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第18話 巡る追走と新生の絆(中編)

「ふぅ……さて、と」

 カイは深く息を吐き、視線を周囲へと巡らせた。

 その先では、激闘を支え抜いた大山羊が、荒い息をつきながらゆっくりと歩みを進めていた。

 その身体には数々の傷が刻まれ、神聖な毛並みは土と血で汚れている。

 大山羊は崩れかけた遺跡の中央──古びた石碑の前まで辿り着くと、静かにその場へ身を横たえた。

「おい、大丈夫か……!?」

 ゲイルが慌てて駆け寄ろうとした、その時だった。

 ──ふわり、と。

 大山羊の身体から、柔らかな黄金の光の粒子が溢れ出し始めた。

 それはまるで夜空を彩る星屑のように空中に舞い上がると、戦闘の衝撃で砕け散った石柱や、亀裂の入った石碑へと吸い込まれていく。

 光が触れた場所から、まるで時間を巻き戻すかのように石の傷が塞がり、失われた文様が鮮やかに復元されていく。

 遺跡全体が温かな光に包まれ、静かな神気が満ちていった。

「これは……遺跡を直しているのか?」

 ゲイルは息を呑み、その光景を見つめていた。

 やがて、遺跡が完全に元の静けさを取り戻すと、大山羊を包んでいた光が一際強く輝き、凝縮していく。

 輝きが収まった時──そこに大山羊の巨躯はなかった。

「……メェ」

 静まり返った石碑の傍らに残されていたのは、一匹の白い仔山羊だった。

「嘘だろ……」

「……ハヌと一緒だな」

 驚くゲイル、懐かしむカイ。

 仔山羊は大きな瞳をパチパチとさせ、少し不安そうに耳をピクピクと揺らした。

 ハヌがカイの肩からそっと降り、仔山羊の鼻先に自分の鼻先をちょんと合わせる。

 仔山羊は安堵したように「メェ……」と小さく鳴くと、トコトコと覚束ない足取りで歩き出した。

 そして、まだ興奮の余韻が残るゲイルの足元へ近づき、その脚にそっと頭を擦り付けた。

「な……俺か?」

 ゲイルは驚きに目を丸くし、そっと身をかがめて仔山羊の頭に手を添えた。

 仔山羊は気持ち良さそうに目を細めている。

「ハヌの時もそうだったが、力を使い果たしたのか、役割を終えて新しく生まれ変わったのか……。それにしても、ゲイルによく懐いているな」

 カイがその光景を見守りながら呟くと、ゲイルはどこか照れくさそうに咳払いをした。

「……共に戦った俺を……というよりも、俺に祝福を与えた女神のことを、覚えているのかもしれん」

「……ゲイル、あの黒い炎は一体なんだ?」

 カイの問いに、ゲイルは長剣の柄にそっと手を置き、真剣な眼差しを向けた。

「……剣と感情を司る女神の祝福だ。私にも力を与えてくださったのだ……お前を越え、エリーナ様を守るための力をな」

「神様の祝福か……俺の膝もそうだけど、感情を司るってなんだろうな?……まぁ、来てくれて助かったよ」

「ふん……別に貴様を助けるために来たわけではない」

 ゲイルはそっぽを向いたが、その表情には以前の刺々しさは消えていた。

「……それじゃあ、一度エリーナたちのところへ戻ろう」

「ああ。ここでの戦闘音はあちらまで届いていたはずだ。無用な心配をかける前に合流すべきだな」

 ゲイルが仔山羊を優しく抱き上げると、仔山羊はゲイルの腕の中で安心したように身を委ねた。

 カイは膝に意識を集中させ、軽く拳を握った。 

 一歩を踏み出す準備を整え、二人はエリーナたちの待つ「神捨ての遺構」へと足並みを揃えて駆け出した。


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