第15話 遺構に眠る試練(中編)
――ガァァンッ!!
空気を引き裂くような金属音が響く。蒼い光を単眼に宿したゴーレムの踏み込みは、先ほどまでとは完全に一線を画していた。
長剣が、まるで陽炎のようにブレて視界から消える。
「くっ、……ッ!」
カイは着地の間際、膝の力を爆発させて横へと強引に軌道を変えた。
直後、数瞬前までカイがいた地面が、ゴーレムの容赦ない一撃によって文字通り「爆発」するように砕け散る。巻き上がった石の破片が、容赦なくカイの頬をかすめて血を滲ませた。
能力同調――。
カイの驚異的な跳躍と回避力に呼応し、このゴーレムは自らの出力上限を引き上げたのだ。
間髪入れずに次の斬撃が迫る。縦、横、斜め。
死線が網の目のようにカイへと襲いかかる。
あまりの超高速戦闘に、もはや思考を挟む余裕すらない。
(――もっと深く、イメージしろ!)
カイは全身の感覚を研ぎ澄ませた。
右膝の奥で熱く脈動する神からの祝福。
それを膝だけに留めず、足裏、太もも、そして体幹へと、全身の関節へとなだれ込ませていく。
世界が、さらに遅くなる。
嵐のような剣撃の隙間、その軌道が、光の筋のようにカイの脳裏に見え始めた。
ゴーレムが大きく右腕を引く。最大出力の突きが放たれる、その直前。
時間にして一秒にも満たない、神速の世界が生み出した『一瞬の隙』。
「そこっ……!!」
カイの身体が、前へと弾け飛んだ。
迫る長剣の切っ先を、首を僅かに傾けるだけでかわし、限界まで肉薄する。
狙うは、激しい駆動によって装甲の隙間から剥き出しになった、胸部の中央で妖しく明滅する「青色発光体」――!
ドンッ!!
カイの鋭い膝蹴りが、正確無比にその発光体へと撃ち込まれた。
パキィン、と硬質なガラスがひび割れるような音がコロシアムに響く。
『――Critical error……Warning, Core damage.(致命的エラー……警告、核心部破損)』
ゴーレムの巨躯が、初めて大きくよろめいた。
だが、カイの手応えはまだ「浅い」。
この一撃だけでは、この化け物を完全に止めるには至らないと直感していた。
「――まだ!」
カイは発光体を蹴りつけた衝撃をそのまま利用し、弾かれたように後方へと大きく跳躍した。
大きく距離を取り、空中を舞いながら、限界まで両膝を引き込む。
着地と、同時。
バネのように深く縮んだカイの両膝が、カイのすべてを乗せて、爆発的な力で地面を蹴り上げた。
ドォォォンッ!!
踏み台にされた石畳がクモの巣状に割れ、凄まじい衝撃波が後方へと吹き飛ぶ。
それは跳躍というよりも、放たれた弾丸のようだった。
超高速の矢となったカイは、よろめくゴーレムの顔面めがけて、跳びかかった。
「これで!!」
空中で完全に無防備となったゴーレムの頭部へ、カイのすべてをかけた、渾身の膝蹴りが炸裂する!
バギィィィィィィィィンッ!!!!
これまでで最も激しい衝突音と、凄まじい風圧が広場を吹き荒れた。
ゴーレムの巨躯が大きくのけぞり、その足元がずずず、と数メートルも後方へと引きずられる。
カイは鮮やかにバックステップを踏みながら着地し、荒い息を吐きながら身構えた。
砂塵がゆっくりと晴れていく。
そこには、頭部を大きく損壊し、胸の発光体の輝きをパチパチと明滅させているゴーレムの姿があった。
ゴーレムはゆっくりと右腕の剣を下げると、完全に動きを止めた。
『――Training completed. System shutdown.』
再び響いた未知の言語。
それを最後に、ゴーレムの単眼から完全に光が消え失せ、巨大な石の身体は物言わぬ彫刻のように、その場に停止したのだった。




