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第14話 神捨ての遺構(後編)

 突進してくる灰色の巨躯は、その見た目からは想像もつかないほど高速で移動し、一瞬でゲイルとの距離を詰める。

「おおおおおッ!」

 ゲイルが雄叫びを上げ、渾身の力で長剣を振り抜いた。

 ガギィィィンッ!!と、鼓膜を震わせるほどの激しい金属音がコロシアムに響き渡る。

 長剣の刃が、ゴーレムの強固な前腕と正面から激突したのだ。

 激しく火花が飛び散る中、ゲイルは両腕に強烈な痺れを覚えながらも、踏み込んでその一撃をどうにか押し返した。

 一合の交錯。

 ゴーレムは一度滑るように後ろへと退がり、ゲイルとの距離を取った。

 だが、安堵する間は与えられない。

 距離を取ったゴーレムの右腕の表面を、魔術的な紋様が妖しく明滅しながら走る。

 次の瞬間、その灰色の右腕がドロリと形を変え、ゲイルの持つそれよりも一回り巨大な、鈍く光る「長剣」へと変形を遂げた。

「……ッ、武器を形成しただと!?」

 ゲイルが驚愕に目を見開いた瞬間、ゴーレムは地響きを立てて再び肉薄してきた。

 先ほどまでの単調な突撃ではない。その巨躯に見合わぬ流麗な踏み込みから、変形させた右腕の長剣が容赦なくゲイルへと振り下ろされる。

 ギィィン! ガガッ! キィィンッ!

 激しい剣戟の音が、コロシアムに反響する。

 ゲイルは一歩も引かずに長剣を振るい、ゴーレムの猛攻をことごとく受け流し、時に切り結んで火花を散らせていく。

 だが、相手は疲労を知らぬ鉄塊だ。

 打ち合うたびにゲイルの呼吸は荒くなり、じわじわと体勢を崩されていく。

「ゲイル……! くっ、これじゃあ術が撃てない……!」

 後方に下がったエリーナは、杖を握りしめたまま焦燥に駆られていた。

 魔力を練り上げ、攻撃魔術を放とうとタイミングを計っているが、ゲイルとゴーレムが至近距離で激しく動き回り、刃を交え続けている。

 今術を放てば、確実にゲイルを巻き込んでしまう。

 エリーナは術の発動を必死に抑え、機をうかがっていた。

(俺に……俺にできることは何だ……!?)

 離れた位置から戦況を見つめるカイの額から、冷や汗が伝い落ちる。

 元々好戦的ではないカイは、戦うための武器など持っていない。

 本来なら前線は騎士であるゲイルに任せるべきだし、そうしたかった。

 だが、今ゲイルが防戦一方になっているのは誰の目にも明らかだった。

 その時、カイは右膝へと意識を向ける。ドクン、ドクンと、祝福が膝の奥で静かに脈打っている。

 カイの脳裏に、あの『禁忌の森』での記憶が鮮明に蘇った。

 あの時もそうだった。圧倒的な力を持つ守護獣ハヌマンや魔獣を前にして、自分はただ逃げるだけでなく、生き残るために、そして目的を果たすために、この膝の力を使って文字通り泥臭く食らいついたのだ。

(武器がなくても、この脚なら……!)

 ――その直後、戦局が最悪の形で動いた。

「が、はっ……!?」

 ゴーレムの放った、変則的な横薙ぎの一撃。

 ゲイルは辛うじて長剣の腹で受け止めたものの、その圧倒的な質量と衝撃を殺しきれず、弾き飛ばされた。

 受身を取りきれず、ゲイルが砂煙の中に倒れ込む。

 長剣を手放しはしなかったが、即座に立ち上がるだけの余裕はない。

 ゴーレムの青い単眼が、倒れたゲイルを冷酷に見下ろした。

 右腕の巨大な長剣が、トドメを刺すために高く振り上げられる。

「ゲイル――ッ!!」

 エリーナの悲鳴のような叫びが響く。

 その瞬間、カイの身体は、思考よりも先に弾かれるように動き出していた。

 戦いを避けてきた心が、仲間の危機を前にして、恐怖を塗りつぶす。

 ドンッ!!と、白砂を派手に爆散させて地を蹴った。

 カリウスの祝福が宿る右脚は、一歩の踏み込みで空間を置き去りにするほどの推進力を生み出す。

 凄まじい風切り音を立てながら、カイはまっすぐにゴーレムの元へと猛進する。

 その速度のまま、地面を力強く踏み締め、虚空へと跳び上がった。

「そこから……離れろ!!」

 剣を振り下ろそうとするゴーレムへ向けて、カイは空中で身体を鋭く捻り、自身の「右膝」を突き出した。

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