第21話 双璧の遺跡と魔獣の正体(前編)
「大山羊の遺跡」へと戻った調査隊は、夕闇が迫る中で手際よく拠点を再構築していた。
ここはかつて大山羊が命を懸けて修復した場所であり、今は穏やかで澄んだ空気に満ちている。
カイとゲイルはエリーナや学者の指揮のもと、巨大な結晶機材やゴーレムの木箱ををはじめとする機材を右に左に運んでいた。
「何故私が荷運びをしているのだ?」
額には大粒の汗が浮かべながら、騎士として周辺の警戒をするのではなく、祝福を活かした荷運びに尽力していたゲイルの疑問は誰の耳にも届いてはいなかった。
そんな中、白い仔山羊がトコトコと寄ってきて、甘えるようにゲイルの脚に頭を擦り付けた。
大山羊が光に包まれて姿を変えて以来、この仔はすっかりゲイルを慕っている。
「そういえば、この仔にはまだ名前がなかったわね」
近くで資料を広げていたエリーナが、楽しげに二人を見上げた。
「名付けは、一番懐かれているゲイルがするのがいいんじゃないかしら?」
「俺が、ですか……?」
ゲイルは驚き、真面目な顔で仔山羊を見つめた。
「そうですね……エリーナ様の仰る通り、名がないのは不便だ。では……」
ゲイルが顎に手をやり、真剣に考え込もうとしたその時、エリーナがクスクスと忍び笑いを漏らした。
「あまり凝った名前にしないでね、ゲイル。昔、あなたが実家で飼っていた犬に『深淵の暗黒竜』なんて大層な名前をつけて、お父様に叱られていたのを思い出しちゃったわ」
「エ、エリーナ様! その話は今、関係ありません!」
ゲイルは顔を真っ赤にして狼狽えた。
「それは、まだ私が幼少の頃の、若気の至りと言いますか……!」
その様子を呆れたように見ていたカイが、口を挟んだ。
「あんまり変な名前をつけるなよ。この子が可哀想だろ」
「分かっている! ……『パン』はどうだ?自然とこの名が浮かんだ。……」
「パンか。確かに白くて毛並みもいいけど。まぁ、わかりやすくていいんじゃないかしら?」
エリーナが満足げに頷くと、仔山羊――パンは、気に入ったのか「メェ!」と元気に鳴き、ハヌと共に修復された石碑の周りを駆け回り始めた。
しかし、エリーナの穏やかな表情はそこまでだった。
彼女は手元の「神捨ての遺構」の資料と、道中にカイから聞き取った「禁忌の森での出来事」をまとめたメモに目を落とし、鋭い学者としての眼光を宿した。




