第20話 再来の森と重荷の騎士(前編)
「神捨ての遺構」の広場に、撤収を告げるロバートの号令が響き渡った。
早朝の冷気の中、学者たちはゲイルが鮮やかに両断したゴーレムの残骸を、手際よく木箱へと収めていく。
かつては脅威だった灰色の巨躯も、今や厳重に縄で縛られ、調査資料としての「荷物」に成り下がっていた。
カイは慣れた手つきで、巨大な結晶機材の箱を背負子へと固定していた。
神の祝福を宿す彼の膝は、その凄まじい重量をものともせず、硬い地面を正確に捉えている。
「よし、準備完了」
カイが短く呟くと、作業を終えた一人の学者が、巨大な木箱を指差しながら困り顔でゲイルへと歩み寄った。
「あの、ゲイルさん。実は……折り入ってお願いがありまして。……この箱を担いでいただけないでしょうか?」
学者が示したのは、ゲイル自身が両断したゴーレムの上半身が入った、ひときわ大きな木箱だった。
「……何だと? 俺がこの箱を担ぐというのか?」
ゲイルは思わず眉をひそめ、不快感を隠さずに問い返した。
「ええ。中身はあのゴーレムの上半身なんです。あまりの重さに他の調査員では背負って歩くことすら困難でして……。女神の祝福を受けた今のあなたなら、この重さを難なく運べるはずだと言う話になりまして……」
「ふん、冗談ではない。私はエリーナ様を守る盾だ。このような重荷を背負っていては、有事の際に対応が遅れる。荷運びは別の者がすべきだろう」
ゲイルは毅然として断ったが、学者はさらに食い下がった。
「ですが、これはエリーナ様からの正式なご指示でもあります。『今のゲイルなら、この大切な荷物を、誰よりも安全に運んでくれるはず』と仰っていました」
「エリーナ様が……?」
ゲイルが驚き、出発準備をしていたエリーナへと視線を向けると、こちらに気づいて満面の笑顔で大きく手を振るエリーナの姿があった。
女神のようなその微笑みを向けられ、ゲイルは毒気を抜かれたように大きな溜息をついた。
「……分かった。エリーナ様の意向であれば、拒む理由は他にない。……貸せ、俺が運ぶ」
ゲイルは観念したように背負子を受け取ると、女神から授かった力を発揮し、騎士としての矜持をその重厚な木箱へと預けた。




