第24話 学術都市への道と潜む怪力(前編)
「交易都市ゼファム」の活気ある喧騒が遠ざかり、街道は静かな朝霧に包まれていた。
調査隊は、大型馬車三台と中型馬車二台という重厚な車列を組み、目的地である学術都市「ヴィルシュタット」を目指して北へと舵を切った。
ヴィルシュタットは、エリーナがかつて学んだ知の殿堂であり、彼女の師であるゼーベルク教授が隠居生活を送る場所でもある。
これまでの過酷な旅で得られた「澱」の核に関する知見や、古代遺跡の膨大なデータを体系化するためには、教授の知恵と都市の設備が不可欠だった。
今回の旅路では、カイの負担はこれまでとは大きく異なっていた。
大人1人では持てないほどの重量の巨大な結晶機材は、今や馬車の荷台に厳重に固定され、衝撃を吸収する緩衝材に包まれている。
そのため、カイが今背負っているのは、自分の着替えや予備の食料といった「普通の荷物」だけだった。
もはや身体の一部と言っていいほど背負っていた荷物から解放されたカイの足取りは、驚くほど軽やかで、肩に乗ったハヌは、エリーナから贈られた赤いストールを風になびかせていた。
時折、ハヌは馬車の横をトコトコ歩くパンの背中に飛び乗り、楽しげな声を上げながら2匹は移り変わる景色を楽しげに眺めていた。
楽しげな旅は続くものの、出発前のゼファムでは不穏な噂も囁かれていた。
「ヴィルシュタットへ向かう街道に、最近タチの悪い盗賊団が居座っているらしい。なんでも、憲兵隊すら手を焼く『人智を超えた怪力の持ち主』が用心棒にいるとか」
その噂話を聞いても、調査隊の面々に動揺はなかった。
彼らはすでに、古代のゴーレムや邪悪な魔獣との死闘を経験し、神からも祝福を受けているカイとゲイルの強さを知っているからだ。
「ただの怪力自慢だろ。我らには女神の祝福を宿したゲイル殿がいる。賊ごとき、敵ではないさ」
騎士や学者たちの間には、確かな自信と楽観的な空気が漂っていた。
ゲイルはその空気には流されず、腰の長剣に触れながら、エリーナの「盾」としての責務を果たすべく、鋭い眼光を前方へと向けていた。
一行は一つ目の村を越え、平和な田園地帯を抜けていった。
車輪が石を弾く規則正しい音が、のどかな旅路の調べとなって響く。




