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第18話 巡る追走と新生の絆(前編)

 ──ズゥゥゥンッ!!

 地響きと共に、巨大な魔獣の尾が森の樹木を薙ぎ払い、砕けた木片が爆風となって吹き荒れる。

「……タフだな!」

 カイは右膝に宿るカリウスの疾風の如き力で地面を強く蹴り、紙一重の差で破壊の衝撃を回避した。

 視界を埋め尽くす巨躯。

 その猛攻の隙を突き、カイは跳躍し一瞬にして魔獣の頭上へと移動する。

「喰らえ!」

 右膝に力を集中させ、魔獣の頭蓋めがけて鋭い膝蹴りを叩き込んだ。

 ガンッ!! と甲高い衝撃音が木霊し、魔獣の巨体が大きく揺らぐ。

「ウキャァッ!」

 その瞬間、カイの肩に乗っていたハヌが躍り出た。

 ハヌは素早い動きで魔獣の眉間へと飛び移ると、小柄な身体からは想像もつかないほど重い打撃を鼻先へ叩き込み、魔獣の視界を眩ませる。

 そして、反動を利用して空中でくるりと回転すると、着地したカイの肩の上へと見事に舞い戻った。

「よくやった! ……ゲイル!」

「遅れはとらぬ!」

 猛火の如き騎士が、苛烈な声で応じる。

 ゲイルの握る長剣には、陽炎のように蠢く漆黒の炎──女神から与えられた強靭なる祝福が激しく燃え盛っていた。

 魔獣が怒りに狂い、ゲイルへ向けて太い前脚を振り下ろす。

「はああぁぁッ!」

 ゲイルは退くことなく、剣身でその巨腕を受け流し、滑らかな足さばきで身を翻しながら、魔獣の側腹部を切り裂いた。

 ズシャァァッ! 黒炎に触れた鱗が燃え上がり、深い傷口から青黒い血が噴き出す。

 さらに角張った尾がゲイルの死角から迫る──だが、それを阻んだのは巨大な大山羊だった。

 メェェェッ! と勇猛に鳴き声を上げた大山羊は、立派な角を突き出して魔獣の尾を正面から受け止め、強靭な首の力で強引に弾き返す。

 そしてゲイルと視線を交えた瞬間、共に駆け出し、跳躍したゲイルの足元に体を滑り込ませた。

 ゲイルはその角を力強く蹴りつけ、さらなる高みへと跳躍した。

「はあああああっ!」

 ゲイルの剣撃の速度が増していく。

(追いつく……いや、追い越す! 神の祝福を得たのは、お前だけではないのだッ!)

 カイの超人的な脚力に負けじと、ゲイルの胸中に燻る猛烈なライバル心が黒炎の勢いをさらに増させ、その剣閃は一筋の黒い光と化していく。

「まだまだ!」

 ゲイルの加速に引きずられるように、カイの膝も熱を帯びる。

 カイの踏み込みが一段と鋭くなり、二人の動きはもはや森の木々を揺らす光の疾走と化していた。

 魔獣が追い詰められ、喉の奥で魔力を暴発させようと顎を大きく開いた、その一瞬──。

「ここ!!」

「させるか!」

 二人の声が交差し、極限の集中が戦場を支配した。

 カイの身体が閃光となって弾け、一瞬で大鰐の懐へ潜り込む。

 右膝に全力を集約させた、目にも留まらぬ膝蹴りが大鰐の下顎を撃ち抜く。

 同時に、頭上から舞い降りたゲイルが、黒炎を限界まで凝縮させた長剣を両手で振り下ろした。

 ズドォォォォンッ!!

 閃光の膝蹴りと黒炎の剣戟が同時に大鰐の急所を穿ち、衝撃波が吹き荒れる。

 魔獣は一瞬だけ硬直し、そのまま絶叫をあげる間もなく地面へと崩れ落ち、黒い霧となって霧散した。

 しんと静まり返る森の中。

 激しい息吐くゲイルは、黒炎が消えた長剣を鞘に納め、額の汗を拭いながらカイを睨みつけた。

「ハッ……見ただろうカイ。最後に息の根を止めたのは、俺の剣だ」

 勝ち誇ったように言い放つゲイルに対し、カイは肩のハヌと顔を見合わせると、可笑しそうに息を吐き出して適当に手を振った。

「ゲイルが一番だよ。大活躍だったな」

「くっ……その生返事はなんだ! 貴様、真面目に答えろ!」

 悔しそうに拳を握るゲイルと、それを軽口でいなすカイ。

 死闘を終えた二人の間には、以前のような険悪な空気ではなく、確かな絆と信頼の余韻が漂っていた。


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