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第5話 未知への随行者(中編)

 天幕の周囲には、鉄で補強された頑丈な木箱や、奇妙なガラス管が組み込まれた繊細な機材が山のように積み上げられている。その前で、数人の調査員たちが焦った様子で言い争っていた。

 カイが天幕の入り口へと近づくと、中から一人の少女が姿を現した。

 格式高い紺色の礼装を着こなした、少し気の強そうな美少女。

 年齢はカイの少し下といったところか。

 彼女は忙しそうに、周囲の大人たちへ指示を出していた。

 その佇まいからは並外れた知性と、確かな自信が漂っている。

 彼女こそが、この学術調査隊を率いる大富豪の令嬢にして、若きエリート魔術師――エリーナ・ヴァルハイトだった。

「……あら? ギルドの依頼を見て来たのかしら」

 エリーナは凛とした声で言いながら、カイの姿を頭の先からつま先まで鋭い視線で観察した。

 その視線が、カイの野生動物のように引き締まった脚に留まる。

「へぇ……プロの運び屋の方ね。少しは期待できそうだわ。」

 彼女は、カイの脚を一目見ただけで、彼が並の冒険者とは違う「本物の運び屋」であることを見抜き、満足そうに腕を組んだ。

「私はエリーナ・ヴァルハイト。今回の古代遺跡調査の責任者よ。あなたの名前は?」

「運び屋をやっているカイと言います。どんなに足場が悪かろうが、安全に荷物を運んでみせますよ」

 カイが落ち着いた口調で答えると、エリーナは「不敵なことを言うのね」と口元をわずかに緩めた。

 だがその時、カイの背中のバックパックがモゾモゾと動き、中から白銀の毛並みを持った小さな子猿がひょこっと出てきた。ハヌだ。

 人懐っこい目でエリーナをじっと見つめ、小さな4本の腕をパタパタと振った。

「きゅぃ?」

「……え?」

 ハヌを見た瞬間、それまでお堅いエリートの顔をしていたエリーナの表情が一変した。その大きな瞳が限界まで見開かれ、顔がみるみるうちに上気していく。

「な、何、その生き物……! 小さくて、白銀の毛並みで……それに、腕が4本……!?」

 エリーナは慌ててカイの後に回り込むと、背中のハヌを覗き込んだ。

「きゅーぅぃ」

 ハヌが器用に4本の小さな腕を伸ばし、エリーナの白く細い指をぎゅっと包み込むように握りしめる。

「かわ、可愛い……! なんて愛らしいの……! 」

 ハヌにメロメロになっているエリーナが満足するまでカイは微動だにせず立ち尽くしていた。


「ハッ……じゃなくて! ちょっと待ちなさい、腕が4本にこの特徴的な毛並みの猿、まさか……!」

 エリーナはハヌの手の温もりに悶えつつも、その頭脳を高速で回転させた。

 学校に眠るあらゆる古文書や歴史書、生物の記述を完璧に記憶している彼女の知識が、ハヌの姿と一気に結びついていく。

 彼女はハッと息を呑んでカイを見上げた。

「あなた、この子の正体を知っていて連れているの!?」

「いや、ただの珍しい子猿だと思ってた。禁忌の森を抜けるときに懐かれただけだ」

「ただの子猿なわけないでしょう! 腕が4本、白銀の毛並み、そしてこの圧倒的な可愛さ……は別として、間違いないわ。この子は、神話の時代に『森の守護獣』や『神の使者』と称された伝説の超希少生物、【ハヌマン】よ!」

「ハヌマン……?」

 初めて聞く名前に、カイは眉をひそめた。

「そうよ! 成長すれば圧倒的な神聖魔力を操り、4本の腕で天をも割ると古文書に記されている、実在すら疑われていた幻獣。……ハヌマンの子供については記述が極めて少ないというか、ほぼ無いのだけれど、文献に残るハヌマンの特徴と完全に一致するわ! 学術的にどれほど貴重か、あなた分かっているの!?」

 エリーナは立ち上がり、興奮のあまりカイに顔を急接近させてまくし立てた。

 膨大な知識を持つ彼女だからこそ、目の前にいる存在の「異常な価値」が誰よりも理解できてしまうのだ。

 カイは少し圧倒されながらも、肩の上に移動して「きゅぃ?」とのん気に首を傾げている小さな相棒を見つめた。

(……ハヌマンね。確かに禁忌の森では守護者って感じだったけど、今はその面影もなくなってただの大食いの子猿だよ……)


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