第19話 試練の再戦と秘められた力(中編)
「神捨ての遺構」にある円形広場は、朝の光が差し込み、かつてのコロシアムのような厳かな空気に包まれていた。
広場の周囲では、エリーナの指示を受けた数人の学者たちが、記録結晶や機材を広げて熱心に作業を進めている。
その中央に、機能停止していたはずの灰色のゴーレムが、自己修復能力によって傷一つない姿で再び佇んでいた。
カイの隣で記録結晶を操作していた一人の学者が、巨大なゴーレムを仰ぎ見て感嘆の声を漏らす。
「それにしても、このゴーレム……あまりに巨大で重量もありますから、街へ持ち帰って分析することは不可能だと思っていました。ここで実戦データが取れるのは本当にありがたいことですよ」
それを聞いたカイは事もなげに答えた。
「そうか? 必要なら、帰り道に俺がこいつも担いでいこうか?」
学者は一瞬呆気に取られたが、カイの冗談、あるいは彼なら本当にやりかねない提案に、作業の手を止めて笑った。
「ははは! カイさんなら本当に担いでしまいそうですが、あなたには貴重なデータが集積される結晶機材を運んでもらわないといけませんから、それはダメですね」
「……まあ、そうだな」
カイが短く応じると、広場の中央で剣を構えるゲイルへと視線を戻した。
今回の再戦にあたり、ゲイルは自分自身に一つの制約を課していた。
それは、「最初は女神の祝福を使わず、純粋な剣技のみで戦う」ということだ。
「……行くぞ」
ゲイルが鋭く踏み込む。白刃が空を切り、ゴーレムの強固な装甲へと叩きつけられた。
ガギィィィンッ!!
『――Target capacity measurement……Synchronizing.』
ゴーレムの単眼が蒼く明滅し、ゲイルの剣速に合わせてその動きを加速させていく。
純粋な肉体の力だけでは、次第にゴーレムの圧倒的な質量の暴力に押し込まれ始めた。
「くっ……!」
ゲイルの呼吸が乱れる。
ゴーレムの巨大な剣が振り下ろされるたび、防戦に回るゲイルの体力が削られていく。
ついに強烈な一撃がゲイルの防御をこじ開け、彼は砂煙の中に激しく叩きつけられた。
ゴーレムが冷酷な蒼い光を宿し、トドメの一撃として巨大な長剣を高く振り上げる。
「ゲイル……」
エリーナがゲイルの名を呼んだ瞬間、ゲイルの瞳に、自らの無力さへの怒りとカイへの激しい嫉妬が、苛烈な火花となって散った。
(……このまま、終わらせてたまるかッ!)
「おおおおおおおッ!!」
ゲイルの咆哮とともに、彼の全身から禍々しくも苛烈な黒炎が爆発的に噴き出した。
女神から授かった「嫉妬」を糧とする祝福が、彼の身体能力を人智を超えた領域へと押し上げる。
ゲイルは地面を爆ぜるように蹴り上げると、振り下ろされたゴーレムの巨剣を紙一重で回避。
そのまま、黒炎を纏った一閃をゴーレムの右腕へと叩き込んだ。
ズシャァァァッ!!
黒い炎に触れたゴーレムの装甲が容易く両断され、巨大な右腕が広場に斬り落とされた。
だが、ゴーレムは止まらない。欠損した部位から魔力の火花を散らしながら、その単眼が凍てつくような深い蒼へと変色していく。
『――Capacity expansion……Re-measuring……Synchronization started.』
無機質なシステム音声が響き、ゴーレムの全身から、これまでとは比較にならないほどの魔力が溢れ出し始めた。




