第19話 試練の再戦と秘められた力(後編)
『――Capacity expansion……Re-measuring……Synchronization started.』
無機質なシステム音声が広場に響き渡ると同時に、片腕を失ったゴーレムの単眼から、これまでの訓練用とは一線を画す深い蒼の光が溢れ出した 。
欠損した右腕の断面から魔力のスパークが激しく飛び散り、残された左腕がミシミシと音を立てて巨大な槍状へと変形していく。
「……ようやく本気になったか」
ゲイルは低く呟き、長剣を正眼に構え直した。
彼の身体からも、これまで以上に禍々しくも鮮烈な黒い炎が立ち昇る。
ドォォォォォンッ!!
空間が爆ぜた。
ゴーレムの巨躯が、その質量を無視した速さでゲイルへと肉薄する。
巨大な槍が空気を切り裂き、ゲイルの頭上へ突き出された。
ゲイルはそれを黒炎を纏った一閃で迎え撃つ。
ギィィィィィンッッ!!!
鼓膜を突き破るような金属音が轟き、激しい衝撃波が周囲の白砂を吹き飛ばした。
以前のゲイルなら、その一撃だけで吹き飛ばされていたはずだ。
だが、女神の祝福を得た今の肉体は、ゴーレムの攻撃を正面から受け止めていた。
「おおおおおおおッ!!」
ゲイルはゴーレムの槍を跳ね返すと、猛烈な連撃を繰り出した。
一撃ごとに黒い炎が尾を引き、ゴーレムの強固な装甲を焼き焦がしていく。
ゴーレムもまた、能力同調によってゲイルの速度に呼応し、剣戟が冴えていく。
戦いはもはや、人間の技量を超えた神域の領域に達していた。
カイはその光景を、右膝の奥で鳴り響く脈動と共に静かに見つめていた。
カイの視線の先で、ゲイルがさらに加速した。
感情の高ぶりに呼応して、黒炎が竜巻のように渦を巻く。
ゴーレムが最後の一撃と言わんばかりに、槍を引き、ゲイルを見据え放たれた突きは音を置き去りにするほどの一撃であった。
「これで……決めるッ!」
ゲイルは地面を爆ぜるように蹴り上げると、その槍を黒炎の剣でいなし、ゴーレムの懐へと飛び込んだ。
漆黒の炎を限界まで凝縮させた長剣が、一筋の巨大な闇の刃となって振り下ろされる。
ズシャァァァァァァァァァッッ!!
黒い刃に触れたゴーレムの胴体が一文字に両断された。
蒼い単眼の光がパチパチと明滅し、やがて完全に消え失せる。
凄まじい金属音と共に、ゴーレムの巨躯は上下に分断され、広場の白砂の上へと崩れ落ち停止した。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
静寂が戻った広場で、ゲイルは剣を鞘に納め、肩で息をついた。
その瞬間、待機していた学者たちが「うおおおっ!」という歓声と共に、ロープや木箱を抱えて一斉にゴーレムの残骸へ駆け寄ってきた。
「急げ! 今のうちに固定するんだ!」
「ロープを持ってこい! 頑丈に縛り上げるぞ!」
学者たちは切断されたゴーレムのパーツを囲み、まるで巨大な獲物を仕留めた猟師のように縛り上げ、手際よく箱に詰め込み始めた。
その様子を呆然と眺めていたカイが、近くで記録作業をしていた学者に声をかけた。
「……おい。お前ら、何をしてるんだ? 随分と準備がいいな」
学者はペンを走らせる手を止めずに、満面の笑みで答えた。
「いやぁ、このゴーレム、あまりに大きすぎて街へ持ち帰るのが不可能だと諦めていたんですけど、分解すればなんとかなると踏んで、準備だけはしていたんです。そうしたらゲイルさんが、ちょうどいいサイズに切り分けてくれましたからね!これで持ち帰れますよ」
「……いいサイズ、か」
カイは呆れたように肩をすくめた 。
ゲイルが死力を尽くして放った一撃が、学者たちにとっては「運搬に都合の良い解体作業」として感謝されていることに、当のゲイルも苦笑いを浮かべるしかなかった。
そして、そばにいた学者は「素晴らしい戦闘データだ……」と独り言を漏らしながら、再びゲイルの戦闘記録の集積作業へと没頭していった。




