第24話 学術都市への道と潜む怪力(中編)
二つ目の村を通過し、街道が険しい岩場と灌木に囲まれた難所に差し掛かった頃だった。
突如として、先頭の斥候から鋭い警告の合図が響き渡った。
「街道に障害物! 左右から伏兵!」
その叫び声と同時に、茂みから数十名の盗賊たちが躍り出てきた。
彼らは汚れた革鎧を纏い、錆びた武器を振り回しながら、下品な喚声を上げて馬車を包囲しようとする。
「へっへっへ、随分と上等なカモじゃねえか。荷物も女も、全部置いていきな!」
盗賊のリーダー格と思われる男が声を張り上げるが、ゲイルは冷めた目で彼らを見下ろした。
「……身の程をわきまえぬ俗物が」
ゲイルはエリーナの乗る馬車の前に立ちはだかると、迷いなく長剣を抜き放った。
彼は女神イリテスの祝福である「黒炎」を解放するまでもなかった。
あの凄惨な魔獣「澱」や、自律進化した古代ゴーレムとの死闘を潜り抜けた彼の剣技は、もはや凡庸な盗賊が太刀打ちできる領域を超えていたのだ。
「 隊形維持! 荷物を守れ!」
ゲイルの鋭い号令とともに、騎士たちが手際よく馬車の周囲を固める。
ゲイル自身は地を蹴り、一瞬で最前線の賊の懐へと潜り込んだ。
「がっ……あ……っ!?」
賊が武器を振り上げるよりも早く、ゲイルの長剣が正確無比に走り、武器を叩き折り、あるいは急所を外しながらも確実に戦闘不能へと追い込んでいく。
騎士たちの練度も高く、誰一人として賊の接近を許さない。
カイは最後尾の馬車のそばで、ハヌとパンとともに馬車を守りながら静かに状況を静観していた。
実力差は明白だった。
戦闘はわずか数分で決し、盗賊団は戦意を喪失して蜘蛛の子を散らすように森の奥へと逃げ去っていった。
「ふん……。酒場で噂の盗賊か?だとしたら拍子抜けだな」
ゲイルが長剣を鞘に納めると、隊員たちからは歓声が上がった。
しかし、カイは逃げ去る賊たちの足音を耳にしながら、奇妙な感覚を覚えていた。
噂にあった「怪力の持ち主」は、今の集団の中にはいなかったからだ。
深い森の奥にある盗賊団のアジト。
逃げ帰った下っ端が、ボスの前で震えながら報告していた。
「お、ボス……大変です! 街道を通りかかった旅団を襲ったんですが……護衛の騎士が異常に強いんです! ですが、あれは間違いありません。大型馬車三台に異常なまでに強い騎士の護衛、……とてつもなく高価な物かとんでもないお宝を運んでるに違いねえです!」
「……ほう。面白い」
ボスの目が強欲に光る。彼は傍らに音もなく立つ、一人の異様な男に視線を送った。
その男は、異常なまでに長身だった。
全身を黒いボロ布のようなマントで覆い、顔の半分は深いフードに隠されている。
ボスが目で合図を送ると、その男は一言も発さず、巨大な鉄槌を軽々と担ぎ上げ、無言で頷いた。




