第24話 学術都市への道と潜む怪力(後編)
賊との小競り合いから一日。
調査隊の旅は、再び何事もなかったかのように平和に進んでいた。
カイは馬車の横を一定の距離を保ちながら歩き続けていた。
彼の意識は、常に周囲の地形と、運び屋としての「道の確保」に向けられている。
学術都市へは未だ行ったことがなく、今後の運搬ルート開拓のため、道を暗記するように地形等を確認しつつ学術都市について考えていた。
「カイ、どうかしたの?」
馬車の窓からエリーナが声をかけてくる。
「いや、道を覚えようとしていただけだ。あとは、学術都市に着いてからのことを少し考えていた。ゼーベルク教授って人は、相当偏屈なんだろ?」
「ええ、もう! 私が学生だった頃も、論文の不備を見つけては一晩中説教するような人だったわ。でも、あそこにある資料と教授の知恵があれば、『澱』についてもっと分かるかもしれない。もしかしたら浄化する方法だって見つかるかも。それに教授は思想に囚われない考え方の持ち主だから、教会の教えとかは気にせず研究成果を尊重してくれるはず」
エリーナの瞳は、未来への希望で輝いている。
教会の教えという殻を脱ぎ捨て、自らの意志で真実を掴み取ろうと決めた彼女の覚悟は、今や迷いのないものになっていた。
一行は平和な旅路を楽しみながら、学術都市到着に向けて士気を高めていた。
ハヌとパンも、じゃれ合いながら、のどかな夕暮れを楽しんでいる。
だが、彼らが気づかぬ背後。
街道の影、光の届かない森の境界線を、あの長身の男が音もなく、しかし確実に追随していた。
男に言葉はなく、ただ主から命じられた「荷物の奪取」という目的のために、機械のように歩みを止めない。
カイは不意に背後を振り返った。
運び屋として働く以上、盗賊や魔物に襲われる経験は何度かあった。
その都度、膝の力を使って振り切ってきたが、自分が狙われている感覚は身に沁みている。
禁忌の森で、大猿だったハヌに追われた時のプレッシャーに似た不快感をカイは感じ取った。
「……ハヌ。パンを連れて馬車の中に入ってろ」
学術都市ヴィルシュタットまでは、まだ数週間の距離。
だが、彼らが知の殿堂に辿り着く前に、「怪力の影」が、一筋の不吉な予感となって彼らの前に立ちはだかろうとしていた。




