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第11話 騎士と信頼(中編)

 あの大猪の群れとの戦闘から、さらに二日が過ぎた。

 調査隊の進行速度は、目に見えて向上していた。

 かつてのように先頭で虚勢を張り、無駄な指示を出して隊を混乱させるゲイルの姿はもうない。

 彼は常に冷静に周囲を索敵し、他の騎士や斥候たちと連携を密に取りながら、実に模範的な指揮官として活躍していた。

(……おかしいわ。信じられない)

 先頭を歩くエリーナは、チラリと横目でゲイルの横顔を盗み見ながら、胸の内で小さく溜息をついた。

 あれほど傲慢で、少しでも自分に良いところを見せようと空回りしていた男が、人が変わったように有能な騎士となっている。

 大猪との戦闘の時も、自分の手柄をこれでもかとまくし立てていたはずなのに、私を一瞥しただけで、すぐに事後処理へと移ってしまい、その後の戦闘でも同様に、別人の様になっている。

 何かがあったのだ。

 あの濃霧の崖道から、カイと共に生還した、あの瞬間に。

 エリーナは何度もゲイルに声をかけようとした。

 しかし、進軍中も休憩中も、ゲイルは常に張り詰めた緊張感を崩さず、周囲の警戒や隊員への指示に奔走しており、とても私的な疑問を挟めるような状況ではなかった。

 二日の間、聞きたいのに聞けない、もどかしい時間がただ過ぎていった。

 その日の夕刻。

 野営の準備が整い、周囲が暗くなり始めた頃、エリーナは一つの決断を下した。

 まずは、もう一人の当事者である男から話を聞くべきだと。

「カイ。少し、いいかしら」

 野営地の隅で、荷物を下ろし、装備のメンテナンスを行っていたカイに、エリーナは声をかけた。

 カイは表情を変えないまま、手元を動かすのを止めてエリーナを見る。

「なんだ、エリーナ」

「単刀直入に聞くわ。あの崖道で、あなたとゲイルが滑落した時……谷底で、一体何があったの?」

 エリーナの真っ直ぐな視線。

 だが、カイの平坦な瞳は揺るがなかった。

 カイはただ、いつも通りの淡々とした口調で返す。

「滑り落ちそうになった俺をゲイルが命懸けで助けようとして、そのまま二人で落ちた。それだけだ」

「嘘よ。それだけで、あのゲイルがここまで変わるはずがないわ。彼はまるで、自らの命を何かに捧げるような、悲壮な覚悟すら漂わせている。……あなた、彼に何か言ったの?」

 じっと問い詰めるエリーナに対し、カイはわずかに肩をすくめた。

「俺はただの荷物持ちだ。騎士様に説教できるような立場じゃない。……。」

 完璧なまでの壁。

 これ以上この男をここで追及しても、無駄に時間を費やすだけだ。

 エリーナは小さく奥歯を噛み締めた。

 はぐらかすカイと、心を閉ざしたように任務に邁進するゲイル。

 男二人が揃って何かを隠している。

 調査隊の最高責任者として、そして一人の人間として、これ以上の不透明さを残しておくわけにはいかなかった。

 何よりもエリーナはゲイルの変わりようが気になって満足に休めていない状況を解消しなければならなかった。

「……分かったわ。しびれを切らした、と言うべきかしらね」

 エリーナは冷徹なまでの声音で呟き、カイを真っ直ぐに睨みつけた。

「カイ。今夜、私のテントへ来なさい。――徹底的に話をさせてもらうから」

 カイは眉ををわずかに細めたが、それ以上は何も言わなかった。

 真実の幕が、今夜、ついに暴かれようとしていた。


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