第22話 深淵の核と感情の女神(後編)
「これが淀みの正体だと言うのであれば、排除しますか?エリーナ様。」
ゲイルが長剣の柄を握りしめ、核を見据えたまま鋭く問いかけた。
カイもまた、膝に力を込め、戦闘への緊張を走らせる。
「待って、ゲイル。不用意に刺激するのは危険よ。この核は――」
エリーナが答えようとしたその時、溢れる瘴気を切り裂くように、黄金の光の粒子が広間に降り注いだ。
光は急速に形を成し、一尊の神々しい女神が姿を現した。
突然の神の降臨に、ゲイル以外の者は驚愕に目を見開いた。
だが、エリーナは突然の出来事に止まりそうになる思考を巡らせ、学者としての冷静さを保ちながら、目の前の神格へと問いかけた。
「……私の推論が正しければ、あなたはゲイルに力を与えた古代の女神とお見受けします。この遺跡は古の神々と対立した神の力が封印されている楔。世界各地に楔があり、そして、その楔の力が弱まっているのではないでしょうか?」
女神は慈愛に満ちた微笑を浮かべ、エリーナを見つめた。
「その結論は正しいわ。時の流れと、深淵に眠る神の目覚めが、封印を蝕んでいる。……しかし、今のあなたたちの力では、目の前にある澱みの核を壊すことはできない。たとえカリウスの膝でも、私の黒炎であってもね」
女神の言葉に、ゲイルが質問を重ねる。
「私に力を授けてくれたこと誠に感謝します。だが、私たちはあなた様の名を知りません。どうか、その御名を教えていただけませんか?」
「私はイリテス。剣と感情を司り、誇りを胸に戦う者を見守る者よ」
女神イリテスは静かに続けた。
「この遺跡が再構築されたことで時間は稼げるけれど、それは決定的な解決にはならない。あなたたちは各地の遺跡を巡り、封印を再び繋ぎ止め、そして私たちと同じように祝福を授かった者たちを探しなさい」
カイは一歩前に出ると、これまで沈黙を貫いてきた神について問いかけた。
「……イリテスと言ったか。俺の膝に力をくれた神の名はカリウスというらしいんだが、何も教えてくれないんだ。カリウスについてあんたは何か知ってるか?」
イリテスはクスクスと、悪戯っぽく微笑んだ。
「カリウスはもともと寡黙で極度の人見知りなの。自分から人に語りかけるような神ではないわ。でも、カイ。そんな彼だからこそ、同じように寡黙なあなたとはとても相性が良かったのでしょうね」
カイは「……人見知りか」と呆れたように肩をすくめた。
女神イリテスは最後に、北方の険しく聳え立つ山々を指し示すような仕草を見せた。
「次は北方の山奥にある遺跡を目指しなさい。そこに、次なる導きがあるわ。……我が愛し子よ旅の無事を祈ります。」
黄金の光が霧散し、女神の気配が消え、地下通路には再び静寂が戻った。
三人の胸には新たな目的地と世界の真実、そして目の前の淀みの核をどうすることを出来ない無力感が刻まれた。




