、カイは戻ってきた本当の理由を確信した。

 (――こいつは、ヤバすぎる。生かしておいちゃいけない化け物だ)

 周囲の木々を腐らせ、生きとし生けるものを蹂躙する魔獣の禍々しさは、本能に告げていた。

 この悪をここで止めなければ、自分が明日走るはずの道も、荷物を届けるはずの街も、すべてが紫黒の闇に飲み込まれて消える。

 「……何驚いてんだよ。俺だって、なんで足がこっちに向いたのか分かってないよ」

 カイは泥まみれの顔を歪めて苦笑し、巨木に背を預けて驚愕している巨猿に向けて、ぽんと右膝を叩いてみせた。

 「だけど、あいつを見てハッキリした。手伝うよ。」

 言葉は通じない。

 だが、その言葉に込められた確かな闘志と、カイの膝から『カリウス』の神聖な躍動(ビート)を感じ取った瞬間、巨猿の目から警戒の色が消え、守護者としての光が灯った。

 巨猿の4本の腕が、ぐっと強く地面を握り締める。

 真の邪悪を打倒するための、言葉を超えた魂の共鳴。

 一人と一匹の間に、完璧な「共闘の躍動(ビート)」が刻まれた。

 「よし――行くぞ、大猿!」

 ウガァァァッ!!!

 カイの呼びかけに呼応するように巨猿が咆哮し、二つの影が同時に地を蹴った。

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